中東の起業大国でサムライ孤軍奮闘 現地の22社に投資サムライインキュベート代表取締役 榊原健太郎氏に聞く

侍の格好をしたサムライインキュベートの榊原氏(右)
侍の格好をしたサムライインキュベートの榊原氏(右)
世界的な起業大国と呼ばれるイスラエル。アップルなど米IT(情報技術)大手がベンチャー投資を加速するが、中東情勢を懸念して日本企業はほとんど進出していない。そんな中、単身イスラエルに渡り、すでに20社以上に投資したのがベンチャーキャピタル(VC)、サムライインキュベートの代表取締役、榊原健太郎氏だ。なぜ今イスラエルなのか。孤軍奮闘する「サムライ」に投資の狙いを聞いた。

スタートアップへの投資額、日本の5倍

――イスラエルのテルアビブにオフィスを構えました。なぜイスラエルなのでしょうか。

ユダヤ人が多数を占めるイスラエルの人たちは「ゼロ」から「1」を生み出し、イノベーション(技術革新)を起こしています。首相から一般市民までが次々と起業している世界ナンバーワンの「起業の地」だからです。国民1人あたりの、科学者・研究者率や起業率、研究開発(R&D)施設・投資額やM&A(合併・買収)数が世界でトップなんです。国の人口はわずか800万人しかいないのに、スタートアップへの投資額は、日本の5倍にのぼります。

――米国のシリコンバレー企業をはじめ韓国や中国の企業もイスラエル企業への投資を加速しています。半面、日本の大手企業はほとんど進出していません。

日本では「イスラエルでは毎日戦争している」というイメージが強いからではないでしょうか。「アラブの国々を敵にして、石油を輸入できなくなるかもしれない」との印象もあるでしょうね。日本のビジネスパーソンには「イスラエルに入国すると他のイスラム教の国々に行けなくなる」という勘違いもあるようです。

――確かに日本人は中東というとまず治安を考えます。実際、危険な目に遭ったことはありますか。

ありませんね。夜でもテルアビブの街を普通に歩いています。世界保健機関(WHO)が出している死亡率のデータでみると、日本の方が高いくらいで、メディアによるイメージが強すぎるのだと思います。

誰にも真似できない世界に通用する技術が強み

――これまでに何件、どのようなイスラエル企業に投資しましたか。

22社です。「ADテック」という広告テクノロジーやサイバーセキュリティー、画像センサー、AI(人工知能)、ユニークなところでは音楽分析のベンチャーですね。日本での投資額は1社当たり平均450万円ですが、イスラエルでは1000万円単位ぐらいです。

――イスラエルのベンチャーが優れていのるはどのような点ですか。

誰にもまねできない世界に通用する特許を持っていることです。セキュリティーなどITやバイオなどハイテク分野は特に優れています。当社の投資先には先端技術を活用した問題解決型のベンチャーもたくさんあります。例えば、ある投資先のベンチャー企業は、プールで泳いでいる人のようすを画像データなどから行動分析して、溺れている子供を自動的に検知する監視システムを開発しています。米国には100万世帯の自宅にプールがあるそうですが、4歳までの幼児が水死する事故が多いため、米欧ではニーズが見込めます。

3年で計100社への投資を計画

――以前、榊原さんは「イスラエルと日本の会社の橋渡し役となりたい」と語っていました。具体例を教えてください。

日本の企業の方に「イスラエルに来てください」と言っても尻込みされます。ですからイスラエルのスタートアップ企業を集めて東京でイベントを開催しました。この結果、アドネットワークやヘルスケアのスタートアップ2社を日本のVCや事業会社に紹介し、投資が決まりました。このイベント以外では、サイバーセキュリティースタートアップ1社を、日本の(バグを修正する)デバック企業に紹介、投資決定しました。

――今後、どのような展開を考えていますか。

あと3年で、累計100社のイスラエルスタートアップに投資したいと考えています。日本の大企業とのコラボレーションを起こしやすいハッカソンなどが容易に実行できる、200坪くらいの新オフィスを来年に設置する予定です。

榊原健太郎氏(さかきばら・けんたろう)
1974年生まれ。関西大学卒。大手医療機器メーカーを経て2000年アクシブドットコム(現VOYAGE GROUP)入社。08年にIT起業家の育成支援をするサムライインキュベートを創業。

(聞き手 代慶達也)

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