後田(以下U):「保険の話って医療費や老後資金など、様々な『不安』に焦点を当てて展開されることが多いでしょう。『入院時に貯蓄を取り崩す不安は大きなものです』といった話を聞くとどうですか」
Dさん(以下D):「確かに不安になるに違いないと思います」
U:「お金がいくらかかるのかよくわからないことも、不安をかき立てますよね」
D:「それはありますね」
U:「そこで、保険に入っておくことで入院時にどれくらいのお金を受け取ることができるのか、一つの目安にはなるかと思って2014年度の個人保険の『入院給付金』の支払い実績を調べてみたんです。」
D:「いくらくらいなんですか?」
U:「1件当たり11万円程度です。『手術給付金』もやはり11万円くらい。平均値なので、実際には数万円の給付が多いのだろうと推察されます。保険って10~20万円くらいのお金をもらうために入るものなのか、疑問に思いませんか?」
D:「でも入院したときの10万円は通常の10万円とはありがたみが違うのではないでしょうか」
U:「ポイントはまさにそこだと思うんです。『入院した時のお金』と意識し過ぎないほうがいいのかなと」
D:「どういう意味ですか?」
U:「例えば、たとえば、帰省とか冠婚葬祭などで、10万円程度の出費が発生することってありますよね。そういうお金は『痛いなぁ』という感覚はあるとしても、貯蓄や日常の生活資金の中でやりくりしているはずです」
D:「まあ、そうですね」
U:「そういうお金については自分の貯蓄や財布から出すので、そのお金を準備するコストはかからないですよね」
D:「はい」
U:「でも『医療保険』などから支払われる10万円は、加入者が支払った保険料から代理店手数料など保険会社の運営費が差し引かれた残りのお金が原資です。保険会社で商品設計に関わっている保険数理人に確認したところ、医療保険の保険料が、給付金として加入者に還元される割合は70%程度だそうです」
D:「70%といわれても、どう受け止めればいいのか……」
U:「はい。それでは、医療保険専用ATMから10万円引き出そうとしたら3万円を超える手数料がかかる、と想像してみてほしいんです」
D:「『ふざけんな!』って、思いますね(笑)」
U:「そうでしょう。『10万円を調達する方法』として考えると、医療保険で10万円を調達しようと思ったら、3万円を超えるコストがかかるとみるべきなんです。金融機関にとってずいぶんおいしい仕組みだなと思えてきませんか」
D:「う~ん。じゃあなんで医療保険に加入する人が結構たくさんいるんでしょうか」
U:「先ほどもお話ししたように、『入院時の不安』に着眼したストーリーを保険の営業担当者が展開するので、その影響なのかなと思うんです。自分が困っている時を想像すると、保険に入って安心したいという気持ちが強くなって、手数料のことなどを考えなくなるのではないでしょうか」
D:「自分がピンチになった状況を想像することで浮足立ってしまうのかなぁ」
U:「だと思います。だから、あくまでお金を用意する手段として見てみることが大事だと思います。現に保険会社で働いていて『医療保険には入る気がしない』と言う人が少なくないのは、死亡保険のように1000万円単位のお金を用意できるわけでもないのに、コストがかかり過ぎるという認識があるからです」
D:「保険会社の人は入りたくないんだ」
U:「私が知っている人たちには不人気ですね(笑)。繰り返しますけどATMでお金を引き出すとき、できるだけ手数料がかからない方法を選ぼうとしますよね」
D:「時間外手数料などをできるだけ避けようとします」
U:「必要なのは『お金』ですから、別途、余計なお金がかかる方法でお金を用意するのはバカらしいと判断しているわけです。保障も貯蓄も同じです。老後や進学など『○○のために備えるお金』というテーマ設定はしないほうがいいんです。次回、そのあたりのお話をします」
