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相続空き家の売却、税制改正で最大600万円節税も

2016/4/24

 空き家をめぐる税制が大きく変わりつつある。4月から、相続した空き家を売って手にした利益について、いくつかの条件を満たすと3千万円の特別控除が認められるようになった。最大で約600万円もの節税になるだけに、売却をためらっていた相続人の気持ちを左右しそうだ。老親が暮らす実家などをいずれ相続する可能性があるなら、空き家の税制をざっと頭に入れておきたい。

 東京都の自営業、A子さん(50)はおととし、子どもがいなかった伯母から戦後すぐに建てられた木造の一戸建てを相続した。調べてみると、土地はA子さんの父方の家系が江戸時代から住んでいた。面積は100平方メートルほどだが、駅から近いため、売りに出せば4千万円近くになる。

■特別控除3千万円

 「先祖代々の土地を私の代で手放していいのだろうか」と悩んだA子さんは古民家風にリフォームして賃貸するつもりでいたが、ここにきて一転、更地にして売ることにした。税理士に相談したところ、4月から特別控除の対象になると分かったからだ。A子さんは「とても幸運。売却に向けて背中を押された気がした」と振り返る。

 相続した空き家を売ると、譲渡所得(売却益)にかかる税金が重くなりやすい。1970年代ごろまでに建てた家であれば、もともとの土地の取得費がとても安いからだ(グラフA)。その分だけ譲渡所得が大きくなる。

 A子さんが相続した土地のように取得費が分からないというケースは少なくない。その場合、売却価格の5%が税務上の取得費になり、仲介手数料などの費用を差し引いても、売却価格の9割ほどが譲渡所得とみなされるのだ。

 今年4月から、相続した空き家で条件を満たせば、この譲渡所得を3千万円まで特別控除してもらえるようになった。条件を満たす不動産の譲渡所得は税率が20.315%なので、最大で約600万円の節税になる。

 不動産の税制に詳しい渡辺浩滋税理士は「仮に空き家をリフォームして賃貸した場合、収支を600万円のプラスにするには相当な年月がかかる」と指摘する。このため、A子さんのように賃貸より売却を選ぶ相続人が増えそうだ。

 国土交通省の調査によると、一戸建ての空き家の52%は相続が原因で発生している。特別控除の制度導入は空き家の放置を減らすことが狙いだ。表Bに細かな条件を示した。

 空き家は1981年5月までに建てられた一戸建てで、亡くなった人が一人暮らしをしていたものが対象。相続の発生から3年後の年末までに、建物を解体するか、現在の耐震基準を満たすようリフォームしたうえで売る必要がある。

 耐震リフォームにコストをかけても、その分だけ高く売れる保証はないため、一般的には解体して更地で売る例が増えそうだ。もっとも、買い主が見つからないまま早々に解体すると土地の固定資産税を余計に払うことになりかねない。

■解体時期に注意

 空き家が建つ住宅用地は200平方メートルまで、特例によって固定資産税(1月1日時点の所有者が納付)が本来の6分の1に抑えられている。空き家を解体すると、税務上は住宅用地ではなくなり税額の計算方法が変わるため、税負担はおおむね4倍にふくらむ。

 空き家があるかどうかは毎年1月1日時点で判定されるので、解体はそれ以降にして税負担増を避けたい。税理士法人レガシィの木下裕行税理士は「更地で引き渡す条件で売りに出し、買い主が見つかってから解体するのが原則。その間は遺品整理に充てればいい」と助言する。売却までに一時的にせよ相続人が住んだり賃貸したりすると、特別控除の対象にならない。

 空き家を1億円近くで売れそうな場合も注意が必要。特別控除は売却価格が1億円を超えると適用除外になる。一方、不動産売買では固定資産税を当事者間で清算する取引慣行があり、引き渡し時期に応じてその年の税額を案分して買い主から受け取る。清算金は「税務上、売却価格に含まれるとみなされる」(アンカー税理士法人の今田隆幸税理士)ため、全体で1億円を超え、特別控除が受けられないことがある。

 特別控除は節税に有効だが、他の税制を活用したほうが節税効果がより大きい場合がある。

 相続税の「取得費加算の特例」だ。空き家の土地に限らず、相続した不動産や株式などの財産を売る場合、かかった相続税を取得費に加算できる仕組みで、譲渡所得を減らす効果がある。相続発生から3年10カ月以内の売却が対象となる。

 同特例は3千万円の特別控除と併用できない。多額の相続税を納付した人は、取得費加算を選ぶほうが税金が少ないかもしれない。

 とりわけ14年末までに発生した相続では土地の取得費を特別に多く上乗せできる(図C)。複数の土地を相続した場合、それら全体で納めた相続税を集約して、売却する一つの土地の取得費に加算できるからだ。一般にこれが3千万円より多ければ、特別控除を使うよりも有利になる。

 特別控除の条件をめぐっては「自宅から介護施設に移って亡くなった場合や二世帯住宅をどう扱うのか、まだはっきりしない」(辻・本郷税理士法人の木村信夫税理士)との指摘がある。税制の動きを踏まえつつ、相続したまま放置してきた空き家や、いずれ相続で空き家になりそうな実家をどうするか腹案を練っておきたい。(表悟志)

[日本経済新聞朝刊2016年4月20日付]

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