成長を招く? オフィス猫の経済効果インバウンドサイト発 日本発見旅

お兄ちゃん的存在のレオ君。でも夫のデスクではいつもこんなデレデレな姿です。人の背中に乗るのが好き
お兄ちゃん的存在のレオ君。でも夫のデスクではいつもこんなデレデレな姿です。人の背中に乗るのが好き
英語圏から日本を訪れる外国人のほとんどがチェックする、日本観光の情報サイト「japan-guide.com」。夫のステファン・シャウエッカーさんと共にジャパンガイドを育ててきたシャウエッカー光代さんが語る日本再発見の日々。今回は、ジャパンガイドの成長を招き寄せた(かもしれない)「オフィス猫」秘話をご紹介します。

ジャパンガイドのオフィスには2つの猫ドアと大きなキャットタワーがあります。そう、ここには3匹の猫がいるのです。みんな迷い込んできた猫ばかりです。

2年前の6月、オフィスと同じ敷地内にある住まいで朝食をとっていた時、飼い猫のくうちゃんが庭先にいる子猫を見つけました。体には何かがベットリくっついていて、一部が赤くなっており、ケガをしている可能性もあります。とにかく保護しようということになり、朝ごはんもそっちのけで、夫が捕獲作戦をスタートしました。

警戒心が強く、近づくとシャーッと威嚇してくる子ですが、よほど空腹なのか、ケージ内にセットしたエサを夢中で食べ始めました。そこで扉に付けたひもを引くという原始的な仕掛けで保護に成功。そのまま動物病院に直行しました。

預けて診てもらい、夕方お迎えに行くと、ベタベタが取れてすっかりきれいになった子猫がいました。心配していた赤い物は、血ではなく花びらだったそうです。

ただ、X線検査によると、胃と腸の中には砂がいっぱい詰まっていたのだそうです。あの小さな体で、食べ物が見つけられず、おなかがすいて砂を食べていたのでしょう。体についていたベタベタは、ねずみ捕り粘着シートに引っ掛かってしまったらしいのです。あまりのことに涙が出てきました。

休憩室が猫部屋に

病院から戻ってきたものの、子猫の居場所がありません。家には3匹の猫がいて、これ以上は無理。仕方なく、オフィスの横に作ったばかりの社員休憩室にケージを置くことにして、落ち着いたら里親を探すつもりでした。

しかし数日後、夫が「子猫が急にスイートになっちゃった」と……。誰も攻撃しないと分かったためか、急にゴロゴロ甘えるようになったのだそうです。せっかくの休憩室を奪われ、中には猫アレルギーの人もいるのに、社員はみんなで可愛がってくれていました。

夫が彼に付けた名前は「レオ」。ライオンのように強く大きくなってほしいとの願いからです。やがてレオ君は公認のオフィス猫になりました。

翌年には後輩猫たちが……

アキラ君は、オフィス全体の見張り番が日課。獣医の先生から「お嬢さん」と呼ばれてしまったほど優しい子です

レオ君がすっかり大きくなった1年後の8月の夜、隣の駐車場から子猫の鳴き声が聞こえてきました。行ってみると、数台並んでいる車の下のどこかで、確かに鳴いています。チョロチョロ動く小さい影も見えるようになりました。

ここで久しぶりにあの仕掛けケージが登場。車のそばにケージを置いて、少し離れたところでひもを持ち、はいつくばっている夫の姿には笑ってしまいました。

その日はダメでしたが、翌朝出社した夫がオフィス棟の入り口付近にいた子猫を発見。腕を引っ掛かれながらも、素手でキャッチしたそうです。

動物病院での診察で、耳ダニやおなかに原虫(単細胞寄生虫)がいることが分かり、この子も小さい体で苦労をしてきたことが察せられました。

やがて2匹は一緒に遊ぶように。夫はもう情が移ってしまい、里親のことなど全く考えていない様子。オフィス責任者の彼がそれでいいと思うなら、反対する理由はありません。

この子は毛の色が小動物っぽいので、名前を「リス」君にすると彼が言い出しました。それではあまりに弱そうなので、コメディアニメーション『紙兎ロペ』のリスのキャラクター「アキラ先輩」から名前をいただき、「アキラ」君になりました。

アキラ君が来てから10日ほどたったある日、階下のショップにいる妹がオフィスに駆け込んできました。

「たいへんっ! 庭に子猫がいるっ!」

もう笑うしかありません。みんなで庭に行ってみると、本当にふわふわの毛をした子猫が外階段に座って毛づくろいをしているではありませんか。

再び仕掛けケージの出番です。初日は失敗しましたが、あまり警戒心のないこの子は、翌日すぐにつかまりました。この子は女の子で、夫は最初から飼う気でいたようです。もはや2匹も3匹も同じと思ったのかもしれません。

名前はすぐ「ロペ」に決まりました。アキラ君は本当に「アキラ先輩」になったのです。

癒し系のロペちゃんは長毛種。一番の甘え上手で、抱っこしているだけで心が和みます

猫たちの経済効果?

かくして、ジャパンガイドのオフィスには猫が3匹同居することになり、彼らのために壁やドアの改修工事も行ないました。もう「にゃパンガイド」と呼んでもいいかもしれません。

オフィス猫たちは、時にはいたずらが過ぎて怒られることもあるものの、社員の仕事の疲れを癒やし、場の空気を和ませてくれる大切な存在です。ちょっと席をはずすとすぐ椅子を乗っ取られてしまいますが、社員たちは猫をそのまま眠らせておき、自分はミーティング用の椅子を持ってきて、そちらに座っています。

3匹の世話は、餌やりからトイレ掃除まで、夫が全部一人で担当しています。「とても大変」というので手伝いを申し出たのですが、あっさり断られました。大変だけど、楽しくもあるのです。このオフィスで最も猫に癒やされ、彼らを必要としているのは、最も忙しい彼なのだろうと思います。

夫にとっては至福の時。猫に囲まれ、仕事もはかどります

レオ君が来た2年前といえば、訪日外国人観光客が初めて1000万人を突破した前年(2013年)の流れを受けて、順調に右肩上がりで推移していた年です。サイトの閲覧数も増え、仕事量が増加していました。

加えて、夫には多方面から取材依頼が増えていた時期で、ますます多忙になっていました。ストレスがたまって、体調を崩してもおかしくない状況でしたが……。

そんな時でも元気に過ごせてきたのは、猫たちのおかげだと思います。何より本人の「オフィスに行くのが楽しみだった!」という証言がありますから。猫の世話をし、オモチャで遊んであげることで気分転換になり、自分のストレスも軽減される効果があったのだろうと推測します。

それは社員も同様です。猫も含めたチーム・ジャパンガイドの一体感が増し、仕事の効率もアップして、サイトのさらなる充実が図れたと思います。猫の経済効果、あなどれませんね。

シャウエッカー光代(シャウエッカー・みつよ)
 ジャパンガイド(株)取締役。群馬県生まれ。海外旅行情報誌の編集者を経て、フリーの旅行ライターとなり、取材等で訪れた国は約30カ国。1994年バン クーバーに留学。クラスメートとしてスイス人のステファン・シャウエッカーと出会い、98年に結婚。2003年、2人で日本に移住。夫の個人事業だった、 日本を紹介する英語のウェブサイト「japan-guide.com」を07年にジャパンガイド株式会社として法人化。All About国際結婚ガイド、夫の著書『外国人が選んだ日本百景』(講談社+α新書)『外国人だけが知っている美しい日本』(大和書房)等の編集にも協力。