「無縁墓」どうする 小谷みどり氏インタビュー130万人のピリオド(9)

2016/4/11

安心・安全

無縁墓として撤去された墓石の山積場(小谷みどりさん提供)
無縁墓として撤去された墓石の山積場(小谷みどりさん提供)

引き継ぐ人がおらず、長い間放置される「無縁墓」が増えている。少子化や過疎で墓守が絶え、荒れ果てた墓や不法投棄された墓石を各地で見かける。年間130万人以上が亡くなる社会で、深刻さを増す無縁墓の問題とどう向き合えばよいのか。墓事情に詳しい第一生命経済研究所ライフデザイン研究本部の小谷みどり主席研究員に聞いた。

第一生命経済研究所ライフデザイン研究本部主席研究員 小谷みどりさん

――無縁墓の現状をどう見ていますか。

「間違いなく増えているとの実感はある。熊本県人吉市が2013年に市内の全墓地を調査したところ、約4割が無縁墓だった。ただ他の自治体ではほとんど調べていないため、全国でどのくらい無縁墓があるのか分からない。空き家と同じ社会問題なのに可視化されていない」

「高齢者だけの世帯や、未婚・離死別で配偶者や子がいなくなり、先祖代々の墓を継げない例がこの30年で増えた。これだけなら個々の家庭の問題だ。しかし見逃せないのは高度成長期以降の都市部への人口集中が、無縁墓の増加につながっていること。国立社会保障・人口問題研究所の11年の調査では、居住地と出生地がずっと同じ人は1割程度しかいない」

――先祖の墓のそばに一生住み続ける人は少数派ということですね。

「墓が遠くにあり、お参りにいけない。住まいの近くに墓を移したいと考える人は多い。墓の引っ越しである『改葬』は近年増加傾向にある。一方で継ぐ人がおらず、改葬では何の解決にもならない人々の間では、先祖の墓を処分する『墓じまい』をする例もある」

「もっとも、こういった行動に踏み切る人々は、墓の問題をかなり前向きに考えているといってよい。全国の35~79歳の男女600人に調査したところ、自分の墓が無縁墓になるかもしれないと考える人は半数を超えた。子どもがいる人でも過半数は無縁化する可能性があると思っていた。ただ、いざどう備えるかとなると、まだ現実的に考えられない人は少なくない」

――世代の違いで受け止めに差があるのでしょうか。

「今の70代以上の人々の悩みが、特に深いと感じる。3世代同居で幼少期を過ごし、明治時代の家制度を守って生きてきた祖父母から、先祖代々の墓を守る大事さについて繰り返し聞かされた世代。時代が変わったことは十分承知していても『自分の代で無縁にしてはご先祖さまに申し訳ない』と、先祖の墓を継げないことに思い悩んでいる人が目立つ」

――無縁墓が増えると、どんな問題が起きるのでしょうか。

「墓守が絶えた無縁墓を撤去するとき、引き取り手のない墓石を処理業者らが不法投棄するという問題がある。兵庫県の淡路島で大きな問題になった不法投棄の墓石は、今もほぼ手つかずのまま。ここ数年だけでも全国各地で不法投棄が発覚している」

「荒れ果てた墓地を見た人は『自分も墓守がいなければこうなるのか』と感じる。戦後、家制度から解き放たれ多様な生き方を認める社会になったのに、人生の最期でやはり子々孫々のつながりが必要だと思い知らされる。これは矛盾しているように思う」

――では、どうすればよいのでしょうか。

「まず、墓を無縁化させない仕組みをつくる必要がある。具体的には、子孫が継ぐことを前提とした永代使用ではなく、継ぐ人の有無にかかわらず、どんな人も平等に30年、50年といった使用期間を定める方法がある」

「特に自治体の公営墓地は、使う機会を市民に広く平等に与える必要がある。期間限定という方法は有効だろう。貧しくても身寄りがなくても、誰もが遺骨を納める場所を確保できるような福祉の観点が必要だ」

「フランス・パリ市の例は参考になる。公営の土葬墓地では永久、50年、30年、10年、6年と使用期限を細かく設け、遺族が選べる。期限がくれば更新できる。更新しない場合は遺体を掘り起こし火葬にして共同墓に改葬する。日本でも公営墓地や寺が運営する合葬式の墓で例が増えている。使用期限をつけ、継ぐ人がいれば更新し、いなければ共同埋葬するのだ」

――この方法なら、自分の墓が将来、無縁墓として放置されるという不安はなくなりそうですね。

「人が死を恐れるのにはいくつか理由がある。一つは死ぬまでの過程で痛みや苦しみがあるのではという恐怖。終末期医療の問題だ。そしてもう一つは死んだ後にどうなるのかわからないという不安だ。自分が入った墓は無縁墓にはならないと生きているうちに確証を得られれば、そうした不安は軽くなる。死後の安寧を保証する仕組みともいえる」

「死の恐怖にかられる理由に『人々に忘れられてしまうのでは』というのがある。ただこれは、死んだ後に墓参りをしてもらえるかということより『きっと自分をしのんでくれる』と思える相手がいることで、恐怖が安心に変わるのではないか。生きている間に、まわりの人とどういう縁を築くかが問われてくる」

こたに・みどり 第一生命経済研究所主席研究員。博士(人間科学)。専門は死生学、葬送問題。近著に「だれが墓を守るのか」(岩波ブックレット)、「ひとり終活」(小学館新書)。大阪府出身、47歳。

(聞き手は生活情報部次長 武類祥子)

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