訪日外国人の心をつかむヒントは30代女子にあり日経BPヒット総合研究所 品田英雄

日経BP総研マーケティング戦略研究所

ドーミーインの朝食
ドーミーインの朝食
日経BPヒット総合研究所

エンターテインメント、トレンド、健康・美容、消費、女性と働き方をテーマに、ヒット案内人が世相を斬るコラム「ヒットのひみつ」。今回のテーマは、インバウンド。急増する訪日外国人が好むモノを追っていくと、30代女子の好みと重なっていることが分かってきました。

「お花見行っても、温泉行っても、新宿ゴールデン街行っても、私たちが行くところは外国人でいっぱい」と言うのは飲み会で一緒になった30代の女性たち。もちろん、外国人観光客が急激に増えていることが一因なのだが、実はそれだけではなさそう。「30代女子と訪日外国人の好きなものって、実は似ているのかも」という考えが、このところ私の頭の中を駆け巡っている。

2015年の訪日外国人の数は14年に比べて47%も増えて1973万人を超えた。この流れを受けて政府は以前の目標を倍増し、2020年に4000万人を目指すと発表している。GDP600兆円をめざす安倍政権としては、訪日外国人に期待するところが大きい。

私は記事の執筆のかたわら、全国各地で観光客を増やしたり、土産品を開発したり、といったお手伝いをしている。そのためどんな場所でどんなものが人気があるかを見聞きする機会が多い。そこでの経験と周囲の意見を総合すると、外国人の人気を得るには30代女子たちのセンスがヒントになりそうなのだ。

では、どんなところで外国人が目についたか、3つの例を紹介しよう。

新宿御苑でマナー良く「お花見」

この春は全国で「お花見」が盛り上がった。東京では上野公園や代々木公園が有名で、酒を飲んで羽目を外す様子もおなじみだ。だが、新宿御苑となると様子はかなり異なる。ここは入場料金200円が必要で、アルコールの持ち込みは禁止だ。それでも実に多くの人が集まって来る。20代の若者や会社員の集団は少なく、少人数のグループや家族連れが多い。歩いている人の多くはスタイリッシュで品が良い。敷物もブルーシートではなく、シンプルなデザインのレジャーシートが目立つ。食べているのはデパートで買ったちょっと高級な弁当のようだ。

新宿御苑のお花見風景。外国人が多数集まる

ざわざわガチャガチャでうるさいお花見ではなく、「どうせなら少しおカネを払っても、雰囲気の良いところでお花見したい」のが大人の気分なのだと30代の女性たちは言う。

同時に、目立つのが外国人たち。一部の観光バスで乗り込んだ団体を除けば、日本人と同じように品良く桜を楽しんでいる。外国人向けのアンケートによると、日本の魅力として「四季」を挙げる人は多い。富士山やお城と桜が一緒に見える景色は、SNSにあふれている。

人気のホテルは「ドーミーイン」

ドーミーインは日本人にもよく知られたビジネスホテル。それが今、外国人と30代女子の人気宿泊施設になっている。昨年、世界最大のオンライン旅行会社「エクスペディア」が200万人以上のユーザー評価を基に決定している「世界ベストホテルランキング」で、ドーミーイン札幌ANNEXが5位に入りさらに人気が高まった。

このホテルチェーンの魅力は豪華な朝食と日本的な大浴場。例えば、ドーミーイン札幌ANNEXに宿泊した30代の女性は「朝食ビュッフェが洋食も和食もおいしい。イクラがすごい迫力だった」と解説してくれた。

地域に密着した朝ごはんでドーミーインは人気に。北海道では海産物にこだわる
ドーミーインPREMIUM小樽の大浴場 天然温泉を引いている

さらに細かいところでも女性の心をつかんでいる。中国地方のドーミーインに宿泊した米国の30代女性は、気に入った理由を「プラズマクラスターのヘアドライヤーで髪がさらさらになるから」と言っていた。

「トリップアドバイザー」をはじめ、旅の情報口コミサイトの影響力は高まるばかり。宿泊者の評判は確実に広まっていく。日本的な大浴場で旅の話題をつくる一方で、ビューティー家電で快適さを提供する。そうした心遣いが人気となっているようだ。

口コミだけで大人気のハンバーガーや「どんぶり横町」

トリップアドバイザーで外国人が好きな日本のレストランで2位になったのが、岐阜県高山市にある「センターフォーハンバーガーズ」だ。名高い高山の古い町並みのすぐそばにあるハンバーガーレストランだ。中は古いアメリカ調のインテリアで居心地の良いカフェのようだ。ここの飛騨牛を使った高級ハンバーガーは価格が2000円以上と決して安くはないが、とてもおいしいと外国人の間で評判になり、日本人も押し寄せるようになった。私が訪ねた平日は、昼前には売り切れが決まり、早々にクローズとなった。

新幹線が開通した北海道函館市。函館朝市の一角にあるどんぶり横丁市場は約20の店が軒を連ねる。ここも外国人観光客が増える一方だ。多くの客が日本語を読めないのだが、インターネットで事前に情報を仕入れていて問題ないという。店側も「写真入りのメニューで対応していれば不自由はない」そうだ。ここでも集客のポイントは口コミサイトにあった。

外国人にウケルものに共通するこんなところ

ほかにも、新宿ゴールデン街は今や、外国人観光客の人気スポットになった。扉を開いた小さな店をあちこちのぞき、洋楽カラオケを楽しめる店では1杯500円の酒を飲みながら音楽を聴いている。明治神宮も外国人が多い。都心にありながら一歩踏み込むと別世界なのが新鮮らしい。

かつては文化人の集まる飲み屋が多かったが、今や外国人や女性が目立つ

土産として人気なのは、抹茶味のキットカットやきのこの山。海外から見ると、日本でしか見かけない不思議なお菓子だという。また、日本の文房具、特にシャープペンシルやボールペンは高品質でリーズナブルと評判が良い。

外国人に人気の場所とモノの共通点を探るとこんなことが浮かび上がる。

(1)文化を超えて楽しめる日本らしさがある。
(2)ネット上に外国語での情報がある。
(3)ハードルは低いのだが、安っぽくはない。

一方、全国でよく見られる失敗は以下のようなことが多い。

(1)1回しか来ないと思い、見かけ倒しの商品やサービスになる。
(2)自分たちでも利用しないような不自然な日本らしさを打ち出す。
(3)価格と内容がかけ離れている。

訪日外国人は増えているが、これはリピーターが増えていることでもある。彼らの感覚はかつての、日本に来るのは一度きりという「外人観光客」とはまったく異なる。読者の周囲でも感じることが多いはずだ。彼らは日本が好きだから体験しに来ている。だから、外国人だからこの程度でいいと考えると痛い目にあう。

世界が小さくなった現代、好き嫌いの感覚は海外と国内よりも、時として世代間の方が大きい。そんなときに役立つのが30代女子だ。彼女たちは(1)子どもとは違うセンスを身に付け(2)コストパフォーマンスにうるさく(3)おしゃべりが大好き――だ。すべてのインバウンド対策として有効なわけではないが、日本の魅力を見直すうえで、30代女子の言うことは聞いておく価値がある。

品田英雄(しなだ・ひでお)
日経BPヒット総合研究所 上席研究員。日経エンタテインメント!編集委員。学習院大学卒業後、ラジオ関東(現ラジオ日本)入社、音楽番組を担当する。87年日経BP社に入社。記者としてエンタテインメント産業を担当する。97年に「日経エンタテインメント!」を創刊、編集長に就任する。発行人を経て編集委員。著書に「ヒットを読む」(日経文庫)がある。
[参考] 日経BPヒット総合研究所(http://hitsouken.nikkeibp.co.jp)では、雑誌『日経トレンディ』『日経ウーマン』『日経ヘルス』、オンラインメディア『日経トレンディネット』『日経ウーマンオンライン』を持つ日経BP社が、生活情報関連分野の取材執筆活動から得た知見を基に、企業や自治体の事業活動をサポート。コンサルティングや受託調査、セミナーの開催、ウェブや紙媒体の発行などを手掛けている。