部下を勇気づける人になる6つのポイント生産性を高めるコミュニケーション術(2)

人事コンサルティングで数多くの実績を上げた人事のプロ、新井健一氏の著書『いらない課長、すごい課長』(日経プレミアシリーズ)から、プロ課長のコミュニケーション術を紹介するシリーズ。2回目はコミュニケーションのポイントなる勇気づけの技術を詳細に解説する。

◆◆ 職場の生産性を上げる「勇気づけ」のコミュニケーション技術

《勇気くじき》 《勇気づけ》

減点主義   ⇔ 加点主義

ダメ出し   ⇔ ヨイ出し

結果重視   ⇔ プロセス重視

競争原理   ⇔ 協力原理

人格軽視   ⇔ 人格重視

聴き下手   ⇔ 聴き上手

失敗を非難  ⇔ 失敗を受容

尊敬と信頼で動機付ける

勇気づける人は、他者との関係において尊敬と信頼を重要視し、他者の重要感を満たそうとする。また尊敬・信頼する姿勢は、他者からの尊敬と信頼を勝ち得るための基本的条件となる(好意の返報性:返報性とは、他人がこちらに何かをしてくれたら、そのお返しをしたくなる心理的傾向)。

これに対して勇気をくじく人は、恐怖で他者を動かそうとする。他者を動かす原理として恐怖を用いた場合、その典型的な反応としてファイト・オア・フライト(戦うか、逃げるか)ということになる。

恐怖の与え方はさまざまだが、例えば「どうして君だけこんなこともできないんだ!」など、当人の自己重要感を日常的に著しく損なうような恐怖の与え方をするのは、絶対に避けるべきである。

そのような場合、当人はストレスにさいなまれてモチベーションが低下し、さらには働く意欲そのものも低下して、本来持っているはずの力を発揮できなくなってしまうだろう。

また脳生理学的な見地からすれば、創造性は右脳と左脳の連絡が活発に行われる際に発揮されるが、恐怖の存在は脳内の連絡を遮断し、その機会を失わせることになるのだ。

楽観的(プラス思考)である

勇気づける人は、楽観的あるいはプラス思考で他者に接することで、他者の行き詰まりを軽減、または解消しようとする。これにより、当人が新たな視点や打開策を見出す手助けをする(リフレーミング効果)。

これに対して勇気をくじく人は、悲観的あるいはマイナス思考で他者に接する。このような接し方は、当人を勇気づけることはおろか、さらに追い討ちをかけ、当人を落ち込ませる結果となる。

ただし、楽観的であるということは、現実から目をそらすことではない。どのような困難にも立ち向かう覚悟ができており、困難を克服するための努力をしつづけるタフさを持っていることが必要である。

なお、集団心理学の見地から、楽観的、プラス思考の人間ばかりで意思決定を行う場合、個人の見解よりはるかに楽観的な(無謀な)結論に至ってしまうことがあり得る(集団極化) 。

したがって、企業においては楽観主義者も悲観主義者も同様に存在する必要があり、リーダーは意思決定において両者のバランスを取るだけの知恵と柔軟性を備える必要がある。

目的(未来)志向である

勇気づける人は、問題解決のアプローチとして「結果志向」で他者に接することで、問題を起こした当人を責めることに終始することなく、その問題が解決した状態を当人と共有し、速やかに行動に移す。

これに対して勇気をくじく人は、問題解決のアプローチとして「原因志向」で他者に接する。このような接し方は、単なる犯人探しに終始し、なんら生産的な打開策に着手できないまま当人を苦しめる。

原因志向は、例えば不幸な環境や否定的な要因があり、現在、問題を抱えている場合、当人を被害者・犠牲者と見なすのみで、将来に向かって現状を変えていくための当事者意識や主体性を与えない。

また原因志向は、なぜ、どうしてという質問を誘発させることになり、その問いの後には過去の否定的材料が並ぶことになるのだ。このように過去に焦点を当てた否定は、互いの尊敬と信頼関係を傷つけることになる。

これに対して結果志向は、創造的・建設的に「自分は運命の主人公」として受け止め、現状に対して自らの意思で、能動的に対応していくことを手助けするアプローチである。

聴き上手である

勇気づける人は、他者の話に耳を傾ける真摯な態度とスキル(傾聴のスキル)を身につけることで、他者から重要な情報を引き出すとともに、当人が自発的に問題解決の糸口をつかむように仕向ける。

これに対して勇気をくじく人は、他者の話に耳を傾けず、一方的に自分の意見や命令を押し付ける。このような態度は、他者に尊敬を払わない態度の現れであり、当人のモチベーションを著しく低下させる。

聴き下手は、普段からマイナス情報を退ける行動を取っていることになる。そのため、不祥事原因が発生した際に、これに適切な措置を取るための必要な情報を入手できない場合が多い。

また聴き下手は、重大な不祥事の背後には、29件の小さな違反が存在し、その背後には300件の違反行動につながり得るマイナス情報が隠れていることを認識すべきである(ハインリッヒの法則)。

また聴き下手は、さまざまな情報が円滑かつスピーディーに伝達されることの重要性を認識し、相手のコミュニケーションスタイルにも配慮しつつ、自らの日常行動を観察、改善する必要がある。

大局を観る

勇気づける人は、より高くて幅広い視点、より長期的な視点から物事の本質に関心を持って行動し、他者に対してもまず本質的に重要なポイントを指摘してから、細部に言及するよう心がける。

これに対して勇気をくじく人は、木を見て森を見ない。他者の関心事や主張に目を向けず、例えば、「この文書の句読点は、位置がおかしい」「言葉遣いがおかしい」など枝葉末節な議論に終始する。

確かに、細部を指摘しなければならない仕事もある。ただし、細部にだけしか目を向けず、全体像を見失ってしまえば、本来であれば仕事の目的を達成するための指摘が、指摘のための指摘となる(手段の目的化)。

細部にこだわる人は、その人なりの価値観、物の見方を離れることができず、それを尺度とし他者に押し付けることになる。それでは他者に敬遠されるばかりで、ともに議論の質を高めることはできない。

これに対して大局を観る人は、自分の私的な論理に気付き、これを他者に伝えつつも共に議論の質を高め、他者と合意できるより幅広い感覚で対処することができる。

ユーモアのセンスがある

勇気づける人は、「他者を結びつける情動」と「他者と分離させる情動」の違いを理解し、前者の情動、すなわち笑いとユーモアを積極的に活用することで、他者と結びつき、希望を見出させようとする。

これに対して勇気をくじく人は、その悲観的、過去を志向した言動から他者をますます深刻にさせ、辛くさせる。このような態度は他者を周囲から分離し、閉鎖的な態度をとらせることになる。

笑いやユーモアには他者との結びつきが見られ、その表現の中には他者とともに遊び、分かち合い、楽しむという傾向が示されている。それは他者へ手を差し伸べ、ともに向上を目指す温かさがある。

W・B・ウルフは、「笑えば世界は君とともに笑い、泣けば君は一人で泣くのだ」という諺とともに、「ユーモアやジョーク、洒落、喜劇が人生を有効に使うためにどんな役割をするかを考えてみてもよいだろう」と提案した。

歴史上、一部のリーダーは特に組織が閉塞状態に陥っている時、苦境にあえいでいる時、笑いやユーモアを効果的に活用することで、組織内の求心力や活力を高めた。敵をも見方に引き入れた。

勇気づけの技術はいかがだろうか? 中には言っていることは分かるが、そんなスタンスだと部下になめられる、つけあがると感じる読者もいるかもしれない。

だが真剣にマスターすればギスギスした職場、生産性の低い職場でも必ず変えることができると筆者は信じているし、実際に変わっていった職場を多く見てきた。

ちなみにこれらの項目のうち、いくつかは心がけ次第ですぐに職場のコミュニケーションに取り入れることができる。だが「聴き上手である」についてはその技術を習得するために一定程度の訓練を必要とする。

そして「ユーモアのセンスがある」についても、これからの職場においてはますます重要になるだろうと筆者は考えている。

[新井健一「いらない課長、すごい課長」(日経プレミアシリーズ)から転載]

新井健一(あらい・けんいち)
経営コンサルタント、アジア・ひと・しくみ研究所代表取締役。
1972年神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、大手重機械メーカー、アーサーアンダーセン(現KPMG)、同ビジネススクール責任者、医療・IT系ベンチャー企業役員を経て独立。大企業向けの人事コンサルティングから起業支援までコンサルティング・セミナーを展開。

いらない課長、すごい課長 (日経プレミアシリーズ)

著者 : 新井 健一
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 918円 (税込み)

ブックコーナー ビジネス書などの書評はこちら
出世ナビ記事アーカイブ一覧
ブックコーナー ビジネス書などの書評はこちら
出世ナビ記事アーカイブ一覧