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人気再燃カセットテープ ノイズや面倒くささも新しい

2016/4/18

HMV record shop 渋谷では入り口のすぐ脇にカセットテープがずらりと並ぶ
 音楽をデータで聴く時代になって久しい。CDの売上げは右肩下がりの一方で、2015年にはApple Musicなどの音楽を定額ストリーミングで聴き放題になるサービスが開始した。音楽の脱・モノ化が進む一方で、近年、カセットテープの人気が高まっているという。支持しているのはカセットテープに触れたことのない20代の音楽好きの若者達。レコードショップでの企画展も開催され、2015年夏にはカセットテープ専門店もオープンしたほどだ。時代と逆行するようなこの人気、一体何が魅力なのだろうか。

■カセットテープを知らない世代が評価

 現在、渋谷や中目黒という若者が多い土地を中心に、続々とカセットテープを扱うイベントや店舗が生まれている。ビームスが展開する音楽部門「BEAMS RECORDS」は、15年3月にカセットテープを集めた企画展を開催した。14年に渋谷にオープンしたHMV record shopではアナログレコードとともにカセットテープを精力的に取り扱っており、15年の夏には中目黒に中古カセットテープ専門店「waltz(ワルツ)」がオープン。店頭にずらりとカセットが並んだ姿に古くささはなく、どこも現代風にアップデートされスタイリッシュな印象だ。

 「14年のオープン当初から、米国をはじめとする外国ではカセットテープの売れ行きは好調でした。日本で盛り上がりを感じるようになったのは15年のはじめ頃。以来、当店でもカセットテープのコーナーを徐々に広げています。20代の女性がプレゼント用にラジカセとカセットを購入していったこともありましたね」(HMV record shop 渋谷・竹野智博さん)

 「現在はミュージシャンやクリエイターといった影響力のある人達が、こぞってカセットテープを気にしている。彼らがSNSに画像をアップすることでフォロワーに拡散され、その人気が若者にも広がっています」(waltz・角田太郎さん)

HMV record shop 渋谷のカセットテープのコーナーは拡大しているという

■アナログな音質や面倒くささも魅力の一つに

 カセットテープがはじめて発売されたのは1962年。発売当初は会議などの録音が主な用途だったが、70年代頃から音楽メディアとしても浸透しはじめる。アーティストがカセットテープでリリースした作品をそのまま聴くこともあれば、自分で録音してオリジナルのテープを作る楽しみもあり広く普及した。ところが、82年に登場したCDの台頭により、その市場は次第に縮小していく。2000年代に入るとmp3と呼ばれる音楽ファイル圧縮技術も浸透し、カセットテープは次第に姿を消していった。

 音楽メディアはアナログからデジタルへと変遷を遂げてきた。それではなぜ今、アナログなカセットテープが再評価されているのだろうか。カセットテープ収集家の松崎順一さんによると、「単純にモノとしての存在感が、逆に若い世代には新鮮に映った」という。

 「まず、カセットテープの少し前にレコードのリバイバルが起こりました。レコードはCDよりもサイズが大きく、凝ったジャケットをじっくり眺めたり部屋に飾ったりする楽しみが評価された。カセットテープも、CDとは異なる長方形のパッケージやコンパクトな外観が、リアルタイムにカセットテープを経験していない若者には魅力的に映ったのでしょう」(松崎さん)

 もちろん、その魅力は外観だけに留まらない。聴くまでの面倒くささやノイズさえも、魅力の一つとして評価されている。

 「デジタルの音源はきれいですが、徹底的にノイズを消されると人間味がない。いわゆる高音質とは違う、あたたかみのある音の魅力にはまる人は多いです。何でもデジタル化していく現代へのカウンターカルチャーとして注目する人もいますね」(松崎さん)

 「カセットテープはその構造上、デジタルのように1曲だけ飛ばしたり、曲の頭出しなどもスムーズにできません。面倒くさいと思うかもしれませんが、かえって音楽とじっくり向き合えるともいえる。mp3の普及や定額制ストリーミングサービスによって音楽が手軽になった今、レコード会社の方達もこの特性を利点として捉え、新たな音楽の流れをつくれないか模索しています」(waltz・角田さん)

 現在、カセットテープでの新作発表はインディーズのミュージシャンが中心。アイドルグループのでんぱ組.incなども継続的にカセットテープでのリリースを行っている。若者達には「新しいことをやっている」と評価されるようだ。

■今後の展開を握るラジカセの普及

 カセットテープの人気再燃に比例するように、カセットテープレコーダーの売り上げも伸びている。調査会社GfKジャパンによると、15年の家電量販店におけるカセットテープレコーダーの売上げは数量で前年比20%増、金額で同21%増となった。

 しかし、昨年12月に新商品を発売した東芝エルイートレーディングの商品企画部によれば、「顧客のターゲット層は60~80代」だという。「若者向けにカセットテープが人気を集めていることは知っていますが、現在はまだ市場動向に興味を持ちつつ検討中の段階です」(東芝エルイートレーディング商品企画部)

 ラジカセの修理や整備品の販売を手掛ける松崎さんは「現行品の種類が少ない」という声をよく聞く。「中には聴く環境がないからカセットを買っても飾っているだけという人もいます」

 最近はカセットテープにダウンロードコードがついており、音源はデジタルで聴けるようになっているものもある。デジタルとアナログを融合したうまい手法といえるが、やはりせっかくアーティストがカセットテープとして作品を発表しているのだから、アナログの味わいを楽しみたい。

waltz店内の年代物のラジカセ棚。中目黒という土地柄、感度の高い人を中心に話題を呼んでいる。今年からは中古ポータブルカセットプレイヤーの販売もスタートした

 現在、松崎さんは自身がプロデュースしたラジカセを製作中という。先述のBEAMS RECORDSやHMV record shop渋谷など、若者向けのショップを中心に販売する予定だ。

 「以前、中古ラジカセの販売を行いました。決して安くはない商品でしたが、売れ行きは好調でした。需要は間違いなくあると思います」(HMV record shop 渋谷・竹野さん)

 「アーティストがカセットテープで新譜をリリースする動きは活発になってきましたが、これに対して良いラジカセが少なかったり、重点的に扱うお店が少ないのが課題でした。いわば盛り上がり方に軸がなかったんです」と松崎さん。「そうした問題がここ1年くらいの間に次々とクリアになってきている。16年は『カセットテープ元年』だと思います」

 4月22日からは松崎さんの監修によるラジカセの展覧会「大ラジカセ展」が大阪・梅田ロフトにて開催。安齋肇やみうらじゅんなど多数のクリエイターが参加し、「カセットテープ元年」を盛り上げるという。

4月22日より開催される大ラジカセ展。松崎さんのコレクションによるラジカセの歴史や、カセットテープについての展覧会となる。夏には東京でも開催予定だ

(ライター 小沼理=かみゆ)

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