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災害の脅威と投資の賢人の教え(藤野英人) レオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者

2016/4/19

「私たち日本人は日々、自然災害の脅威に戸惑いながらも社会を前進させ、繁栄させてきた。投資はそうした未来を信じることに等しい」

熊本県を中心に14日以降、大きな地震が相次ぎました。被災された方ならびにご家族の方に心よりお見舞い申し上げます。

私は26年間、日本の株式市場で投資する仕事をしています。この間にはさまざまな出来事がありました。大きな地震は阪神淡路大震災、新潟県中越地震、東日本大震災、そして今回の地震と4回経験しています。大きな社会事件としては地下鉄サリン事件や米同時テロ、アフガニスタン戦争、イラク戦争などもありました。また、マーケットが大きく下落した不動産バブルの崩壊、ITバブルの崩壊、リーマン・ショックなども経験しています。

それぞれ重くて大変な出来事でした。特にリーマン・ショックでは私自身、起業した会社の経営権を失い、社長の座も降りるなどその時の苦しみは筆舌に尽くせません。

このような恐ろしいことがあるので、投資って怖いなあと思われるかもしれません。実際、投資は常に戦争やテロ、震災などのリスクにさらされています。特に日本は地震国なので災害の脅威と背中合わせです。

初回のコラムで投資の賢人であるベンジャミン・グレアム氏が例えたミスター・マーケットについてお話をしました。グレアム氏は株式市場をミスター・マーケットに擬人化し、気まぐれでお調子者で、気分にむらがあり、高揚したり絶望したりすることを繰り返す極端な性格の持ち主としています。だから大地震や戦争があると世の中に絶望を抱き、株が売り込まれます。

そのグレアム氏はこのように言っています。

「過去57年間を振り返れば、世界を揺るがすような時代の浮き沈みや悲惨な出来事にもかかわらず、堅実な投資原則に従えば概して手堅い結果を得られるという事実は常に変わることがなかった」

私には57年間もの投資の経験はありませんが、過去26年間を振り返れば、確かにグレアム氏の言うとおりだったと思います。では、「堅実な投資原則」とはなんでしょう?

グレアム氏の弟子である著名投資家のウォーレン・バフェット氏がその答えを語っています。

「底値で買わなければならない、ということではありません。その企業が持っていると自分が考える価値より(現在の株価が)安いこと、そして正直で有能な人々によって経営されていることがポイントです」

つまり、株価がその企業の価値よりも安く、しっかりとした経営陣であると確信できるなら、投資する価値があるということでしょう。そのような会社に投資をするのが「堅実な投資原則」であると私は考えています。

少なくとも私が26年間、致命的な失敗をせずにここまでファンドマネジャーとして生き残れた大きな理由は、この「堅実な投資原則」に従っていたことにあると考えています。

東日本大震災があったときも、日本の経済および株式市場は大変な試練に見舞われました。2万人以上の方々が亡くなり、多くの家屋や建物が崩壊し、そして福島第1原子力発電所では大きな事故が発生しました。日本経済はいまなお復興の途上であり、福島第1原発も廃炉までの道のりは道半ばです。それでも日経平均株価は2011年3月15日、取引時間中に8227円まで下がりましたが、一時は2万円を回復しました。現在は下がったとはいえ、震災当時からほぼ倍の水準にあります。

私たち日本人は日々自然災害の脅威に戸惑いながらも社会は前進し、営々と繁栄してきました。投資するというのは、そのように社会が前進すること、未来は常に開けていることを信じることに等しいのです。そのような中で、世の中のためによい商品やサービスを作り続けている会社、有能で正直な経営者によって経営されている会社に投資していれば、グレアム氏が言うように、概してうまくいくものだと思っています。

今回の地震は九州の人たちに大きな試練であるのは間違いありません。現状では九州新幹線も高速道路も寸断されて、物流に混乱が生じています。それは想像以上に大きな困難で、しばらく経済活動が停滞するでしょう。しかし、いつでもそうだったように私たちは常に粘り強く復旧活動を行い、安全で快適な環境へとつくり変えてきました。

このような力を「レジリエンス」(復元力)というそうです。レジリエンスとはもともと心理学の用語で、「極度の不利な状況に直面しても、正常な平衡状態を維持することができる能力」ということだそうです。きっと今回も私たちは「レジリエンス」を発揮していくと信じています。

プロのポートフォリオは運用に精通したプロが独自の視点で個人投資家に語りかけるコラムです。原則火曜日掲載で、レオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者(CIO)の藤野英人氏と楽天証券経済研究所所長兼チーフ・ストラテジストの窪田真之氏が交代で執筆します。
藤野 英人(ふじの・ひでと) レオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者(CIO)。1966年生まれ。早稲田大学法学部卒。90年野村投資顧問(現野村アセットマネジメント)に入社。96年ジャーディンフレミング投資顧問(現JPモルガン・アセット・マネジメント)に入社。「JF中小型オープン」は1年間の上昇率219%を記録。驚異的なパフォーマンスを上げ、「カリスマファンドマネジャー」と呼ばれた。2000年ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントに入社。03年レオス・キャピタルワークス創業。CIOに就任。09年取締役、15年10月社長就任。明治大学非常勤講師なども務める。著書に「投資家が『お金』よりも大切にしていること」(星海社)など多数。

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