音声学者がネコ語の研究を本格始動
米ニューヨーク州で2015年に行われたアンケート調査によると、ペットを飼っている人のほとんどが、人間に話しかけるようにペットに話しかけているという。また多くの飼い主は、イヌやネコが吠えたり鳴いたりして、空腹や恐れ、トイレに行きたいなどの意思を人に伝えていると考えている。
だとすると、そのとき動物たちが発する声には、ニューヨークなまりがあるのだろうか?
そんな疑問を抱き、ネコとの音声コミュニケーションについての研究を立ち上げたのは、スウェーデンの愛猫家でルンド大学の音声学研究者、スザン・ショッツ氏だ。氏自身も3匹のネコを飼っている。
実験のため、スウェーデン最南端の町ルンドと、そこから500キロ北にあるストックホルムで氏は協力者を募っている。このふたつの地域は大きく異なる。研究の目的は、ネコたちの鳴き声にも同じように違いがあるのかを調べることだ。
また、ネコの鳴き声にはさまざまな意味があるのか、飼い主の話しかけ方に応じて違った鳴き方を示すのかも研究する。
この研究についてショッツ氏に話を聞いてみた。
―― そもそも、ネコはなぜ鳴くのでしょうか。
ネコは人間とコミュニケーションを取る時に、視覚と音声の両方のシグナルを使いますが、私たちの注意を引きたい場合には声を出します。他のネコとは、視覚と嗅覚でコミュニケーションを取ることが多いです。ネコが「ニャー」と鳴くのは、ほとんどの場合人間に話しかけているのであって、他のネコに対して鳴くことはあまりありません。
意思疎通がしやすいように、自分たちだけに通じる言葉を発達させているネコと飼い主も多いようですが、人が話しかける言語が同じならネコの鳴き方に共通点があるのか、それともそれぞれのネコと飼い主のペアによって変わってくるのかは分かりません。
―― 人は、ネコなどのペットに話しかける時と人間に話す時と、どう区別しているのでしょうか。
ネコに話しかける時、人は小さな子どもに対するように話すことが多いです。普段よりも高く、抑揚のある声で、話し方には歌うときのようにメロディアスな一定のパターンが見られます。
―― 研究ではどのような情報を集めるのでしょうか。
スウェーデンのふたつの地域に住む人とネコの音声を録音します。最初の研究では、ネコの鳴き声の旋律を分析し、違う感情を抱いている時や別の種類のネコにも同じ規則性が見られるのかを調べます。次に、ネコに様々な人間の話し声を聞かせ、どのように反応するかを見ます。小さな子どもに対するように話しかけられることを好むのか、それとも大人として話しかけられるのを好むのか。また、イントネーションや話し方から聞き慣れた声を認識することができるのか。このあたりはまだ分かっていません。
―― ネコが好む声の種類をどう測定するのでしょう。どんな点を調べますか。
さまざまな話し方をする人間の声をたくさん集める予定です。それからネコが飼われている家に行って、スクリーンの後ろにスピーカーを設置し、集めた音声を再生してネコの反応をビデオに録画します。耳や頭の動き、体の姿勢といったものを観察します。
――この研究でどんな成果を得たいですか。
もし、「ちょっと小腹がすいた。おやつちょうだい」と言うときにほとんどのネコが同じような旋律を使い、「すごくお腹がすいて、もう死にそう」と言うときも大半のネコが同じような旋律を使っているとすれば、彼らの言わんとしていることを理解できるようになるでしょう。
旋律はネコの種類によって異なるかもしれません。あるいは、人間の話し方に特定の旋律がある国のネコは、他の国のネコとは違う鳴き方をするかもしれません。ネコの鳴き方にこうした違いがあるとわかれば、飼い主がネコの言葉を理解する手助けができるかもしれません。
(文 Carrie Arnold、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2016年4月1日付]
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