ライフコラム

一条真也の人生の修め方

海に還るという送られ方

2016/5/24

 先日、沖縄本島での海洋葬に立ち会いました。海洋葬とは、自分や遺族の意志で、火葬した後の遺灰を外洋に散骨する自然葬のひとつです。散骨に立ち会う方法が主流ですが、事情によりすべてを委託することもでき、ハワイやオーストラリアなど海外での海洋葬が最近は多くなってきました。もちろん、告別式の代わりにというのではなく、たいていは一周忌などに家族や親しい知人らと海洋葬が行われます。「あの世」へと渡るあらゆる交通手段を仲介し、「魂のターミナル」をめざすサンレーでは、世界各国の海洋葬会社とも業務提携しています。

 毎年春になると、サンレー沖縄が主催する「海洋散骨」を行っています。まずは那覇市内のセレモニーホールにおいて、合同慰霊祭を開催。献灯式などが行われ、わたしも主催者を代表して献灯させていただきました。終了後、それぞれの遺族ごとに集合写真を撮影しました。合同慰霊祭を終え、海洋散骨を執行するため、私たちはご遺族とともに三重城港へ移動しました。船が出港する際は汽笛が鳴らされ、スタッフが整列して見送ります。この日は朝から雨がしとしと降っていたのですが、まさに出航する瞬間に天気が急に好転し、空が晴れてきました。波はけっこう荒かったですが、しばらくして船は散骨地点に到着し、海洋葬がスタートしました。

 セレモニーが開始されると、船は左旋回しました。これは、時計の針を戻すという意味で、故人を偲(しの)ぶセレモニーです。それから黙祷をし、感謝・祈り・癒しの願いを込めた「禮鐘の儀」を行いました。その後、日本酒を海に流す「献酒の儀」が行われ、いよいよ「散骨の儀」です。ご遺族全員に遺骨を海に流していただいたのですが、青と白のコントラストがきれいでした。

 続いて「献花の儀」です。これも、ご遺族全員に色とりどりの花を海に投げ入れていただきました。ご遺族が花を投げ入れられた後、主催者を代表してわたしが生花リースを投げ入れました。カラフルな生花が海に漂う様子は大変美しかったです。それから、主催者挨拶として、わたしがマイクを握りました。

 わたしは、最初に次のように述べました。「午前中は雨でしたが、皆様の想いが通じたのか、晴れて本当に良かったです。今日のセレモニーに参加させていただき、2つのことを感じました。ひとつは、故人様はとても幸せな方だなと思いました。海洋散骨を希望される方は非常に多いのですが、なかなかその想いを果たせることは稀です。あの石原裕次郎さんでさえ、兄の慎太郎さんの懸命の尽力にも関わらず、願いを叶えることはできませんでした。愛する家族であるみなさんが海に還(かえ)りたいという自分の夢を現実にしてくれたということで、故人様はどれほど喜んでおられるでしょうか」

 それから、わたしは次のように言いました。「もうひとつは、海は世界中つながっているということです。日本中、いや、世界中のどの海を眺めても、そこに懐かしい故人様の顔が浮かんでくるはずです。どこにいても、故人様の供養ができます」

 それを聞かれたご遺族の方々は、涙を流されていました。海に散骨すれば、世界中で供養できるという考え方は非常に重要ではないでしょうか。わたしは、拙著『涙は世界で一番小さな海』(三五館)の内容を思い浮かべました。地球上の海は最終的にすべてつながっているといいます。チグリス・ユーフラテス川も、ナイル川も、インダス川も、黄河も、いずれは大海に流れ出ます。人類も、宗教や民族や国家によって、その心を分断されていても、いつかは河の流れとなって大海で合流するのではないでしょうか。人類には、心の大西洋や、心の太平洋があるのではないでしょうか。そして、その大西洋や太平洋の水も究極はつながっているように、人類の心もその奥底でつながっているのではないでしょうか。それがユングのいう「集合的無意識」の本質ではないかと、わたしは考えます。

 さらに、「小さな海」という言葉から、わたしはアンデルセンの有名な言葉を連想します。それは、「涙は人間がつくる一番小さな海」というものです。涙は人間が流すものです。そして、どんなときに人間は涙を流すのか。それは、悲しいとき、寂しいとき、辛いときです。

 それだけではありません。他人の不幸に共感して同情したとき、感動したとき、そして心の底から幸せを感じたときに涙を流すのではないでしょうか。つまり、人間の心はその働きによって、普遍の「小さな海」である涙を生み出すことができるのです。人間の心の力で、人類をつなぐことのできる「小さな海」をつくることができるのです!そんなことを海洋葬に立ち会いながら考えました。「大きな海」に還る死者、「一番小さな海」である涙を流す生者……ふたつの海をながめながら、葬送という行為の本質はファンタジーのようなものであると思い至りました。

 その後、散骨地点を去る際、右旋回で永遠の別れを惜しみました。わたしは美しい沖縄の海を見つめながら、大好きだったという海に還った故人のご冥福を心から祈りました。

一条真也(いちじょう・しんや)本名・佐久間庸和(さくま・つねかず) 1963年北九州市生まれ。88年早稲田大学政経学部卒、東急エージェンシーを経て、89年、父が経営する冠婚葬祭チェーンのサンレーに入社。2001年から社長。大学卒業時に書いた「ハートフルに遊ぶ」がベストセラーに。「老福論~人は老いるほど豊かになる」「決定版 終活入門~あなたの残りの人生を輝かせるための方策」など著書多数。全国冠婚葬祭互助会連盟会長。九州国際大学客員教授。12年孔子文化賞受賞。

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