墨田区と隅田川、「すみ」の表記なぜ違う? 23区に幻の区名

合併区の名称、住民が納得せず紛糾した例も

人気があった区名候補
現在の区名投票で上位に挙がった名称
中央区中央、江戸、銀座、大江戸、日京
港区愛宕、青山、青葉、飯倉、三田
新宿区戸山、山手、新宿、早稲田、武蔵野
文京区春日、湯島、富士見、音羽、山手
台東区上野、下町、太平、隅田、浅谷
墨田区隅田、墨田、吾妻、隅田川、江東
江東区江東、永代、辰巳、清澄、東
品川区大井、東海、城南、八ツ山、港
大田区東海、六郷、京浜、池上、多摩川
北区飛鳥、飛鳥山、赤羽、京北、城北

(「新区名投票の結果」を基に作成)

1947年にできた新区名の歴史をひもといていくと、当用漢字表の存在だけでなく、合併する各区の住民が納得する名称を決める難しさもあらわになってきました。合併にあたり議会が紛糾した例もあります。

例えば、大森区と蒲田区が合併した大田区。「多摩区」「東海区」「六郷区」「羽田区」「大森区」などが候補に挙がりましたが、双方が納得できる名称がなかなか決まらず、最終的に両者から1字ずつとった「大田」に決まりました。

台東区でもなかなか決着がつかず、区名が決まったのは発足のわずか2週間前。下谷区と浅草区の合併区名案は「上野区」「下町区」「太平区」「浅谷区」などがありました。「上野浅草区」案には浅草区民から強い反発が出たといいます。結局、上野の高台を意味する「台」とその東にある浅草を表す「東」で「台東」に落ち着きました。

また、台東区の候補に「隅田区」、墨田区の候補には「江東区」がありました。隅田川は台東区にも流れていますし、江東区の「江」は隅田川を指し、隅田川の東に位置する墨田区の案としては納得がいきます。墨田、台東、江東の3区で隅田川に関連する名称が候補になったことは、それだけ隅田川が住民に親しまれていたことの表れといえそうです。

「平成の大合併」で平仮名や片仮名も登場

自治体の名称変更で記憶に新しいのは2000年代に入って進んだ「平成の大合併」。常用漢字表の影響はそれほどなかったと思われますが、65年前の東京のように新名称の選定で議論が紛糾した自治体もありました。なかには漢字から離れ、さぬき市(香川県)、南アルプス市(山梨県)のように平仮名や片仮名を使ったところも出てきています。

時は移り新しい地名が浸透する一方で、旧称を懐かしむ人もいることでしょう。古くからの住民と新しい住民とではその地名に対する思い入れに温度差がある場合もあります。自分が現在住み、かつて暮らしていた土地の名前にはどんな歴史があったのか。ゆかりの地に思いをはせながら、そんなことを調べていくと、その土地や地名に対して違った見方ができるようになるかもしれません。

(岩崎雅子)

▼当用漢字表 1946年(昭和21年)、現代の国語を書き表すために日常使用する漢字の範囲を1850字で示したもので制限色が強い。後に音訓表(1948年)、字体表(1949年)が示された。東京の新区名を決めたときは音訓表はできていなかったが、読みやすい音訓にするという当時の強い意識が区名選定に影響した。1981年、国語表記の目安とされる常用漢字表(1945字)制定により廃止されたが、1850字はすべて取り入れられた。2010年に改定された常用漢字表は2136字。ちなみに「隅」は1981年の常用漢字表の段階で入れられた。