チケットの不正転売問題で動き出す業界と転売サイト
CDなど音楽パッケージの売り上げが落ちるなか、コンサート市場は成長を続けており、15年度の年間動員数は5000万人を超える見込みだ。その一方で、関東圏のコンサート施設が不足する「2016年問題」と並び、チケットの不正転売問題がクローズアップされている。
従来からあるヤフーなどのオークションサイトに加え、「チケットキャンプ」や「チケットストリート」といった専門の転売サイトの出現で、チケット転売市場は盛り上がりを見せている。これらのサイトは都合が悪くなり行けなくなった人がチケットを売買できると重宝されており、チケットキャンプを運営するフンザ社によると、転売市場の規模は15年の500億円から、19年には800億円に達する見込みだという。
しかし、"転売ヤー"と呼ばれる、利益目的で転売を行う人たちに悪用されるケースも後を絶たない。チケットの転売に関しては多くの自治体が条例で禁じているが、対象は会場付近で転売行為を行っているダフ屋を想定したもので、ネット上の法制度は整っていないのが現状だ。有名歌手のチケットは高騰することも多く、人気グループの嵐ともなると、9000円のチケットが最前列では20万円以上で出品された例もあるという。
音楽系芸能事務所の業界団体である、日本音楽制作者連盟理事の野村達矢氏によると、「純粋にコンサートに行きたいファンがチケットを買えないことに心を痛めているアーティストは多い」と言う。加えて、ファンがアーティストのために高額チケットを購入してもアーティストには全く還元されず、ファンの財布に余裕がなくなることでグッズの売り上げにも影響しかねない。結果としてアーティストの活動費が奪われることにもなりうるのだ。そのためチケット転売を防ぐためにわざわざ高い予算を投入して、当日発券システムや顔認証システムなどを導入するケースが最近増えているのだという。
偽造チケットも問題に
また偽造チケット問題も起きている。2015年末の『NHK紅白歌合戦』では転売サイトに入場券の偽造チケットが出品され、入場できない人たちが多数発生した。コンサートプロモーターズ協会(以下、ACPC)の中西健夫会長は「需要と供給を考えると、転売サイトが全てNOというわけではないが、今の状況では今後も被害者が生まれる可能性がある。ユーザーにとってよりよい環境になるように、転売サイト側にはしっかりと対応してもらいたい」と語る。
一方、転売サイト側も様々な対応策を進めている。チケットキャンプでは過剰出品者を排除するなど、24時間体制でパトロールを実施。偽造チケット対策に関しては、従来は購入者がチケット受取後、受取ボタンを押すと出品者に代金が送金されていたものを、公演開始時間までは受取ボタンをロックし、入場確認後に支払われる仕組みに改めるという。
チケットキャンプのフンザ・笹森良社長は「1人でも多くの人がコンサートを楽しめる機会が増えればいいというのは共通の思い。興行側とも歩み寄れるところは歩み寄っていきたい」と話す。
海外に目を向けると、ネットでのチケット売買が進むアメリカでは、転売サイト大手の「StubHub」が、NBAのフィラデルフィア・76ersと公式パートナーになることを2016年2月に発表。今後は同チームの公式チケットと個人が出品したチケットが、同じ画面上で比較して購入できるようになるという。選択権はユーザーに委ねるという新しい試みだ。
チケットの不正転売問題を機に、興行側もACPCが中心となって、従来のチケット再販制度や座席価格の一律問題など、チケット改革に意欲的だ。興行側と転売サイトが共に目指すという、ユーザー視点の改革が今後は期待される。
(ライター 中桐基善)
[日経エンタテインメント! 2016年4月号の記事を再構成]
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