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日本株を左右する原油相場を読む(窪田真之) 楽天証券経済研究所所長兼チーフ・ストラテジスト

2016/4/26

「日本株を運用するに当たり、原油価格をどう読むかがきわめて重要になっている。日々の材料ばかり追いかけていると、世界の原油需給という根本問題を見失う」

昨年、原油価格の急落が世界の金融市場に大きなマイナス影響を及ぼしました。産油国があわてて世界中の株を売りまくったことが記憶に新しいところです。世界景気が悪化する不安も高まりました。

今年に入って原油相場は反発しているので、世界の投資家はとりあえずほっとしています。原油価格はいわば世界経済の体温計で、このまま順調に反発が続けば、世界景気不安にも歯止めがかかりそうです。

日本株を運用するに当たり、原油価格をどう読むかが、きわめて重要になっています。原油価格がここからさらに上がれば、日本株はさらに上昇するでしょう。でも、原油価格が再び急落すると、日本株も再び売り込まれるリスクがあります。これからの原油価格をどう見たらいいのでしょうか。

最近は原油先物相場が上がると日本株が買われ、原油先物相場が下がると日本株が売られる傾向が顕著です。原油先物は毎日の材料に反応して、上がったり下がったりしています。直近では石油輸出国機構(OPEC)加盟国・非加盟国によるドーハでの産油国会合で増産凍結の合意ができなかったニュースで下がりましたが、クウェートの産油量がストの影響で減るニュースが出ると上がりました。クウェートのストは収束に向かいましたが、原油先物相場は、意外としっかりしています。5月にロシアで産油国会議を開いて、増産凍結を改めて話し合うというニュースが下支えしているからです。

原油先物相場は、このように目先の材料に反応して、短期的に上がったり下がったりしています。毎日の材料ばかり追いかけていると、世界の原油需給がどう変わっていくのか、見失うこともあります。産油国会議ばかりに注目が集まっていますが、原油価格を動かすのは中東原油の生産動向だけではありません。(1)米国シェールオイルの生産が今年どれだけ減るか、(2)米国・中国の原油需要がどう変化するか――をしっかり見ていく必要があります。

OPEC月報(2016年4月号)によると、15年の世界需要は日量約9300万バレルで、前年比1.7%増えました。一方、15年の世界供給も日量約9500万バレルで、前年比2.9%増えました。需要は増加しましたが、供給がそれ以上に増加したというわけです。その結果、15年は日量約200万バレルの供給過剰が続き、原油価格が急落しました。

15年の供給量増加が一番大きかった国は、米国(日量約110万バレル増)です。米国のシェールオイルは生産コストが1バレル30~60ドルとされ、原油価格が一時30ドル以下に下がったことで、生産が大きく減るとみられていました。ところが実際には15年後半になっても米国のシェールオイルの生産はあまり減りませんでした。高コストの油井は生産停止に追い込まれましたが、低コストの油井が大幅に増産したためです。

ただし、米国のシェール油井の新規開発は大幅に減少しています。その影響で、16年後半には米国の原油生産の減少トレンドが鮮明になると考えられています。

今年は、経済制裁が解かれるイランが増産に意欲をみせています。イランが日量100万バレル程度増産する可能性があります。ただし、イラン以外の主要産油国が増産を凍結し、米国のシェールオイル生産が減少に向かえば、今年は、世界全体で供給の増加が抑えられるかもしれません。

それでは今年、原油需要はどれだけ増えるでしょうか? 世界需要に大きな影響を及ぼすのは米国と中国です。米国はエネルギー価格の低下によって、需要が伸びています。米国人の好きなガソリンを食う大型車の販売が好調で、小型車が販売不振になっていることからも、それはわかります。米国の原油生産が減少し、原油需要が増加することは、原油需給を引き締める効果があります。

最大の鍵を握るのは中国の需要です。中国の原油需要は、昨年11月、12月に前年比でマイナスに転じました。今年は中国景気が一段と冷え込み、原油需要が減少することが懸念されていました。

ところが今年の1、2月は中国の原油需要がプラスに転じています。意外にも1~3月に中国景気は持ち直したからです。1~3月の中国経済指標が堅調であったことを受け、エコノミストの間では中国の成長率見通しを引き上げる動きが出ています。国際通貨基金(IMF)は4月の世界経済見通しで、2016年の中国経済の成長率見通しを6.3%から6.5%に引き上げました。17年の見通しも6.0%成長から6.2%成長に上げました。

いったい何が中国景気の持ち直しに寄与したのでしょうか? ひとつの説は中国政府が年明けから公共投資の発注を増やしているというものです。中国では3月の全国人民代表大会(全人代)で、李克強首相が2兆元の大型公共投資を実施する方針を発表しました。その方針は昨年12月時点で決定していたと考えられます。10~12月の景気悪化を見て、1~3月から既に投資を増やしていた可能性があります。そう考えると、2月後半から原油など資源価格が一斉に反発していることも説明がつきます。

中国景気が持ち直すシナリオを、私はまだ半信半疑で見ています。中国経済は生産設備の過剰など構造問題を抱えていて中途半端に今、公共投資を増やすと、構造問題をさらに悪化させる懸念があります。そうはいっても中国は計画経済です。習近平国家主席の指示で、景気を回復させるために強引に公共投資の大幅積み増しを行えば、中国景気が持ち直すこともあり得ます。両方の可能性を考えながら、投資判断を行っていく必要があります。今は過度に楽観的にならず悲観的にならず、日本株の潮目が変わるのか、見ていく局面と考えています。

プロのポートフォリオは運用に精通したプロが独自の視点で個人投資家に語りかけるコラムです。原則火曜日掲載で、楽天証券経済研究所所長兼チーフ・ストラテジストの窪田真之氏とレオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者(CIO)の藤野英人氏が交代で執筆します。
窪田 真之(くぼた・まさゆき) 楽天証券経済研究所所長兼チーフ・ストラテジスト。1961年生まれ。84年慶応義塾大学経済学部卒業後、住友銀行(現三井住友銀行)入行。87年住銀バンカース投資顧問(当時)に出向、日本株ファンドマネジャー兼アナリスト。90年住友銀行証券部海外業務開発プロジェクトチームに異動、91年ニューヨーク駐在。92年住銀投資顧問(当時)日本株ファンドマネジャー、99年大和住銀投信投資顧問日本株シニア・ファンドマネジャー、2014年2月楽天証券経済研究所チーフ・ストラテジスト。15年7月から所長兼務。大和住銀投信投資顧問では日本株の運用歴25年のファンドマネジャーとして活躍した。99年の運用開始から13年まで担当した「大和住銀日本バリュー株ファンド」(愛称「黒潮」)は長期に安定した成績で知られる。金融庁企業会計審議会の会計部会臨時委員も務める。著書に「投資脳を鍛える!株の実戦トレーニング」(日本経済新聞出版社)、「クイズ 会計がわかる70題」(中央経済社)など多数。

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