小容量炊飯器が高級化 5機種対決は総合力でパナ
炊飯器の高級化が、3合炊き前後の小容量タイプに波及してきた。2012年2月に三菱電機が5.5合炊きの上位モデルと同等の「本炭釜」を採用した3.5合炊きモデルを発売し、他メーカーも次々に参入。1万円前後が主流だった小容量炊飯器に、高級ブームが訪れた。
日本電機工業会の出荷台数を見ると、炊飯器市場における容量別シェアは一般的な5.5合炊きがこの5年間、6割強と変わらない。一方、11年に約18%だった小容量炊飯器の比率は15年に22%(メーカー予測値)にまで拡大した。「おいしいご飯は食べたいが、5.5合炊きは大きすぎるというシニア世帯が増えた」(三菱)ことが見て取れる。
5社の小容量・高級炊飯器で対決
気になるのは、少しのご飯をおいしく炊くために、小容量の高級モデルを選ぶのが「正解」なのかどうか。そこで今回、大手5社の小容量・高級炊飯器を比較した。対象は「極め炊き NP-QS06」(象印マホービン)、「GRAND X THE 炊きたて JPX-A061」(タイガー魔法瓶)、「備長炭かまど本羽釜 RC-4ZWJ」(東芝ホームテクノ)、「可変圧力おどり炊き SR-JX055」(パナソニック)、「本炭釜 NJ-SW067」(三菱)の5台だ。
これらの小容量モデルは2つのグループに大別できる。一つは象印やタイガーのように、5.5合炊きの高級モデルをそのまま小容量にしたタイプ。三菱も近いが、内釜が最高級の「本炭釜 KAMADO」ではなく、ワンランク下の「本炭釜」である点が異なる。
もう一つが、一部の機構を省いて小型化したモデル。パナソニックはスチーム機能とIHコイルの高速切り替え機能を省き、可変圧力IHを単体で搭載。東芝は真空機能と圧力機能をカットして小型化した。
炊きたての味では三菱が優れる
実際に炊いたご飯の味に差は出るのか。5モデルでそれぞれ2合のご飯を炊き、日本炊飯協会認定の「ごはんソムリエ」4人と試食した。
炊きたての味で最も評価が高かったのが三菱。米粒の白さや粘り、甘みとうまみのバランスに秀でていた。「粒感があり、適度に軟らかく、甘みもある」(ごはんソムリエの鈴木慎吾氏)。三菱に次いだのがパナソニック。風味のバランスに加えて、粒立ちや見た目の艶やかさを評価する声が上がった。一方、「やや圧力が強すぎて水分が多めの印象」(ごはんソムリエの山本啓代氏)との指摘もあった。
ところが、この2モデルの評価は冷やご飯で逆転する。パナソニックは水気の多さがなくなってバランスが良くなったのに対して、三菱は粘りや甘みが少なくなった。常に炊きたてで食べるなら三菱、弁当などに冷やご飯を使うならパナソニックが勝る印象だ。
残る3モデルの評価は賛否が混在した。東芝は「ふっくら炊けている」という評価が多勢だったが、冷やご飯では「やや硬さが気になる」との意見も。タイガーは風味が強くしっかりした食感で、「硬めのご飯が好きな人に向く」(山本氏)。象印は火力が強すぎたのか「香りは非常にいいが黄色みが気になる」(鈴木氏)との声が出た。
次に使い勝手はどうか。使用後の洗いやすさでは、非圧力の三菱と東芝は洗う部品が少なくてラク。ただし、可変圧力ながら内蓋の構造がシンプルなパナソニックも扱いやすい。タイガーと象印は圧力ボール部の洗いにくさが気になった。内釜は鉄製の象印が1075gもあり、米と水を入れるとかなり重い印象。東芝は830gで、米と水を加えれば1kgを超える。三菱とタイガーは釜が割れやすい素材なので、取り扱いに注意が必要だった。これに対し、パナソニックは内釜が530gと軽く、素材も頑丈なので最も扱いやすかった。
総合的に判断すると、炊きたてと冷やご飯の味、使いやすさでバランスの取れたパナソニックが優位。これに三菱が続く。
なお、参考までに5.5合炊きの高級モデルで一番人気のパナソニック「Wおどり炊き SR-SPX105」でも2合を炊いて試食したところ、炊きたての食感はやや水気が多い印象に。スチーム機能が大容量に最適化されているため、やや水分が多くなったようだ。「一般的に大容量モデルで少量のご飯を炊くと対流が十分にできず、炊き上がりにムラが生じる」(大手家電量販店)ともいわれる。炊飯器は原則として"大は小を兼ねず"で、炊く量が少なければ小容量モデルの味が上回ることを知っておきたい。
以下では、今回対決した5機種について講評する。
「おどり炊き」で対流を促す
実勢価格5万9850円(税込み)
方式:可変圧力IH
内釜の素材:ステンレス&アルミ
炊飯容量:3合
●サイズ・重さ/幅227×高さ191×奥行き285mm・約4.7kg●最大消費電力/700W●炊飯容量/0.54L(3.0合)
炊飯時の圧力を2段階で素早く切り替えて対流を起こす「可変圧力おどり炊き」を採用。炊き上がりの白さが鮮やかで粒が立っており、艶もあった。米の甘みが十分に引き出されており、冷やご飯でも味がほとんど落ちなかった。扱いやすさにも優れ、総合的なバランスに秀でる。
鮮やかな白さと甘み、水分が多めとの声も
「銀シャリ」コースで炊飯。鮮やかな白さが印象的で、甘みとコシがあった。一方、「やや水分が多め」との声もあった
冷やご飯:◎
炊きたてのバランスの良さを維持
時間がたっても風味や食感のバランスを保ちながら、炊きたての際に気になった水気の多さがなくなった
使い勝手:◎
構造はシンプルで扱いやすい
蒸気カバーと内蓋の加熱板を取り外して洗える。内釜が530gと5機種で最も軽いので扱いやすかった
熱伝導率が高い「本炭釜」採用
実勢価格6万7800円(税込み)
方式:IH
内釜の素材:炭素材料
炊飯容量:3.5合
●サイズ・重さ/幅231×高さ204×奥行き289mm・約4.3kg●最大消費電力/750W●炊飯容量/0.63L(3.5合)
内釜に炭素材料を使った「本炭釜」が特徴。胴回りのヒーターを2重にして火力を高める。炊きたては甘みとうまみのバランスに優れていたが、冷めると粘りや甘みがやや失われる結果に。手入れのしやすさも利点。炊きたてを食べる機会が多いなら第一の選択肢に入る。
色艶と甘み、食感で最も高い評価を得た
「白米/普通」で炊飯。米粒の白さや粘り、甘みとうまみのバランスの良さが際立っており、最も評価が高かった
冷やご飯:○
食感や甘みなどがやや失われた
炊きたての際のバランスが、冷めたことでやや失われた印象。「粘りや甘みが減っていた」との声があった
使い勝手:◎
内蓋のみ洗えばいいのは利点
蒸気口が内蓋と一体になっているため、内蓋だけを取り外して洗えばいい。メンテンスは容易だ
ご飯の風味は個性が薄い印象
実勢価格9万460円(税込み)
方式:IH
内釜の素材:ステンレス&アルミ
炊飯容量:2.5合
●サイズ・重さ/幅280×高さ180×奥行き289mm・約4.5kg●最大消費電力/1000W●炊飯容量/0.45L(2.5合)
高さのある羽釜形状の内釜を採用し、1000Wの強い熱で炊き上げる。ふっくら炊けていたものの、甘みや粘りが特に強いわけではない。この傾向は冷めても変わらず、際立つ個性が感じられない結果になった。炊飯容量は2.5合と少なめだ。
ふっくらと炊けたが甘みや粘りは強くない
「かまど名人/おすすめ」で炊飯。ふっくら炊けていたものの、甘みや粘りが特に強いわけではない。「やや水気が多い」との意見も
冷やご飯:○
炊きたてより硬さを感じた
炊きたてと比べると硬さを感じるようになった。バランスは良くなったが、際立つポイントはない
使い勝手:◎
タッチ操作は慣れれば使いやすい
洗うのは上部カバーにある小さな蒸気蓋と内蓋のみと簡単。タッチ操作は慣れが必要だが使いやすい
"土鍋"の採用で熱伝導を向上
実勢価格12万1060円(税込み)
方式:可変圧力IH
内釜の素材:土素材
炊飯容量:3.5合
●サイズ・重さ/幅238×高さ218×奥行き277mm・約6.2kg●最大消費電力/850W●炊飯容量/0.63L(3.5合)
本体の内側と内釜の両方が土素材で、蓄熱性と熱の伝導性の高さをうたう。炊き上がりの食感は粘りの強さが印象的で、好みが分かれそうだ。冷めるとやや硬くなり甘みが減ってしまった他、内蓋の圧力機構などを洗うのに手間がかかった。
香りや粘りが最も強い、個性的な味は評価を二分
「極うま白米」で炊飯。最も粘りがあり、もちもちした食感。風味の個性が強かったことから、評価が大きく分かれた
冷やご飯:○
粘りの強さゆえに硬めになった
炊きたての粘りの強さは、冷めると硬さに変化。甘みがやや失われた他、見た目が僅かに黄色っぽくなった
使い勝手:△
圧力機構の洗浄はやや手間
圧力機構のボールと大型の蒸気口は、洗浄に手間がかかる。タッチパネルの操作は慣れれば使いやすい
"南部鉄器"の釡で高熱を保つ
実勢価格8万3110円(税込み)
方式:IH
内釜の素材:鉄
炊飯容量:3.5合
●サイズ・重さ/幅265×高さ225×奥行き320mm・約6.0kg●最大消費電力/865W●炊飯容量/0.63L(3.5合)
南部鉄器の技術を応用した鉄製の内釜を採用する。炊き上がりは香りが強くもちもちした食感だが、ご飯が黄色がかっているのが気になるとの声も。冷めるとくっつきやすく、弁当には不向きな印象だ。また、洗うべき部品の数が多いので、手入れのしやすさでは他に譲る。
甘みやもちもち感が強いご飯に黄色みがかる点も
「白米/ふつう」で炊飯。ご飯の香りが非常に強く、もちもち食感。一方で、見た目が黄色がかっている点が気になるとの意見も
冷やご飯:△
場所によっては団子状に
粒が潰れていて団子状にくっついてしまう部分があった他、炊きたてよりも黄色みが強くなった
使い勝手:△
洗う部品が最も多かった
内蓋が二重構造のため、洗う必要がある部品の点数は5機種で最も多い。圧力ボールは洗いにくい
(デジタル&家電ライター コヤマタカヒロ)
[日経トレンディ2016年4月号の記事を再構成]
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