工房シェア、「欲しい」を形に個人の知恵、企業も食指

工具の使い方の講習会も開く(東京都港区のテックショップ東京)
工具の使い方の講習会も開く(東京都港区のテックショップ東京)
木や金属などを加工する工具や3Dプリンターを有料で使える工房が増えている。ものづくりを趣味とする人の“好き”が高じて生まれるアイデアに、企業も注目する。

「アクリル板で作ったランプシェードの骨組みに色をつけようかな」。介護支援機器を開発する会社を経営する傍ら、趣味でランプシェードを作る秋山省一さん(55)は、材料を前に腕組みする。

月額制で使い放題

秋山さんが作業するのは、今年4月に開業したテックショップ東京(東京・港)。工房には立体物を出力できる3Dプリンターやコンピューター制御で木や金属を正確に切削する機械など約50種類の工具がある。基本的に月額1万8500円の会費で使い放題だ。「使ってみたい工具が色々ある。何でも作れそう」と秋山さんは顔をほころばす。

必要なものはたいがい買える時代になったが、趣味で手作りを楽しむ人は多い。工具や作業場を有料で使える工房は「シェア工房」や「レンタル工房」と呼ばれ、2011年以降、全国に少なくとも約30カ所できた。3Dプリンターや平面で精密な図を切り出すレーザーカッターといったデジタル工作機械を備えるところが多い。

メイカーズベース(東京・目黒)は、木工や金属加工、陶芸、革細工などの道具やデジタル工作機械を用意する。会員制だが、誰でも参加できアクセサリーや小物を作る有料の体験イベントも開く。

ホームセンターのカインズ鶴ケ島店(埼玉県鶴ケ島市)は15年、デジタル工作機械などがある工房を設けた。大工経験者らが工具の使い方を助言するほか木製の棚などを作る講座を開催。「10~20キロだった商圏が、工房利用者のおかげで30キロ程度に広がった」(カインズカルチャー企画室の塚越葉子室長)という。

開くと富士山が現れる大野さんの立体絵本「360°BOOK」

趣味からヒット商品も生まれた。昨年発売された立体絵本「360°BOOK 富士山」は、表紙と背表紙をくるりと360度回して開くと、精巧な富士山と鶴と太陽が現れる。白雪姫が題材の第2作と合わせ3万5千部売れた。

作者の建築士の大野友資さん(33)は、「建築は完成まで長期間かかる。趣味として、考えたものを手軽に形にしてみたかった」と話す。利用したシェア工房のコンテストでの受賞がきっかけで商品化した。3Dプリンターなどデジタル工作機械によって、熟練した技を持たない個人が精巧な作品を作って商品化しやすくなった。大野さんもレーザーカッターで精密な絵を切り出し製本した。

製品開発に活用

シェア工房増加の背景には、個人の発想を自社の製品開発に役立てようという大手企業の思惑もある。テックショップ東京を運営するのは富士通の全額出資子会社のテックショップジャパン(東京・港)だ。有坂庄一社長は「作る場を提供することで、様々な発想を持つ人とつながりができる」と狙いを語る。

ソニーも14年、東京都港区の本社に、社員の紹介で社外の人も使え、約20台のデジタル工作機械を備える工房を作った。新規事業創出部の田中章愛さんは「研究所ではわかりにくい普段の生活で感じるニーズをつかめる。工房を社外に開くことで社内になかった発想を形にできると考えた」という。

慶応大の田中浩也教授(デザイン工学)は「大量生産品が個人のニーズをとらえきれなくなっている一方で、趣味を突き詰めれば新たなニーズを発見することにつながる」とみる。例えばスポーツ中などに身につけて撮影する「アクションカメラ」の市場をほぼ独占するとされる米ゴープロは、サーフィンを趣味とする人が波に乗る動画を公開したいと考えたことが創業につながった。田中教授は「趣味と産業の境界線があいまいになっている」と話す。

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多彩な工具に興味津々「3Dプリンター、めっちゃ使いたい」

「3Dプリンターとか、木材加工とか刺しゅうミシンとかが使えるだと! めっちゃ行きたい使いたい」「金属加工用の設備もあるし行くしかない」。ネット上では、シェア工房で使える多彩な工具に関心を寄せる声が多かった。

ここ数年、3Dプリンターの価格が下がったといわれるが、安いものでも数万円はする。高価な機械を色々使えることが魅力のようだ。「いいなぁー、商業用機械を一気に使えるとか。テーブルとか棚とかつくりたい。刺しゅうミシンも80万で買えないし」

さらに一歩進むサービスをシェア工房に求める声も。「商品化相談コーナーや中小企業のネタ探しコーナー、ネットでのレンタルショップに連動できれば流行るのになぁ」。趣味にとどまらず事業のタネも見つけられるか。主な調査はNTTコムオンラインの協力を得た。

(大賀智子)

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