国際社会で心をつかむ話し方 日本人に必要なこと会議通訳者 高松珠子さん(後編)

2016/4/20
(写真:菅野勝男)
(写真:菅野勝男)
政府要人の記者会見や外国人記者クラブ、国際会議などの場で広く活躍する通訳の高松珠子さん。後編は、スピーチやプレゼンテーションで聞く人の心をつかむ話し方、特に英語を使う際に重要になることについてお聞きします。

津田 後半は、数々の国際社会の舞台を経験されている高松さんに、スピーチやプレゼンテーションをするときのアドバイスをお聞きしたいと思います。話し手の話し方によって、通訳しやすいとか、しにくいということもあると思いますが、いかがでしょうか?

高松 日本にはパブリックスピーキングのように、大勢の前でしゃべるという伝統がないですよね。欧米はローマ帝国の時代から、マイクなしで何百人もの前で話し、その説得力によって歴史の流れが変わるという伝統があります。また、米国の歴代大統領もスピーチのトレーニングをしています。日本の政治家は駅前でマイクを持ってしゃべっても、みんな通り過ぎていってしまうことが多いですね。

日本の一流企業を代表する偉い方のスピーチでも、内容がなくてつまらないことはよくあります。話す側も、話したという事実さえ残ればそれでいいと思っている人が多いのではないでしょうか。日本では肩書が立派であればみんなが話を聞いてくれると思っていますけど、海外に出たら肩書では聞いてくれません。

「発言内容を3つにまとめて話す」子どものころから訓練

津田 私も毎年アジアでの会議に参加しますが、その中には英語のネーティブの人も、外国語として英語を話す人もいます。よく思うのは、英語が流ちょうかどうかは、プレゼンのわかりやすさとは関係ないということです。テーマと結論が明確であること、誰にでもわかる言葉を選ぶこと、聞き手に対する気遣いがあること、話す内容のストラクチャー(構造)がはっきりしていること、などが重要だと思いますが、いかがでしょうか。

高松珠子(たかまつ・たまこ) 幼少期より大学卒業まで米国で暮らす。クラシック音楽関係の米系企業の日本駐在、サイマル・アカデミー パブリックスピーキング主任講師等を経て、フリーの通訳として活躍中。日本外国特派員協会(FCCJ)名誉会員。(写真:菅野勝男)

高松 まさにそうですね。欧米では、小さいころから「show and tell(見せて、話す)」というトレーニングをやらされるんです。何でも好きなものを袋に入れて持ってきて、それについて何かお話をします。話すときは全体を「Beginning、Middle、End」の構成にして、話の最後はちゃんと締めなきゃいけない。また、あまりたくさんのことを言っても聞く方は分からなくなるので、「Middle」で話すことは多くても3つまで。こういうことを幼稚園ぐらいのころからたたき込まれているんですよ。

日本人には、しゃべりながら考えて、だんだん自分の言いたいことが分かってくるみたいな感じの人が多いですね(笑)。これは悪く言うつもりはないんです。人前で話すという伝統がないから、簡潔にポイントをまとめて話すトレーニングもないのです。どうでもいいような話を延々としゃべっても許される社会なのです。よくいわれる話ですが、日本人が英語でスピーチすると、必ず最初の1~2分を「いかに自分の英語がうまくないか」という弁明に費やします。それより早く本題に入ればいいのですが。

何年か前、知人がある閣僚のスピーチで同時通訳のブースに入っていたのですが、その閣僚が「~は~で、~ですから~でして……」と、とても長い文を話していて、最後に「~という方もいますが、私は反対です」と発言したんですね。その瞬間、同時通訳の彼はマイクをパッと切って、「今ごろ!」と叫びました。「I think……」で訳を始めてしまっていましたから。

日本語と英語は言葉の並びが逆だという事情はありますが、やはり一文一文は短めにして、早めに結論をいうほうが良いと思いますね。結論を早く出すというのは、今の時代が要求していることだと思います。みんな、長くは聞いてくれませんから。

ただ、日本の社会ではあまり最初から結論をはっきり言ってしまうとかえって難しくなる場合もあります。これから世界でサバイバルしていくためには、日本人同士で話す時は温和な伝え方をしても、外国人向けには結論を早めにはっきり伝える。こういった切り替えのスキルも必要ですね。

外国語として多くの人が使う英語 明確に分かりやすく

津田千枝(つだ・ちえ) 大手外資系通信社でセールスマネジャーを務める。シンガポールで8年間の勤務経験がある。香川県出身。(写真:菅野勝男)

津田 最近は仕事でも英語を使う機会が増えて、自分で頑張って会議やプレゼンなどで英語を話そうと努力される方も増えています。その努力はすばらしいと思うのですが、中には、英語の原稿を違う人に書いてもらって、原稿を棒読みにして参加者のリアクションを見ずにプレゼンを進めてしまう人もいて、むしろ逆効果ではないかと思うことがよくあります。それについてはどう思われますか。

高松 これはいつも言っていることなのですが、私たちは通訳の「最後の世代」になりたいんです。これまでは歴代の通訳の人たちが優秀すぎたので、頼りすぎていたと思うんですね。もちろん、条約とか契約の交渉事など大事な時には通訳を使ってもいいのですが、日本人はこれだけ英語を勉強しているのですから、どんどん自ら使って世界に発信していかなくてはいけないと思います。

私は毎日通訳の仕事をしていますが、英語ネーティブのお客さんは今や2割ぐらいです。あらゆる国の方たちがいます。私の父は物理学者で、私が生まれた時にはデンマークの研究所にいましたが、半分冗談で「そこの公用語はブロークンイングリッシュだった」と言っていました。英語ってそういうものですよね。

ただ、下手でも文法が間違っていてもいいんですが、甘く見てはいけないと思います。メモではなく、簡単なアウトラインを見ながら話せるまで練習が必要です。小学生の授業ではないのですから、原稿の棒読みはダメですね。

また、話す時は明確で分かりやすいことが大切です。アメリカのニュース記事の文章は、12歳の人が理解できるように書かなくてはいけないとされています。ホワイトハウスのホームページなども、小学校6年生が分かるようクリアに書かれていて、それが基礎知識になります。

津田 このたびは貴重なお話をありがとうございました。通訳の皆様が普段感じていらっしゃることをお伝えしながら、通訳と依頼者と話し手をよりよくつなぐきっかけを、そして国際社会で活躍するヒントをお伝えできていればうれしいです。

(写真:菅野勝男)

[協力:東京さぬき倶楽部(別館 花樹海)]