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迷子の土地 全国で拡大  農地集約や再開発 滞る

2016/4/10

鹿児島県指宿市では所有者不明の土地が農地活用を妨げている
土地の持ち主や境界が不明のまま、有効活用が滞るケースが各地で相次いでいる。問題を放置すれば解決がいっそう困難になり、将来世代に禍根を残すと懸念されている。

「市役所の力ではもはやどうしようもない」。オクラやサツマイモの栽培が盛んな鹿児島県指宿市の農政課長、松沢敏秀さんは顔を曇らせる。意欲的な農家に土地を借りてもらうなど農地の大規模集約化を促そうとしても、思うように進まないのだという。

■死亡者の名義に

農地の集約では所有者と賃貸契約などを交わす必要があるが、現在の所有者が分からない。不動産の登記は任意なので、相続などの際に名義が変更されないで、死亡した人の名義のままになっているケースが対象農地の3~4割に達する。こうなると相続権者を突き止めて契約への同意を取り付ける必要があるが、都会に出るなどして地元にいない人も多い。手間とコストが膨大になり、結局あきらめてしまうことになる。

似たような問題は全国的に広がる。長崎県では道路工事の予定地に、明治時代に47人の共有地として登記された原野があった。2008年に用地交渉を始めたものの、相続権者が約500人に達しており、解決のメドは立たない。

所有者不明の土地が注目を集めたのは、東日本大震災の復興工事がきっかけだ。高台移転や防潮堤の建設のため予定地を買収しようとしても所有者は明治時代などの名義のまま。相続権者が海外にいる場合もあり、気が遠くなるような手間がかかってしまう。

福島県では原発事故の除染で出た廃棄物を保管する「中間貯蔵施設」の建設が予定されているが、約1600ヘクタールの用地のうち、買収できたのは3月時点で22ヘクタール。土地・建物の登記上の所有者2365人の約4割がすでに死亡しているとみられ、前途は多難だ。

東京財団が2014年に全国の市町村などに実施したアンケートによると、回答した自治体の63%が、土地の所有者不明で問題が発生したことが「ある」と答えた。同財団の吉原祥子研究員は「『土地は資産』との前提が成り立ちづらくなってきたことが問題の背景にある」と指摘する。

国土交通省の意識調査によると「土地は預貯金や株式などに比べて有利な資産か」という質問に「そう思う」と答えた人は1993年度に61.8%だったが、14年度は30.3%に半減。人口減少もあって土地の利用価値が下がり、固定資産税など保有コストが意識されるようになった。

土地の所有者だけでなく、境界の不明も、この問題をいっそうややこしくしている。

■公的管理も必要に

法務省は東京五輪の選手村予定地に近い都営地下鉄・勝どき駅の周辺で土地の境界調査を進める

日本では土地の境界を画定させ、各地の法務局に地図を備え付けるため、1951年から市区町村主体で「地籍調査」を実施している。ところが、進捗率は15年3月末時点で51%どまり。法務局には明治時代の不完全な地図しかない場合も多い。境界が不明なままでは売買や再開発が難しくなり、過去には六本木ヒルズで土地境界の画定に4年以上かかったこともある。

事態を重くみた法務省は昨年から、東京五輪やリニア中央新幹線など、大規模な再開発が予定されている地域では国主導で緊急の調査に乗り出している。ただ、本来の調査主体である自治体の動きは鈍い。境界を画定させるには持ち主の同意が必要なので、所有者不明の土地が広がれば、今後ますます境界の画定も難しくなると予想される。

問題を放置すれば南海トラフ巨大地震など、将来の大災害で復興の妨げになる恐れもある。土地問題に詳しい早稲田大学の山野目章夫教授は「持ち主が保有に熱意を失った土地は、市町村長による申し立てなど手順を定めて公的管理に移す仕組みがいる」と法整備の必要性を指摘する。人口減時代に即した土地制度の再設計が求められている。

■「処分にも困る厄介なものに…」、土地神話崩壊指摘する声も

短文投稿サイトのツイッターでは「ゴミ集積所のある空き地にずっと自転車が放置してあり交番に届けたけど、『その土地の持ち主が不明なので手出しできない』とのこと。つまり永遠にそこにあるのだろうか」などと身近な課題をつぶやいている人がいた。

東日本大震災の被災地で持ち主不明の土地が復興の妨げになっている件について「憲法に緊急事態条項があれば、過半数の賛成で区画整理OKとか、可能になるハズ」と制度的な対応を求める声も。

「家の建て替えの見積もりを取りたいが、あまりに歴史があり過ぎて、土地の境界線の調査からやらねばならぬ予感」と懸念する人もいた。

「一部の大都市の土地以外は処分にも困る厄介なものになりつつある」と土地神話の崩壊を指摘する意見もあった。調査はホットリンクの協力を得た。

(本田幸久)

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