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大学の同期がそれぞれ小企業(500人以下の会社)の課長と大企業(1000人以上の会社)の係長になった時、どちらの年収が高いのでしょう。ほとんどの人が予想するように、大企業の係長の方が年収は高くなります。ではその差はどれくらいなのでしょう?

(3)40代で2倍!わずか15年で広がった業界格差 >>

<<(1)出世速度に会社の規模がどのくらい影響するか?

実は年収の差は、90万円にもなります。

これは30~34才の統計データ(賃金構造基本統計調査)に基づいていますが、大企業と小企業との間での年収格差は、60才を超えるまでそのままです。だからなにがなんでも大企業に就職・転職すべきなのか、というとそうではありません。多くの就職・転職支援会社が語らない、「不都合な真実」に気づく必要があります。

【エピソード2】○○が違うと年収はどうなる?
 まだこんな喫茶店があるんだ、と重そうな木の扉の前で僕は立ち止まった。そうしてあらためて看板を見る。大学の同期で、今はフリーランスの記者をしているという愛宕さんに指定されたのは、この店で間違いがないようだった。
 「なんだ、早いじゃない。私遅れた?」
 突然後ろから声をかけられて僕は驚いた。振り向くとジャケットにパンツスタイルのメガネの女性が腕時計を見ている。同窓会の時と雰囲気が違うけれど、彼女の違う側面が見れたようで僕は嬉しかった。
 「い、いや僕が早くき、来ただけだから」
 「じゃあいいや。この店、隠れ家みたいで好きなのよ。君も気に入るといいんだけれど」
 両手で押されながら店に入ると、豊かなコーヒーの香りに包まれる。意外に広い店の中にはところどころに誰かが座っている。誰もが思い思いのことをしていて、自由と規律が共存しているような雰囲気が僕は気に入った。
 「ポイントはさ、何だったと思う?」
 手慣れた感じで僕の飲み物も注文して、愛宕さんが前のめりに尋ねてきた。
 「企業規模で出世速度が違うんだけれど、やっぱり大企業の方が年収が多いってこと、だよね」
 「それじゃありきたりじゃない。それだけじゃない、不都合な真実、ってのがあるのよ」
 どこかで聞いたような単語だけれど、僕は真実という言葉に興味を持った。
 「企業の大きさと年収とが関係しない何かがあるってこと?」
 「勘がいいわねー。私が調べたところだと、企業規模よりもこっちの方が影響が大きいのよ。なんだと思う?」
 「うーん、なんだろう。就職活動の時に、大学の就職課に言われたっけ?」
 彼女は、まさにそこ! というように笑顔になった。
 「言われてないのよ! 大学にも、就職支援会社にも、どこもそのことを表立っては言ってないの。でも調べればすぐにわかるし、雑誌とかにも書いているのにまるでそれは『企業によるんだよね』とでも言わんばかり。で、学生だった私たちはそのことにあまり注意を向けてなかったわけよ」
 「結局そのポイントってなんだったの?」
 「業界よ。企業規模で年収に開きが出る割合は20%から40%。たとえば50才の部長の場合、小企業で年収700万円、中企業で840万円、大企業で1030万円が平均ね。でも、業界が違うと……」
 「違うと?」
 僕は彼女が拡げた資料に目を落として、目を見開いてしまった。

シャレにならない業界格差

私たちは新卒のための人気企業ランキングというものを目にします。しかし私は人事制度を作る人事コンサルタントの立場として、このランキングにいつも疑問を持っていました。

それは、もし可能なら入らない方がよい企業の名前がいくつもそこに記載されていたからです。

入らない方が良い会社の理由は2つあります。第一の理由は、長時間労働のわりにスキルが身につかない系統の会社です。どんな仕事でも長く続ければ、スキルや知識や経験が身につくのか、といえばそうではありません。仕事によっては1週間で勘所がつかめて、あとはその繰り返しだけ、というものもあるからです。しかし会社としてはいつまでもその繰り返しをやっていてほしい場合があります。そういう会社ではさっさと上のポジションに出世していかないと、いつまでも会社という巨大機械のパーツ人生しか過ごせません。

しかしこのタイプの会社は最近、ブラック企業、と呼ばれたりもするので、気を付ける人が多いでしょう。

問題は、入らない方が良い会社の理由の2つ目です。

それは、そもそもその業界に入ってしまうと出世も年収アップもとても困難になる会社です。さまざまなメディアでは、人気企業とか生涯賃金の高い企業、というように個々の企業に特化した紹介をします。

しかし出世のポイントとなる組織の中の役職数や、年収を決めるビジネスモデルは、企業毎の違いよりも、業界の違いの方が大きいのです。たとえば製造業で働く人がもらえる年収は、金融業で働く人がもらえる年収と大きく違います。それは年収を決める会社毎の違いだけでなく、どこからその年収=賃金が生まれているのか、というビジネスモデルそのものの違いによるのです。

業界ごとの年収差がどれくらい違うのかを、わかりやすいグラフで示してみましょう。

同じ業界内での企業規模の違いで、年収に差が出るのはせいぜい20~40%です。しかしこのグラフを見ればわかるように、業界が違うと、新卒の時点から48%の年収差があります。この差は年齢を追うごとに拡大する一方であり、最終的には65才以上で、業界が違うというだけで、平均年収が220万円から1220万円にまで差が広がります。その割合は優に500%を超えるのです。

働き盛りの30代後半から40代前半ですら、その差は200%前後です。

ブラック企業ならぬ、ブラック業界があるようにすら見えます。

賃金カーブの山が低くなっている業界

業界ごとにビジネスモデルが違うから年収が違う。

実はこの傾向は最近のことです。少なくとも2002年の厚生労働省が公表している賃金構造基本統計調査では、業界を問わず年収はそれなりにありました。たとえば2016年時点で年収差が大きい、金融業界と卸小売業界を比べてみましょう。

金融業界(大企業)の2002年平均は830万円。2016年になると20万円増えて850万円です。

一方、卸小売業界(大企業)は2002年でなんと平均870万円ありました。しかし2016年には730万円。140万円の減少です。

これだけの変化となると、個々の会社の事情とは考えづらい。業界丸ごとで大きな変化があったと考えざるを得ません。その背景には、人事にかかわるマーケットの変化があります。

それは転職です。

転職できるということは、会社側からすれば、できない人をやめさせて、新しくできる人を雇えばいい、という選択肢が手に入るということでもあります。

さらに転職ができるようになったことで、労働力に値段がつきました。

店舗販売員なら250万円。単純な事務作業なら年収280万円から320万円。高度な事務処理なら年収350万円から450万円、というように、労働力に相場価格が生まれました。

労働力に相場価格が生まれるということは、転職しやすくなる、人を雇いやすくなるということだけがメリットではありません。価格が決まるということは、そのものを深く知ろうとしなくなる、育てなくなる、ということにもつながります。たとえば事務作業のために年収300万円で雇った人が、実は少し育てれば企画業務もできるようになったとします。けれども300万円分の仕事をしてくれていればいい。企画業務を行う人は別に雇うし、そもそも事務作業のために雇ったんだから教育をわざわざ行う必要はない、と考えてしまう状態です。

結果として、業界によっては昇給がなくなっていった場合があるのです。それは人事用語で言うと、賃金カーブの山が低くなった、ということです。

あなたが今いる業界に、賃金カーブの山がどれくらいあるのか。もしないとしたらどうすればいいのか。業界毎のより具体的な対応については、次回以降、順を追ってご説明したいと思います。

平康 慶浩(ひらやす・よしひろ)
セレクションアンドバリエーション代表取締役、人事コンサルタント。

1969年大阪生まれ。早稲田大学大学院ファイナンス研究科MBA取得。アクセンチュア、日本総合研究所をへて、2012年よりセレクションアンドバリエーション代表取締役就任。大企業から中小企業まで130社以上の人事評価制度改革に携わる。大阪市特別参与(人事)。

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