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立川談笑、らくご「虎の穴」

究極の花見! 列島縦断らくご旅 立川談笑

2016/4/13

立川談笑一門会で高座に上がる落語家の立川談笑さん

師弟が交代してつづるこの連載は「マクラ投げ」。落語の本題に入る前の、雑談めいたものが「マクラ」で、それをエッセースタイルで競作してみようという試みです。

早稲田大学落語研究会が主催する「わせだ寄席」。そうそうたる顔ぶれ。前座の「ぬう生」とは現在もご活躍中の三遊亭円丈師匠。(以下、ネタ帳はいずれも立川談笑師匠が撮影)

今回私から提示したお題は「憧れ」。弟子の笑二、吉笑と続き、いよいよ私のターンです。とはいえ「こんな話を書こう」と事前に目論みを整えてから出題しているわけでもなんでもないため、正直、毎回手こずっているのです。

せっかくの場だし、同じお題の範疇(はんちゅう)だからこそのバリエーションの広さをお見せしたい。最後の私としては弟子2人とひと味違うものを書こうとしておのずとハードルは上がります。

このあたり落語会に似ている気がします。複数の出演者がいる会で、その日の演目は事前に決まっていないのが普通です。では、それぞれ勝手にやりたい落語をやるのかというと、そうでもありません。

神奈川県にある「らくごスナック元(げん)」で使われたネタ帳。

楽屋には必ずネタ帳があって、高座に上がる落語家は前に上がった者が掛けた演目を確認して、似通った演目を避けるのがルールなのです。演目がバッティングすることを「ネタが付く」といいます。

与太郎が登場する話が一度出たら、それ以後与太郎話は避ける。同様に「間抜けの話」、「どろぼうの話」、「けちの話」などは、同じ日に重ならないよう注意します。

また、構成も気にします。同じセリフを繰り返す「おうむがえし」、他人がうまくやったものを別の人がまねて失敗する「仕込み話」など。

「スナック元」ネタ帳より。柳家小さん師匠登場の回。

これはすべて、観客が「なんだかさっきも似た話を聴いたぞ」とならないための工夫です。

「さぁて。あれも出た、これも出た。このネタも掛けられちゃった。ううむ、何をやろうか」

と、トリ=真打ちがネタ帳とにらめっこしている姿は、楽屋ではよく見られる光景です。

そうはいっても、高座から下りてきたベテラン落語家が汗をふきながら、

「うひゃあ、やっちゃったよ。終盤の『芝居がかり』のところになってさ、すぐ前のネタと『付く』って気づいたけど、もうどうにもならなくってさ」

「スナック元」ネタ帳より。志ん朝師匠登場の回。

なんてこともたびたびあるので、ルールとしてはゆるいものではあります。

この「ネタ帳」の体裁は立派な和とじの帳面のこともありますが、時には大学ノートやプリントアウトされた紙切れだったりもします。それでも十分に用は足ります。落語会を定期的に催している場所であれば、日本全国の楽屋すべてに備えてあります。もしもなかったときには、落語家から主催者に作ってくれるように頼みます。

仮にそれがわずか年に一回だけの落語会だとしても、いやむしろ年に一回だからこそ間違いなく落語を楽しんでいただくために必要で、ネタ帳はそのための重要な、仲間内での申し送り事項なのです。

がらりと話は変わって。

落語家ですからサインを求められることがあります。私は個人的な好みとして、見た人が解読できないサインっていうのが嫌いです。そりゃあ、「チャッチャ」と済まさざるをえないハリウッドスターやプロスポーツ選手、スーパーアイドルならいざしらず。私は別に何億人や何百万人を相手にする商売でもありません。サインは丁寧に、読めるように書きます。もっとも、万が一世界的に大ブレークした日にはもちろん「チャッチャ」で済ませる構えではありますが。

そして名前だけでは世辞がないので、余裕があるときは何かちょっと添えて書くことにしています。とはいっても、そうそう立派なことは書きません。ふざけて書く場合だと、色紙の真ん中にドーン!と、

「王将」

わはは。これは気に入ってます。棋士っぽい。

「一球入魂」

これもよく書きます。

手のこんだところでは、朱墨汁で色紙にドカンと手形を押して「立川談笑」と筆で書いたこともありましたっけ。手が大きいから仕上がりはやたらと力士っぽくて、飾った色紙を見た人が「誰だっけ、このお相撲さん? 誰?」と困惑するのを期待しての仕掛けです。

師匠談志がよく色紙に書いていたのが、

「富士と桜と米のめし」

最高です。日本人としてこの3つが好きなことに関して、理由なんかいりません。このフレーズ自体大好きで、私もよく書きます。私が書く色紙の文句ではナンバーワンの頻度かもしれません。

とりわけ、桜が好きで好きで。桜前線が北上するのと一緒に、ずーっと南から北まで上がるのが憧れです(←やっと出た、「憧れ」!)。「桜前線とともに行く、列島縦断お花見ツアー20泊21日」があったら、いつか参加してみたい。

まず南は沖縄からです。もちろん、はるか台湾やマレーシア、ベトナムも横目でにらんではいますが、大事な何かを見失いそうなのでとりあえず置いておきます。

沖縄で桜が咲いたら、いざスタート! 心行くまで花見を堪能します。次いで九州が咲いたら、九州で。おっと、四国や関東も時期が近そうだから油断はできません。そして中国、近畿、北陸などを経て、東北。さらに北海道にかかります。

各地の満開情報をこまめに収集しながら、ひたすら花見をするのです。この間、太平洋側、日本海側と移動して忙しい。

あ、そうだ。どうせ日本中をめぐるなら落語会ツアーにしましょうか。独演会もいいけど、花見の宴席のことを考えたら弟子たちを引き連れた一門会が楽しそうです。

落語もそう。やるなら、演目もすべて花見にふさわしいものがいいなあ。

古典落語なら定番の「長屋の花見」、「花見の仇討ち」。「花見の歌会」は私の創作落語。古典再構成として作った「河内山宗俊」は、歌舞伎の演目だと「天衣紛上野初花(くもにまごううえののはつはな)」。やはり花見の話です。

そぉれ、花見だ、花見だ! 夜逃げだ、夜逃げだ!(←「長屋の花見」より)

うーむ。それでも考えてみたら、こんなに花見の落語ばっかりではもう翌年は回れませんね。だって前の年とネタがぜんぶ付いちゃうから。

☆         ☆        ☆

次のテーマは、「やったやった!大成功!」。景気のいいところをひとつ、弟子たち、頼んだよ!

(次回4月20日は立川笑二さんの予定です)

立川談笑(たてかわ・だんしょう) 1965年、東京都江東区で生まれる。海城高校から早稲田大学法学部へ。高校時代は柔道で体を鍛え、大学時代は六法全書で知識を蓄える。予備校講師など様々なアルバイトを経験し、93年に立川談志に入門。立川談生を名乗る。テレビの情報番組でリポーターを務めながら芸を磨く。96年に二ツ目昇進、2003年に談笑に改名。05年に真打昇進。古典落語をもとにブラックジョークを交えた改作に定評がある。十八番は「居酒屋」を改作した「イラサリマケー」など。
<今後の予定>独演会は4月13日、5月12日の予定。吉笑(二ツ目)、笑二(同)、笑坊(前座)の弟子3人とともに武蔵野公会堂(東京都武蔵野市)で開く一門会は4月28日、5月29日の予定。
立川談笑HP http://www.danshou.jp/

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