保守的な出産・育児論 非合理なら即ツッコミ
私の頭の中には、ツッコミ神が1人住んでいる。体長50センチメートルほどのキューピー人形のような姿をしており、事あるごとに背中の小さな羽根をはためかせラッパを吹き鳴らし、ツッコミを入れてくる。
私の人生が暗夜行路なのは、このツッコミ神のせいもあるのではないかと思っている。出産・育児に関しても、この神はよくツッコミを入れてきた。
たとえば、出産後に病院で指導された「授乳期の食生活」について。「たばこ、アルコール、カフェインは禁止。控えるべきは、脂肪の多い乳製品、糖分や脂肪分の高い食品(揚げ物、肉料理、カレー、ラーメン、ピザ、菓子パン、洋食、中華料理等)香辛料全般」。すごい。広岡監督時代の西武ライオンズ選手並の節制推奨だ。
そんなことを考えていたら、神が羽ばたき、「ぷるるるるっぷー!」とラッパを吹いた。「カレーが駄目って、インド人の母親はどうするのー♪ 洋食や中華って、欧米人や中国人の母親はどうするのー♪」と。私はうっかりその神託を口に出しそうになり必死に思いとどまった。
たしかに厳格な禁止事項も、相応の根拠があるものならばしかたない。だがそれ以外で気になるのは、出産・育児に関する言説が、ひどく自文化中心主義的に見える点だ。異文化理解が求められている昨今だが、この分野に関しては保守的な意見が目立つ。
たとえば日本では、食生活は和食推奨。だが、たとえば欧米では「スシは食中毒の原因になるから駄目」などと、むしろ否定的だという。日本では、生魚より生ハムやステーキがそのように否定されがちだ。気になって海外の育児言説と比較検証してみたが、やはり日本の「母乳信仰」は根強く、母親の食事制限も厳しい傾向が見られた。
この母乳信仰が引き起こした事件としては、昨年7月に起こった「偽母乳」が記憶に新しい。ネット通販されていた業者の「母乳」は、脂肪や乳糖などの栄養分が一般的な母乳の半分程度しかない上、細菌類は最大で千倍も含まれていたという。
もちろん、伝統の知恵には根拠も利点もあろう。ただそれが行き過ぎた非合理的結果をもたらす可能性については、正しくツッコミを入れ続けたいと考えている。
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