債券投資、どう選ぶ 利回りと期間目安に

藤志郎と新衣紗、バーバラの3人はコーヒーショップで引き続きマイナス金利談議をしています。「飲み物がなくなったから買ってくる」。新衣紗が席を外すと、藤志郎は意を決したかのように切り出しました。
大学で金融を勉強中の初野新衣紗(はじめの・にいさ=上)と父の藤志郎(とうしろう=中左)、母の利子(りこ=中右)、外資系証券の日本支社で働くアナリスト、バーバラ・スミス(下)

 とうしろう バーバラさん。マイナス金利の影響で長期金利が大きく下がって、新聞でも「長期金利は低下(債券価格は上昇)」とよく書いてありますよね。実はこれが分からないんです。金利が低くなっているときに、何で価格は上がっているのか。

 にいさ パパ、いい質問ね。

 とうしろう 新衣紗、もう戻ってきたのか……。娘の前で基本的な質問で恥ずかしいんですが。

 バーバラ いえいえ、基本は大事です。正確に言うと長期金利は期間10年の国債の利回りのことで、利回りと価格の関係が分かれば債券全般に投資するとき役立ちますよ。

 とうしろう 利回り? あれ、利率とは違うんだっけ?

 バーバラ 基本から説明しますね。債券は満期まで保有すれば額面金額を払い戻し、それまで定期的に利子を払うことを約束した金融商品です。満期にいくら戻すかを示したのが額面で、国内の利付債券は基本的に100円となっています。利率は額面に対して受け取る利子の割合のこと。額面100円、利率0.1%の10年物国債を購入すると毎年0.1円の利子をもらい、満期の10年後に100円が戻るというわけです。

 とうしろう ふむふむ。

 バーバラ 満期まで保有すればもう1つ収益が得られることがあります。債券は金融商品なので一般的に買いたい人が減れば価格は下がり、逆に増えれば上がります。価格が額面より低いときに購入すれば差額が満期時に利益となり、これを償還差益といいます。先ほどの10年債を95円で購入した場合、償還差益は5円ですね。利子総額の1円を加えた投資収益は6円です。投資収益を1年当たりに換算し、投資額である購入価格で割ると0.63%。これが利回りです。

 とうしろう そうか。では国債を買いたい人が増えて価格が105円に上昇した場合を試算すると……。償還時は5円の損が出て、利子を入れても4円の損失だ。利回りは確かに下がるけど、マイナスになるぞ。

 にいさ 実際の10年物国債の利回りも2月下旬からマイナスだよ。損失覚悟で買ってるのかしら?

 バーバラ 買っているのは機関投資家で、満期まで持ち続ければもちろん損失になります。でも現在は日銀がデフレ脱却のため、国債を大量に買い取る政策をとっています。購入価格より高値で買い取ってもらえるとの期待があって、国債を買う投資家が足元で増えているのです。

 とうしろう 利回りと価格、利率の関係はひとまず分かった気がします。

 バーバラ ではちょっと応用編。この資料をみてください。ソフトバンクグループが発行した個人向け社債の例です。43回債は利率が1.74%、46回債は1.26%です。どちらを選びますか。

 とうしろう もちろん利率の高い43回……。ではなくて利回りの高い46回債ですね。

 バーバラ そうですね。でも注意したいのは満期までの期間です。2つとも5年債ですが、発行時期が違うので43回債は約2年3カ月、46回債は約3年5カ月です。残存期間が違う債券を比べるときは、現在の金利情勢がいつまで続くとみるかが大切です。ファイナンシャルプランナーの深野康彦さんは「超低金利が3年5カ月後も続くとみるなら46回債。2年程度で金利が上昇に転じると予想するなら43回債を選び、満期になったら利回りのより高い商品に乗り換えるという手がある」と話しています。

 にいさ 個人向け社債を買いたい人は多いの?

 バーバラ マイナス金利の導入で定期預金など貯蓄性商品の金利が一段と下がったので注目されています。東武鉄道が今年発行した3年債の利回りは0.21%、オリックスの5年債は0.415%でした。ただ人気が高い銘柄が多く、発行されるときに買えない個人投資家は少なくありません。証券会社によってはすでに発行された個人向け社債を扱っているので検討してもいいかもしれません。先ほどのソフトバンク債も既発債の例です。

 とうしろう ほかに個人が買える債券にはどんなものがありますか。

 バーバラ 利回りが高いのは外貨建て債券です。海外の国や企業などが発行します。代表的なのは米国債で、例えば残存期間10年弱の利回りは足元で約1.5%です。最近は信用力の高い国際機関が南アフリカランドやトルコリラ、インドルピーなど新興国の通貨建てで発行する例が目立ちます。利回りが10%近いものも珍しくありません。

 とうしろう どこに行けば買えますか?

 バーバラ 証券会社で購入できますよ。大手証券会社のホームページでは既発債の価格や利回りなどが一覧になっている例があります。選ぶときは利率ではなく、利回りを重視するのは国内債券と同じです。利回りが高くてもその国の通貨が対円で下落すると損失を被るなど為替変動リスクがあります。為替手数料もかかるので、購入する際は慎重に検討しましょう。

■高金利の仕組み債には注意
ファイナンシャルプランナー 根本寛朗さん
マイナス金利政策の導入以降、より高利回りの金融商品に力を入れる金融機関が増えています。特に目立つのが金融派生商品(デリバティブ)を組み合わせた「仕組み債」です。株価指数があらかじめ決めた水準を下回ると償還額などが連動する「リンク債」や特定の銘柄の株価が一定水準を下回ると株式で受け取る「他社株転換条項付債券(EB債)」などが代表例です。通常の債券より高利回りですが、株価指数や株価の下落が続けば、元本割れするリスクがあります。
こうした商品は仕組みが複雑です。指数や株価の上昇が商品設計上の上限になると早期償還される可能性もあります。仕組み債に投資する余力があるなら、上場投資信託(ETF)などのインデックス投信や個別銘柄の株式に直接投資することをお勧めします。(聞き手は藤井良憲)

[日本経済新聞朝刊2016年4月9日付]

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