ひとひらで2度おいしい 食べるお花、極上スイーツに
料理愛好家、SNSで写真を披露
食用花を使ったババロア販売
お土産店が立ち並ぶJR東京駅の八重洲北口。その一角に2015年にオープンした「花のババロア havaro トウキョウミタス店」(東京・千代田)は、世界でも珍しいエディブルフラワーを使ったババロアを販売する。季節の花をそのままゼリーにとじ込めており、食べるのがもったいないほど。1ホール(税抜き2600円~)を購入した30代男性は「華やかでいいと思った。結婚記念日のプレゼントにする」と急ぎ足で店を後にした。
ビオラのババロアを1ピース(税抜き350円)食べてみた。花をすぐ飲み込まないよう、そろりと味わう。ベースのヨーグルト味に交じって、子どものころ学校帰りに吸った花の蜜の味がほんのりただよう気がした。花のババロアを考案した渡辺淳一シェフパティシエは、「花のシャキシャキとした食感がアクセントになる。ゼリーにとじ込めることで甘みも出る」と解説する。
春はビオラやパンジーを使ったババロアが人気だ。母の日前はカーネーションのババロアも用意しており、昨年は2~3時間待ちの行列ができたという。今年からは予約も受け付ける。エディブルフラワーの本場、オーストラリアからは「レシピを教えてほしい」と問い合わせがあった。
生産量は日本一、豊橋温室園芸農協
その東京駅から東海道新幹線に乗って1時間半。JR豊橋駅から少し歩くと、色とりどりの花が並んだ温室が点在する。花のババロア havaroにエディブルフラワーを供給する豊橋温室園芸農業協同組合(愛知県豊橋市)だ。エディブルフラワーの生産量は日本一。卸売市場の取扱数量に占めるシェアは約95%にのぼるという。
同農協は大葉やほじそといった「つま物」のスペシャリスト。食用花の栽培は1960年代に刺し身のつまとして桜草(プリムラ)を始めたのがきっかけだ。83年に小型のカーネーション、85年にキンギョソウと、エディブルフラワーが定着する前から品目を拡大してきた。同農協エディブルフラワー部会の渡辺道晴部長は「毒がない花は何でも試して市場の反応を探ってきた」と話す。
過去に失敗例もあり、例えばサルビアは夏場の高温で花がとけてしまった。いま販売されているのは厳しい市場の選抜を勝ち抜いてきた品目だ。扱いの多いプリムラやビオラはカラフルさが特徴。注文は品目別よりも、「夏なので涼しげな青」「冬は暖色系」「婚礼用に赤」といったように色別にされることが多いという。細長い花びらとV字の切れ込みが特徴の「チェリー」など同農協オリジナルの品種もある。
クッキーやジャムも登場
ババロア以外にも、近年はエディブルフラワーを焼き込んだクッキーやジャムなどが登場している。それでも渡辺さんは「エディブルフラワーはあくまで脇役。料理の味を殺さないようにすることを目指している」と話す。味や香りは控えめな花がほとんどだ。例外が2つあり、ベゴニアは酸味、ナスタチウム(キンレンカ)は辛みがある。栄養分については、ビタミン類を豊富に含む花が多い。
〈豊橋温室園芸農協の主なエディブルフラワー〉
「外食やホテルの引き合い強まる」
東京都中央卸売市場の大田市場や築地市場でもエディブルフラワーが並ぶ姿を見ることができる。あくまで食べ物なので、花市場ではなく青果市場で取り扱われる。大田市場の卸大手・東京青果では「過去2年は外食やホテルの引き合いが強まり、取扱数量・単価とも右肩上がり」(担当者)。仲卸の紀之国屋(東京・大田)も「プリムラやスナップドラゴンを中心に販売しており、今年は売れ行きがいい」(国本敬男取締役)という。
ババロアや洋食店で飽き足らない人は、エディブルフラワーを買って自分で料理する手もある。都内の百貨店や量販店でも1パック300円程度のエディブルフラワーを見かけることが増えてきた。
ガーデニング用品などを販売するプラッツ(東京・世田谷)は2008年から、神奈川の農家が育てたエディブルフラワーをインターネットで販売している。「当初は『何それ?』といった反応だったが、11年にサラダカーネーションが話題となったのをきっかけに注文が増えた」(同社の竹本彩さん)。ウェブサイトにはサラダのほか、「フラワーガトーショコラ」「フラワーカプレーゼ」など、竹本さん考案のレシピが掲載されている。
SNSへ手料理を投稿
SNSへの手料理の投稿もにぎやかだ。エディブルフラワーを使った料理は「(SNSの)フェイスブックやインスタグラムで絵になる」(竹本さん)。実際に投稿を検索すると、市販のババロアなどに交じって、手作りのケーキやサラダにエディブルフラワーを使った写真が目立つ。
プラッツはエディブルフラワーの苗も販売しており、ここ1~2年で注文が3倍以上に増えたという。食用の苗は使う農薬を限定して育てている。観賞用の苗を育てて食べるのはやめておこう。
(龍元秀明)
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