中南米で大流行「ジカ熱」 リオ五輪後は国内も注意
ジカ熱の原因となるのは、1947年にアフリカ・ウガンダのジカ森林で初めて確認されたジカウイルス。「2014年に国内で感染が広がったデング熱の仲間で、同じように蚊を媒介とした感染症だ。症状は、微熱、弱い関節痛、皮疹などで、デング熱に比べてマイルド。約8割は症状が出ない不顕性(ふけんせい)感染だとされる」。国立国際医療研究センター国際感染症センターの忽那(くつな)賢志医師はそう説明する。
ただ、やっかいなのは、妊婦が感染すると胎児が小頭症になる可能性があること。そのため、WHOは16年2月に緊急事態宣言を出して妊婦の流行地域への渡航自粛を勧告している。
流行地ブラジルと米国の研究者らの報告では、15年9月から16年2月に感染が確認された妊婦42人のうち12人(29%)に超音波検査で胎児の異常が確認された。そのうち2人は胎内で死亡。5人に小頭症を含む発育不全、7人に中枢神経の発達障害、羊水や血流の異常は7人(重複あり)に見られたという。
また、感染者の症状は微熱と発疹だけなど軽いことが多いが、海外では、ジカ熱への感染をきっかけにギラン・バレー症候群を発症する人も出ている。「ジカウイルスを媒介するヒトスジシマカが日本で発生する5~10月は、国内感染が一時的に広がる可能性がある。それを防ぐために、流行地への渡航者は蚊に刺されないようにし、日本にウイルスを持ち帰らないようにしてほしい」と忽那医師は強調する。
国内で感染する恐れがあるのは、海外でジカウイルスに感染した人の血を吸ったヒトスジシマカに刺された場合だ。特に、リオ五輪が開催される16年8月は、ブラジルへの渡航者が増え、感染が拡大しそうだ。
さらに、ヒトスジシマカに刺された場合以外に、感染者との性交渉でも感染する恐れがある。「流行地への渡航者は帰国後も4週間程度は蚊に刺されないようにし、性交渉も含めて、妊婦や妊娠の可能性のある女性にうつさないようにする配慮が必要。デング熱、チクングニア熱など蚊を媒介にした他の感染症の流行の可能性もあり、国内で蚊を増やさない対策も重要だ」。忽那医師はそう注意を促す。
この人に聞きました
国立国際医療研究センター 国際感染症センター勤務。1978年生まれ。2012年から現職。海外渡航者が持ち込む輸入感染症の診断・治療と対策を担当。これまで輸入感染症のジカ熱3例を診断、エボラ出血熱疑いの患者4例を診療している
(ライター 福島安紀)
[日経ヘルス2016年5月号の記事を再構成]
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