全面改良・機能性表示… お茶系飲料、大型商品相次ぐ
今春、飲料メーカーからお茶系飲料の大型商品投入が相次いでいる。ペットボトル入りのお茶市場は機能性に特化した特定保健用食品(トクホ)緑茶を除くと成熟市場。ブランドにこだわる人は多くない。コモディティー化が進んでいる市場のなかで、各社が全面改良や機能性表示に対応した商品で勝負をかけている。
味改革、伝統技法に最新技術で
キリンビバレッジは今年で発売16周年を迎える「キリン 生茶」(555ミリリットル、140円)を3月にリニューアル発売した。「お~いお茶」(伊藤園)、「伊右衛門」(サントリー食品インターナショナル)、「綾鷹」(日本コカ・コーラ)の上位3ブランドに対し、「挑戦者という立場では差別化したものを出さないと戦えない」。マーケティング部商品担当の川口尊男主任は話す。「なんとなく」手にしたお茶を買っていた人を引き付けるのが狙いだ。
伝統的なお茶をいれる製法と最新技術を組み合わせたのがポイント。生茶葉を抽出した後の工程でミクロンサイズに粉砕したかぶせ茶を加える。これにより渋みを抑え甘みが加わる。昔ながらの石臼でひくと茶葉の粒にばらつきが生じてしまうが、「セラミックボールミル(粉砕機)」という装置で粒を均一にすることに成功した。最新技術で「まろやかな口当たりが実現した」という。深いコクと、軽やかな余韻が続く、新しい緑茶の味わいを実現した。
味覚センサーを使った分析で苦みやうま味、コクの各項目の数値が競合商品を上回った。苦みや渋みが強くなったが、うま味も増しており、渋みを感じずに飲める従来の生茶の長所を引き継いでいる。「苦みとうま味のバランスをキープしており、従来の生茶ファンからも高い支持を得ている」と話す。固定客を離さずに新規のファンを開拓するという難しい課題もクリアした。
2015年の生茶の販売実績は1800万ケース。リニューアルで大幅な上積みを見込んでいる。発売日からわずか4日の3月25日に100万ケースを突破した。昨年のリニューアル時の販売数量と比べると80%増と計画を上回るペースで推移している。18年に2000万~3000万ケースを目標にしており、トップ3に割り込んでいく。
機能性表示食品を充実
緑茶飲料のトップブランド「お~いお茶」を持つ伊藤園。今年2月から3月にかけて、機能性表示食品を加えた「お~いお茶 巡りさらら」(500ミリリットル、143円)、「お~いお茶 日本の健康 玄米茶」(500ミリリットル、143円)を発売した。マーケティング一部の安田哲也お~いお茶ブランドマネジャーは「トクホにない価値がうたえ、お客様にも手にとっていただけるとみている」と話す。
「巡りさらら」はポリフェノールの一種である「ヘスペリジン」を含んでおり、血流を保ち体温を維持する作用があるという。「日本の健康 玄米茶」はおなかの調子を整える機能と、食事から摂取した脂肪の吸収を抑える機能があるとされる難消化性デキストリン(食物繊維)を含む。緑茶とお米にトウモロコシ、大麦、はと麦、抹茶、食物繊維を加えた。穀物の甘い香ばしさと健康性を高めつつ、苦味の少ない、すっきりとした味わいを実現した。
機能性表示食品とするために加える成分はお茶の味も変えてしまう。なかでも「ヘスペリジン」は機能をうたうのに十分な量をいれるとなかなかおいしくならない。原料選定や焙煎(ばいせん)の仕方、抽出の温度や時間であらゆることを試した。うま味の強いかぶせ茶を使った。「機能性飲料でもおいしくて、健康だという商品でないと継続して買ってもらえない」(安田さん)。同社が機能性表示食品の申請をしたのが2015年4月。許可がでたのが同年8から9月にかけて。当初の計画よりは遅れた。時間がかかった分、よい製品に仕上がったという。
同時期に発売した機能性表示食品の飲料「ヘルシープラス さらさらむぎ茶」「ヘルシールイボスティー」(いずれも500ミリリットル、143円)と合わせて4品で初年度100万ケースの販売を目指す。「特に玄米茶は流通やお客様からの評判がいい」(安田さん)と出足も好調のようだ。
「ブレンド茶市場を活性化」
日本コカ・コーラは5月9日にブレンド茶「爽健美茶」(600ミリリットル、税抜き140円)をリニューアル発売する。1993 年に誕生、累計販売本数は200億本を超える「ブレンド茶」というカテゴリーを確立したブランドだ。ここ最近、ブレンド茶の市場が縮小傾向にあるなか、「10年に1回の大きな節目のリニューアル」(福江晋二マーケティング本部ティーカテゴリーバイスプレジデント)で市場活性化を期待する。
ブレンド茶が伸び悩んでいる理由について同社は「爽健美茶を発売した当時に比べ緑茶やミネラルウオーターなど選択肢が増えてきた。ブレンド茶を選んでいた選択理由が弱まっていた」と分析する。
再び爽健美茶というブランドを輝かせたいとスタートしたリニューアル企画。ただ、20年愛されたブランドだけに味や外観を大幅に変えると既存ユーザーにそっぽを向かれかねない。市場調査には2年以上かけた。
12種類の素材は変えず。配合や焙煎、抽出の仕方をかえた。よりしっかりと香り、後味を強く出した。1000人以上を対象に試飲調査し、試した配合パターンも1000通りを超えた。同社の消費者調査では過去10年間で一番スコアが高かったため、「爽健美茶」史上最高のおいしさをうたう。「研究開発の部隊からも『こういうのが毎回出ると思わないでください』と言われた」と福江さんは苦笑する。
スーパーやコンビニエンスストア向けに、新たに開発した600ミリリットルのペットボトルを導入。ボトル中央部に握りやすい55ミリのくびれ部分を設けた。女性やお年寄りでも持ちやすいボトルデザインだ。3月21日から「綾鷹にごりほのか」(525ミリリットル、140円)も発売した。「綾鷹」の「急須でいれたような緑茶本来の旨み」をいかしながら、苦みや渋みを抑えた。さわやかで飲みやすい味わいという。
緑茶、輸出も好調
充実している日本のお茶系飲料市場。じつは緑茶は輸出も好調だ。円安に加え、日本食人気や健康志向の高まりが背景にある。2015年の輸出額は101億円で前年比3割増えた。緑茶のおいしさを知った外国人観光客も日本市場のお茶系飲料の充実ぶりに驚く。これから暑くなり、お茶系飲料を飲む機会も増える。各社の工夫がつまった新商品をじっくり味わおう。
(村野孝直)
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