母の手紙に書かれた「心配は死ぬまで」
歌手・はいだしょうこさん
著名人が両親から学んだことや思い出などを語る「それでも親子」。今回は歌手のはいだしょうこさんだ。
――大学でピアノを教える父、声楽家の母のもとで生まれました。
「家の中では、いつもクラシックが流れていて、自然と音楽が体にしみついていました。子どものころ、次女の私は引っ込み思案で、いつも姉の後ろに隠れていました。でも歌っているときははつらつとしていたそうで、両親は『この子が積極的に自分の良さを出せるなら』と考え、歌手の道に進ませたそうです。私もそれが自然なことだったと思います」
――両親、それぞれどのような人でしたか。
「父は私が3歳まで、しつけに厳しかったです。祖母からもらった折り紙を大切にしていないと怒られたのが思い出です。母はそんな私をフォローする役回りで、父をよくなだめていました。私は国立音大付属高校(東京都国立市)在学中の1996年、宝塚音楽学校に合格しました。ただ親から英才教育を受けたことはありません」
――宝塚時代、親元を離れ、精神的になかなかつらかったそうですね。
「98年から4年間、宝塚歌劇団にいたとき、体が不調だったこともあり、途中でやめようと思った時期が長くありました。そんな時、母から1カ月に1回、手紙が来ました。私がまだ甘えん坊に見えたのか、プロ意識を持ちなさい、目の前のことを一生懸命やりなさいと励ましてくれました。親にとって子どもはいつまでたっても子どもなの。だからあなたのことを死ぬまで心配するわ、と手紙に書いていました」
「2003年から5年間、NHKの『おかあさんといっしょ』で第19代うたのおねえさんを担当しました。1000曲を超える童謡をマスターし、週末はファミリーコンサートで全国を回ってとスケジュールはハードでした。でも宝塚時代の母の手紙のおかげで、苦になりませんでした。何より、子どもと一緒にいるのが好きなんです」
――歌だけでなくバラエティー番組に出演。活躍の場が広がります。
「いただいた仕事はプロ意識を持って臨んでいます。ただ童謡歌手で出発したので、歌のリサイタルがあると、力が入りますね。私の歌でみなさんが喜んでくれるのが、私にとって最大の親孝行です」
――4年前に結婚したのですね。
「両親のような家庭が目標です。夫婦お互いを尊重する生き方です。父は74歳、母は63歳になりました。私にとって理想の夫婦です。結婚後も夫と両親を交えて旅行をしたり、互いの家を行き来したりしています。『お母さん、また遊びに来てね』といった仲良し親子です。私が大人になっても親子の絆が切れるわけではありません。一生つながっていたいし、両親を支えていきます」
[日本経済新聞夕刊2016年4月19日付]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。