カムバック社員光る 古巣で働けば即戦力に
三井物産法務部で投資案件などの法律業務に携わる大橋奈都子さん(36)は約2年間、会社を離れていた。同じ会社に勤める夫のメキシコ赴任に同行するため、2009年に退職したのだ。
同社は07年、配偶者の転勤で退職した人を再雇用する制度を始めた。大橋さんは「選択肢があるといい」と思い、利用のための登録手続きをした。メキシコ滞在中はスペイン語を習得し、出産を前に夫より早く帰国。面談4回を経て11年5月、三井物産に正社員として再び入社した。
復帰後は退職前と同じ法務部へ。給与水準もほぼ変わらなかった。「スペイン語の書類が読めるようになったし、おおらかなメキシコ人の影響を受けて自由にものを考えられるようになった」。ブランク中の自己研さんがプラスに働いている。
この制度は勤続3年以上の正社員なら男女問わず退職後5年以内に利用できる。将来の利用を見据えて、現在名前を登録中の25人はみな女性。制度を通じて復職する人がここ2年ほどで出始めた。同社は専門性の高い人材の中途採用もしているが「会社になじんでもらえるかはわからない」(人事総務部)。それなら新卒時から教育し、成果が期待できる元社員に戻ってもらおう、という考えだ。
りそな銀行の加藤美紀さん(32)は、12年9月に古巣の経営管理部にパート社員として戻ってきた。パソコンを触るのさえ久しぶりだったが、今では経営データの集計を難なく使いこなす。10年に夫の海外転勤と妊娠が重なり、やむなく退職。念願の同部で軌道に乗っていた時期だっただけに「いつかまた働きたい」という思いが強く、夫の帰国が決まると同時に復職を決めた。
同銀では03年の公的資金注入後、組織改革を実施。女性行員の活躍も重要課題になり、06年に再雇用制度を設けた。
正社員・パートとして1年以上勤めた人なら、出産や育児などの退職理由は問わず、退職期間の制限もない。筆記試験や面接を受けてパートとして復職し、半年(退職前と合わせて通算3年)以上たてば正社員に進む試験も受けられる。加藤さんも正社員への登用、管理職を目指している。
労働政策研究・研修機構の池田心豪副主任研究員は「再雇用制度が本格的に広がったのは企業に両立支援計画の策定が義務付けられた05年以降だ」と話す。
共働きの増加を背景に、配偶者の転勤に伴いやむなく退職する人もいる。そうした元社員も再雇用する制度の意義は高まっている。
再雇用の期限は退職後3~5年が一般的だが、りそな銀のように何年たっても復帰できる会社も出てきている。さらにクボタは正社員として復職できる制度を12年9月に設けた。競争力をさらに高めるために事業内容や人材育成などを再検討していく過程で、女性の活躍支援も課題の一つに浮上したという。
「PTA活動でリーダーシップを磨いたり、語学を身につけたり、離職期間が必ずしもブランクになるとは限らない」(同社)。これまで3人が3~10年以上の離職期間を経て復帰している。
フルタイムで復職するのが難しい場合に対応する企業も出てきた。洗剤製造・販売のサラヤ(大阪市)のグループは、元社員に業務を委託することで戦力化している。
小橋仁子さん(30)は関西で正社員として働いていた4年間、顧客のホテルや工場などで洗剤の使い方などを伝える食品衛生のためのサポート業務にかかわっていたが、結婚に伴い新潟県佐渡市へ移住した。
夫の仕事を手伝わなければならないが、自分の仕事も続けたかった小橋さん。今は業務委託を受けて新潟県内での食品衛生のサポートのほか、多いときは月15日ほど内勤もこなす。こうした業務を担う拠点はこれまで新潟になく、拠点のある埼玉県からの出張でまかなっていた。
経験者を活用すれば「社員の負担軽減にもなる」(人事部)。現在、全国に70人いるサポート要員の約1割が元社員だ。
第1子の出産を機に女性の約6割は仕事を辞める。ただ、支援が定着した一部の企業では育児を理由に退職する例が減っているようだ。
アサヒビールも、育児や介護で退職した後、何年たっても正社員に復職できる制度がある。利用者は少ないが「制度があるから安心して働けるという声がある」(人事部)という。
今後は男女を問わず、親の介護などに直面して、退職を余儀なくされる人が増える可能性がある。長期間離職しなければならなくなったらどうするか――。再雇用制度はそんな不安を事前に解消する効果もある。
(天野由輝子、赤尾朋子、宇野沢晋一郎)
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