粉飾企業の決算書には「ゆがみ」がある

日経マネー

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投資家の判断の最大のよりどころは決算短信や有価証券報告書だ。東芝の不正会計事件は記憶に新しい。意図的に公表数字を操作する粉飾事件は定期的に発生している。プロでも見抜くのは難しいといわれるが、実例の検証によって「粉飾銘柄」を見抜くポイントが見えてくる。

「粉飾決算の疑いがある」――。2010年5月、証券取引等監視委員会はその半年前に上場したばかりの半導体製造装置メーカー、エフオーアイの強制調査に入った。同社は上場前から架空の売上高を計上し続け、虚偽の有価証券届出書で上場していた。6月には上場廃止となり、市場の信頼性を大きく傷つけた。

その手口は組織ぐるみの悪質で手の込んだものだったが、「財務諸表には『疑わしき』数字が表れていた」と、公認会計士として活躍しながら、個別株投資も手掛ける足立武志さんは指摘する。具体的に見てみよう。

下表は同社が上場に際して提出した決算関連数値。売上高と営業利益は増えており、一見好調に見える。大きな違和感が残るのが営業キャッシュフロー(CF)の大幅なマイナスだ。「高成長企業だと売り上げの伸びに資金回収が追い付かないこともあるが、一般的にはおかしい」と言う。

そこで、決算短信のキャッシュフロー計算書をひも解くと、マイナスの原因が売上債権と棚卸資産にあることが見える。それを裏付けるように、貸借対照表には売上高の実に2倍近くに達する未回収の売掛金が計上されていた。

ここからはやや専門的になるが、その売掛金を何カ月で回収できるかを示す「売上債権回転期間」を計算すると、20カ月強。「一般的には2~3カ月」なので、明らかにおかしい状況が浮き彫りとなる。実際には、同社の売上高のほぼ全てが架空計上だった。

当時は誰も見抜けなかったので、「こうすれば分かる」という完全な手法はない。それでも、下のポイントにあるような項目を頭の片隅に置いておくだけで「違和感」は捉えやすくなる。

もっとも、悪さをする側も巧妙になっており、「営業CFが不自然なマイナスにならないよう、そもそもマイナスのことが多い投資CFにソフトウエアやのれんなどを架空計上することもある」ようだ。CF計算書や貸借対照表で急に増減している項目があり、原因が特定できない場合は距離を置くなど自衛策を講じた方が無難だ。

足立武志さん
公認会計士、税理士、ファイナンシャル・プランナー。資産運用に精通。『株を買うなら最低限知っておきたいファンダメンタル投資の教科書』など著書多数。

(日経マネー編集部 嶋田有)

[日経マネー2016年6月号の記事を再構成]

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