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地元志向、親のため? 進学・就職…少子化で異変

2016/5/1

マイナビ就職セミナーで地元企業の説明を聞く学生(岡山市)
入学や入社、春は新天地での生活が始まる季節だ。でも最近の若者は地元志向が強め。それって一体、誰のためなんだろう。

政府や専門家らが「想定外」と口をそろえる一連の地震が襲った熊本県。今春、県内の地銀に入行した西口雄大さんは熊本市内で育ち、熊本大学で学んだ。地域にこだわらず就職活動したが決め手は地元に貢献したいとの思いだった。好きにしていい、と話していた両親も喜んだ。本音では残ってほしかったのだと痛感した。

「祖父母が要介護世代になる中で自分が残らないと、とも思っていた。今回の地震でも家族の近くにいられて安心した」と話す。今は新人研修中だが、ふるさとに役立ちたい気持ちはより強まった。

■国際派と二極化

生まれ育った場所を離れ、都会を目指す。そんな若者像は変わりつつある。労働政策研究・研修機構の分析では大学進学や就職時に、地方から東京、大阪、名古屋の三大都市圏などに流出する人の割合は若くなるにつれ減っている。大学卒以上の男性では、50代では57%だったのが20代では38%だ。リクルートキャリア就職みらい研究所の岡崎仁美所長も「国際的に見ても日本の地元志向は強くなっている」と指摘する。

なぜだろうか。「一番は親の影響。少子化でみんな長男長女という時代ですから」と語るのは、熊本大学キャリア支援課長の日和田伸一さん。同大では三大都市圏に就職する学生は10年前に約3割いたが今は2割に減った。金沢大学では石川県内の就職率が10年前より5ポイント増え34%になった。留学を経験し、全国や海外で活躍する層と二極化する傾向があるという。

大学進学でも同様の傾向がみられる。北九州の青年が上京する姿を描いた五木寛之氏の小説「青春の門」の舞台となった早稲田大学は、奨学金や学生寮の拡充など地方学生支援に取り組む。にもかかわらず、なかなか効果はあがらない。「今はお母さんが特に息子を手放さない」(同大の教務部入学センター)

子どもの方も親の期待に応えている様子がうかがえる。就職情報サービスのマイナビの2015年の調査では地元就職を希望する理由は「両親や祖父母の近くで生活したいから」が1位。岡山県出身で地元の大学に通い、就職も地元を考えている樋口晴加さんは「家族の近くがいい。親や自分に何かあったときに安心。親も遠い地域での就職は望んでいない」と話す。

■つなぎとめ躍起

若者の地元志向は人口減に悩む地域には希望の星だ。そのため、行政はつなぎとめに必死となっている。香川県では地元就職した学生に奨学金の返還を一部免除する制度を始めた。15年度からは国の後押しもあり、同様の取り組みが鳥取県や徳島県などに広がる。なかには子どもの地元就職を促す親向けのセミナーや大学生に地元結婚を啓発する授業など、やや脱線気味のサービスもみられる。

ただ、親にも地元の自治体にも引っ張られる若者の現状について、自立するまちづくりを支援する一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスの木下斉代表理事は「非効率な産業構造の改革に取り組まなければ地域は発展しない。単なる労働力確保のために引き留めるなら、若者の将来にとってもよくない」と厳しい見方を示す。

親と子と地元による相思相愛にみえる関係は若者のキャリア形成にとって問題点が潜んでいると指摘する声もある。若者の地域移動とキャリアを研究する長崎大学の中島ゆり准教授は「今は地元か東京かという二者択一の議論になってしまっている。地方から地方に移るなど多様なキャリア形成を支援する仕組みが必要だ」と話している。

  ◇   ◇

■「奨学金がもう莫大な借金」、経済的負担も足かせに

短文投稿サイトのツイッター上では「地元の大学ならベンツ買ってあげるって」「どうせ女なんだからって地元の大学勧めてくる」という実態がつぶやかれていた。一方で「地元で就職してしまったら手に入らないものがたくさんある。親という鎖を解いてほしい」「首都圏に行ったら行ったで親が心配……」と悩む声もあった。

奨学金も大きな足かせとなっている。「奨学金払わねばならぬから地元就職かなぁとも思うけど県外出たい夢が絶たれる」「奨学金がもう莫大な借金なので実家から通える範囲に就職したい。でもやりたい仕事は東京ばっかりだなぁ、つらいなぁ」などだ。なかには「首都圏出身者は実家から東京に通える。地理的な差が経済的な差になっている」という指摘もあった。主な調査はNTTコムオンラインの協力を得た。

(福山絵里子)

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