人手が足りず長時間労働が当たり前の介護現場で、働き方を改革し、人材の確保とつなぎとめに成果を上げるところが出てきた。短時間勤務を取り入れ、子育て中の母親が働きやすくしたり、IT(情報技術)で仕事を効率化したり。仕事と家庭の両立をしやすくし、働く場所としての魅力を高めようとしている。
介護施設大手、生活科学運営(東京・港)が川崎市で運営する「上布田つどいの家」。施設内のグループホームで昨年4月から働くパートの兎沢恵さん(31)は、施設で数少ない時短職員だ。
24時間体制の施設は日勤、遅番、夜勤などの勤務がある。1カ月単位でローテーションを作り、兎沢さんを含めた職員9人で担当する。兎沢さんは日勤のみの担当で、本来は午前9時~午後6時までの勤務だが、仕事は午後4時に終える。4歳の長男を保育園に迎えに行くからだ。45分の休憩を除いた1日6時間15分勤務で週4日働く。
兎沢さんの勤務日は午後4時からの2時間、日勤の職員がいない。この部分を午後6時からの遅番の職員が出勤を早めたり、パート職員が2時間だけ働いたりして埋める。実は、穴埋めする職員は、みな子育て経験者。兎沢さんの事情に理解がある。「子どもが大きくなったら8時間働くつもり。仕事は決して辞めない」(兎沢さん)
生活科学運営は、時短以外にも働き方改革に挑む。横浜市の有料老人ホーム「ライフ&シニアハウス港北」では2年前、知的障がいがある柿原政典さん(29)を正社員として雇用した。施設で暮らすお年寄りの洗濯物の回収など周辺業務を柿原さんに任せる。その分、他のスタッフには介護の専門業務に特化してもらい、介護職のやりがいを高めるのが狙いだ。
「きつい、汚い、危険」の3K職場といわれ、人が集まりにくい介護業界。最近は長時間労働のストレスから高齢者を虐待する例が問題になっており、イメージ悪化で人手不足は深刻になるばかりだ。
業界の危機感も強い。公益財団法人介護労働安定センター(東京・荒川)がまとめた「2014年度介護労働実態調査」(有効回答8317事業所)によると、職員の早期離職防止や定着促進策として65.5%が「労働時間の希望を聞いている」と答えた。
東京都町田市を中心に3施設を運営する社会福祉法人合掌苑は、職員の働きたい時間を調べ、あえて夜間だけ働いてもらう制度を11年につくった。午後9時から翌朝7時まで仮眠を1時間とっての勤務で、職員は20人。それまでは、日勤が引き続き夜勤に入るローテだったが廃止した。
夜勤職員は週3日もしくは4日連続して働き、その後4連休または3連休を取る。職員20人中16人は50~60代の女性。日勤だと食事から入浴、排せつのケアまであり、体力的にきついと感じる中高年の人もいるという。夜間、お年寄りは基本的に寝ているので、日中ほど仕事は多くない。年齢を重ねても介護の仕事に携わりたいと考える女性たちのニーズと合った。
合掌苑の採用担当者は話す。「日勤職員のやる気も上がった。介護職員は全体で400人。年間の離職率は以前は25%ほどだったが、15年は9.8%にまで下がった」
ITを使えば、仕事をさらに効率化できる。大都市で訪問介護を展開するエルケア(大阪市)は昨年3月から、職員にタブレット(多機能携帯端末)を持たせている。訪問先での業務報告をその場で入力し、クラウドサービスで勤務先に送信するシステムを導入した。勤務先に戻り、報告書を書く手間を省き、仕事が終われば自宅へ直帰できるようにした。
4月初旬、同社の千葉県船橋市の事業所に勤める高木友美さん(34)は、訪問先の一つ、安斎百合子さん(83)宅を訪ねた。仕事を終えてから、高木さんは安斎さんにタブレットの画面を示す。「きょうは安斎さんと一緒に30分、掃除をしてご飯を作りました。その後、私1人で30分、トイレと風呂を掃除しました。腰が少し悪そうです。こんな内容を入力しました」
安斎さんは「これでいいです」と答える。業務報告を「見える化」したことで、業務時間の短縮だけでなく安斎さんとの信頼関係も強まった。エルケアによると、介護職員が15人で顧客を80人持つ事業所の場合、1人当たり、1カ月で8時間、働く時間が減ったという。
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介護職場の労働環境をよりよくするには、職員の人員配置を効率化したり交代要員を確保したりして、休みを取りやすい職場に改善する必要がある。キャリアパスを明確にして、人生設計を立てやすくするのも大事だ。
そのためには経営者や管理者のマネジメント力が問われる。一部事業所には、マネジメントと労務管理に十分な知識や経験がない経営者らがいるようだ。研修を充実するほか、外部から人材を登用するなど、積極的な経営改革が求められる。
一般に事業所の規模が大きいほど経営の効率性が高く、職員の給与水準が高い。小規模事業所の合併や経営統合を促す施策も重要だろう。
(保田井建)