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使わなきゃ損! 個人型DC iDeCo

個人型DC、受給時に税金で損しないために 編集委員 田村正之

2016/4/14

 「隠れた投資優遇制度」と呼ばれる個人型確定拠出年金(DC)。法改正が審議中で来年から対象が大幅に拡大されるが、現在でも約4000万人が加入できる。知名度不足であまり使われていないが、老後資金作りには最優先で利用したい制度だ。ただし受給時の税制優遇は結構複雑。特に会社員の場合、よく考えずに使うと損をすることがある。

■自営業者もお得な税制を活用可能

 個人型DCは自分で金融機関を選んで掛け金を積んでいき、預貯金や投資信託などで運用、原則60歳以降に一時金か年金で老後資金をもらえる仕組み。たくさんある税制優遇の一つが、受給時のときのものだ。

 「特に一時金でもらうときの税制優遇はかなり強力」と話すのは税理士の柴原一さん。これを退職所得控除という。個人型DCに加入した年数に応じた金額(控除額)を税金の課税対象から差し引いてくれる制度だ。加入年数が20年までは1年あたり40万円、それ以降は同70万円を差し引いてくれる(グラフA)。

 例えば30年間個人型DCで積み立てると(40万円×20年+70万円×10年)で1500万円。つまりDCの掛け金を運用した結果生み出された金額が、この控除額を上回らない限り、一時金で受け取る際の税金はゼロだ。

 個人型DCは、企業型DCや確定給付年金などの企業年金のない会社員や自営業者などが入れる。この強力な優遇制度である退職所得控除は、個人型DCに限らずもともと所得税の仕組みのなかにある制度だが、本来想定されていたのは会社員の退職金。基本的に自営業者は対象外だ。

 しかし「自営業者でも個人型DCに加入すれば、それをあたかも『個人型DC株式会社』という会社に入っていた人の退職金のようなものとみなして、掛け金を納めた期間を退職所得控除の計算に算入できる」(柴原氏)。

 このお得な税制を活用するためにも、特に自営業者はぜひ個人型DCの加入を検討したい。

■退職所得控除は企業からの退職金と「別枠」ではない

 ただし「勤務先から退職一時金が出る会社員の場合は注意が必要」と指摘するのはファイナンシャルプランナー(FP)の深田晶恵さん。退職所得控除は、会社からの退職金と個人型DCにそれぞれ別の枠が与えられるわけではない。このため退職金と個人型DCの合計額が退職所得控除の額を上回り、所得税の課税対象になりやすい。

 「特に同じ年に両方を受け取った場合、合算して税金を計算されるので、所得税率が高くなることがある」(深田さん)

 深田さんによる試算でみてみよう。税金に関する計算なので残念ながら結構ややこしく、頭が痛くなる。しかし老後の負担を減らすためには大事な知識だ。

a.会社から退職一時金2000万円(勤続30~60歳)
b.個人型DC500万円(加入は40~60歳)

という2つのお金をもらえる会社員を想定してみる。

 同じ年に受け取る場合、退職所得控除は、複数の退職金のうち最も長い勤続期間(または加入期間)で計算する。この場合は長い方の30年が使える。退職所得控除を引いた後の金額は、「(2000万円+500万円)-退職所得控除1500万円」で1000万円だ。

 退職金の場合、所得はその半分とみなしてくれる仕組みがあるので、最終的な退職所得は1000万円の半分の500万円になる。

 この金額に所得税・住民税がかかる。所得税の速算表(表B)で計算すると所得税は57万2500円。これに住民税(一律10%)の50万円を足すと合計税額は107万2500円(1)になる。

 しかし個人型DCの分は、退職所得控除が勤務先の退職金とは別の枠で与えられると勘違いしている人は多い。つまり、「会社からの退職金2000万円のうち退職所得控除である1500万円を超えた500万円(退職所得は半分にしてくれるので250万円)にだけ課税される。一方の個人型DCは別途、加入20年分の退職所得控除800万円の範囲内なので課税されない」という勘違いだ。

 もし250万円にしか課税されないなら、所得税と住民税を合わせた税額は40万2500円(2)になる。(1)よりかなり小さくなり、実態以上に有利に思えてしまう。

■個人型DCを後でもらうとお得な場合も

 このケースのように個人型DC以外に会社からの退職金もある場合、税金をより少なくするための手法の一つは、「個人型DCを受け取る年を、会社からの退職金を受け取る時期とずらすこと」(深田さん)。

 個人型DCは60歳で必ず受け取らなければならないものではなく、その後も70歳までは「運用指図者」という仕組みで運用を続けることができる(ちなみに運用指図者の期間は退職所得控除の年数計算の対象外)。

 会社からの退職金2000万円を60歳で受け取った後、運用指図者として65歳までDCを続けてそこで一時金で受け取った場合を試算してみる。

 60歳で受け取る退職金2000万円の税額は先ほどの(2)と同じ40万2500円。一方、65歳で受け取る個人型DCの500万円についてはどうなるか。

 再びややこしい話だが、個人型DCの受け取りの15年以内に退職金をもらっているときの個人型DCの退職所得控除の計算は、加入期間が重複している年数を差し引く。この場合は個人型DC加入20年から、重複機関の20年を引いて、ゼロ年。つまり退職所得控除は使えない。

 ただし税金の対象になるのは500万円の半分の250万円なので、税額はさきほどと同じで40万2500円(3)(2)(3)の合計は80万5000円なので、同じ年にもらった場合の(1)よりかなり少なく済む(グラフC)。

 退職所得控除は使えなくても、退職一時金と個人型DCを同じ年にもらうのに比べてそれぞれの金額が小さいので、税額も低くなるわけだ。

 ただし「すべてのケースで個人型DCの受け取りを先送りするプランが有効なわけではないことは要注意」(深田さん)だ。勤続年数やDC加入期間、受給額で有利不利が変わる。自分の場合はどうなるか、慎重な計算が必要だ。

■年金受け取りなら国民年金保険料など増加も

 もう一つの対策として、個人型DCの一部を年金受け取りにする方法がある。年金受け取りの場合は、別途「公的年金等控除」という優遇税制がある。しかしこの場合も、通常の公的年金の額が多い人などは、さらに個人型DCの年金が加わって1年あたりの所得が多くなり、税金に加えて老後の国民年金健康保険や介護保険の保険料が増すことがある。

 柴原氏は「そうした負担を避けるため、基本的には個人型DCも一時金でもらうことを勧めている。退職所得なら計算上半分になるので、多くの場合は一時金でまるごともらってしまうのが有利」と指摘する。

 個人型DCの優遇税制は、掛け金拠出時は掛け金がまるまる所得控除になり、運用期間中は非課税ということまでは、前回書いたように極めて明快。しかし受給時の税制は複雑でハードルが高い。

 深田さんは「国税庁や厚生労働省は個人型DC加入者に、どういう受け取り方が有利か、試算できるサイトを提供すべきだ」と話している。

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著者 : 田村 正之
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,620円 (税込み)

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