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「京都ベンチャー」の草分け的な存在の堀場製作所。髭(ひげ)の似合う英国紳士風の堀場厚会長兼社長は創業者、雅夫氏の長男だ。厚会長のもとで同社はグローバル企業に変身、グループ従業員約6800人のうち外国人が全体の6割を占める。堀場会長にまずグローバル人材の育成法などについて聞いた。

>> 堀場厚氏(下) 「出る杭は伸ばす」堀場流リーダー論

 グローバル人材を育成する上で重視していることは何ですか。

「グローバル人材と聞くと、日本人をグローバル化して海外の人材をマネジメントすることと思われがちだが当社はその逆だ。海外の人材をグローバル化していかに堀場グループと一体化させるかということに力を入れている。そのためには様々なしかけを用意している。例えば、滋賀県内にある研修センター『FUN HOUSE』で半年ごとに開く世界の経営幹部を集めた戦略会議もその一つだ」

「リゾートホテルを思わせるこの建物には暖炉なども備え、誰もがリラックスしやすい。会議自体は3日間、缶詰めになって英語だけで真面目にするのだが、食事を通じて一体感を高めるようにしている。1日目は鍋、2日目はバーベキュー、そして最終日は金閣寺近くにある当社のゲストハウス『雅風荘』ですき焼きやしゃぶしゃぶを食べて日本の文化に触れてもらう」

「当社は20年前から海外でのM&A(合併・買収)に乗り出した。まずフランスで2社、10年前にはドイツ、そして2015年は英国企業が新たに『ホリバリアン』(堀場製作所の社員)の仲間入りをした。外国人社員は増える一方だが、そうした人に違和感を感じさせないことが大切だろう。本社にある私の応接室にもこだわりがあって、あえて照明を少し暗めにしてある。こうするとリラックスしやすくなり、外国人社員が来てもお互いに本音ですぐに話ができるからだ。人材のグローバル化にその力を引き出せる環境づくりが欠かせない。例えば京料理。塗りのいい器に入っているからおいしく感じるのと同じだ」

 京都に本社があることはグローバル化を進める上でも都合がいいのでは。

堀場製作所会長兼社長 堀場厚氏

堀場製作所会長兼社長 堀場厚氏

「京都には1200年の歴史がある。世界中を見渡しても文化的に負けることはない。食文化や和装などを一つとっても、非常に品質の高い『ほんまもの』の作品が無数にある。一方で京都には様々なハイテクの新産業もある。京都というこの土地の中にはあらゆるものが凝縮している。京都人はあまり多くを語らない。それでもある程度の教育を受けて、京都のことを理解している人間がこの街に来ると、そこに本社を置く堀場という会社へのイメージも自然と出てくる。東京に比べた京都の特徴がアカデミアとの距離が非常に近いことがある。京都大学をはじめとする数々の大学があり、当社のような研究開発型の企業にとって不可欠な理系人材も多い。京都にいること自体が多くの強みを生んでいる」

 日本企業の海外進出は進んだものの、多くの企業が外国人をマネジメントする難しさに直面しています。

「数々のM&Aを通じて成長してきた当社は世界の各拠点がそれぞれ異なるバックグラウンドを抱えている。2010~15年の中期経営計画期間は『Horiba group is one company』をスローガンに一体化を進めてきた。当社の事業セグメントは自動車、半導体、医用、環境、科学の大きく5つある。それぞれがバラバラだったものを1つのオフィスに集約するなどして一体化を進めてきた」

「この一体化は決して強制してできるものではない。欠くことができないのが当社の社是であり企業文化でもある『おもしろおかしく』だ。15年7月に亡くなった創業者(父親の雅夫氏)が考えたものでグローバルでは『Joy&Fun』。ホリバリアン全体を一つにまとめる上では欠かせない。仕事は楽しいことばかりでなく、成果が出なく厳しいことも多い」

「でも我々は仕事を『おもしろおかしく』と創造的に捉える。職場は楽しい舞台であり、おもしろいと思って仕事に取り組まなければ独創的なものは何も生まれてこない。私たちはそういうスピリットで世界の拠点をマネジメントしている。買収したドイツやイギリスの企業も含めて研究開発型の企業だから、そういう考え方に共鳴を覚えてくれやすかったのかもしれない」

「過去のM&Aはどれも堀場のスピリットを魅力に感じた相手からの『逆プロポーズ型』だった。こちらから札束をはたいて敵対的なM&Aを仕掛けたということは一度もない。独自の企業文化に企業や、その親会社が皆『堀場と一緒にやりたい』といってくる。10年前に買収したドイツの企業は買収後も元の社名を一部で残そうと考えたが、彼らの要望で『ホリバオートモティブテストシステム』とホリバブランドでやることがすんなり決まった。『ホリバの一員としてすぐに仕事がしたい』と相手がプロポーズしてきた案件を買わないことはありえない」

 グローバル化を進める上では英語教育の充実も欠かせません。

「当社では20年以上前から外国人がいる会議では全て英語で実施している。当初は語学が堪能な海外事業部の社員が通訳をしていたが、ある時から通訳を廃止した。通訳に頼ると自分が伝えたいことが正しく伝わらない。下手な英語でもいい。自分自身の言葉で伝えた方が外国人に思いが伝わるし、外国人の方も真剣に聞こうとしてくれる」

「当社では若手を中心に毎年15人前後を公募で海外のグループ会社に1年間派遣する研修制度がある。売上高が約1700億円台の当社の規模でこれだけ海外人材の育成を重視しているのは珍しいのではないか。意欲ある人間はどんどん海外に出て活躍してもらう。1人を3回くらい海外での勤務を繰り返す。そうして5年以上の海外勤務経験がある人間は役員の6割、管理職の4割、一般社員でも15%を占めるまでになった」

「英語ができるから海外に送るというのは愚の骨頂。海外へ行ったら誰でも、子どもでも話している。英語を話せることは必要条件であって十分条件ではない。仕事の能力があってチャレンジマインドがあること。私は重視するのはその点だけだ」

 リーダー人材の育成で重視していることは何ですか。

「海外のビジネススクールに人を派遣するようなことはしない。ビジネススクールはある程度のビジネス経験を積んだ人間が整理をする場所にすぎない。基礎を学ぶにはよいが、卒業したら何でも出来ると勘違いしてしまいやすい。物事は教科書通りには進まず、現場での修羅場経験に勝る人材育成の方法はないと信じている。当社の経営陣は誰もがそうした修羅場の経験をしている」

「当社ではやりたい、と手を挙げたことに対して積極的に評価する。これは若手社員にとったらむしろ『失敗せい』と言っているのと同じことだ。現場の社員が何かしようと挑戦したら9割くらいは失敗するだろう。でもそれでいい。若手の失敗はいくらあっても会社の経営が傾くことにはならない。だから若い時に修羅場の経験をさせて、数々の失敗経験を積ませておきたい」

「当社は『人材再生企業』と自任している。失敗を繰り返して次へ次へと成長していけばいい。これが大企業になると違う。人材は豊富だからいくらでも替えが効く。だから失敗した人を次々に外していき、最後に残った人が社長となる。でも失敗経験のない人が最後に大きな失敗をして経営が傾いてしまう例が多い」

堀場厚氏(ほりば・あつし)
1971年甲南大学理学部卒、77年米カリフォルニア大学大学院電子工学科修了、71年4月オルソン・ホリバ社(米国)入社。72年堀場製作所入社。82年取締役海外本部長、92年に社長、2005年から会長兼務

(古川慶一、代慶達也)

>> 堀場厚氏(下) 「出る杭は伸ばす」堀場流リーダー論

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