マネー研究所

カリスマの直言

「株の街」に感じる新しい息吹(渋沢健) コモンズ投信会長

2016/4/11

「東京・兜町は資本主義の発祥の地だ。新しいカフェを拠点に21世紀にふさわしい資本主義を再び発祥できれば素晴らしい」

 「株の街」として知られる東京・兜町。東京証券取引所があり、かつては大勢の人でにぎわったが、1999年に立会場が閉鎖されて以来、人出が途絶えてちょっと寂しい風景だ。取引所の近隣にある東京証券会館をはじめ昭和の匂いを残す建物が多いなか、新しい息吹も感じられる。

 証券会館の1階にCAFE SALVADOR BUSINESS SALON(http://cafe-salvador.com/)というカフェとビジネスサロンを融合したスペースが先月末に開店したのだ。店内のシックで落ち着いたインテリアはオープンで先進的な雰囲気を醸し出す。オープニング・レセプションには多数の人が参加、局所的ではあるが往事のにぎわいが戻ったようだった。

 カフェ開設のお手伝いをさせていただいた者としてうれしい限りだった。地主である平和不動産からカフェを設置したいという相談を受けたのは2年ぐらい前だった。平和不動産は2020年までに最大200億円を投じて複数の大型オフィスビルを開発し、資産運用会社、ベンチャー企業やベンチャーキャピタルなどを誘致する計画を持つ。カフェを地区の再開発の最初の足がかりとしたいという。

 その話を受けて、頭の中に一人の人物が浮かび上がった。カフェ・カンパニー(東京・渋谷)創業者の楠本修二郎さんだ。WIRED CAFE、A971、Planet3rd、など斬新なカフェを次々と世に打ち出している新進気鋭の実業家だ。楠本氏は一杯のコーヒーから世の中の「ラブ&ピース」を実現するという理念を掲げる。

 「兜町の地主」であるエスタブリッシュメントな不動産会社がこうした考えに理解を示すのかという不安はあった。しかしながら、ダメ元で双方に提案してみた。そうしたら、なんと予想外に話がトントン拍子に進み始めたのだ。

カフェ・カンパニー社長の楠本修二郎さん(右)と平和不動産社長の岩熊博之さん。CAFE SALVADOR BUSINESS SALONのオープニング・レセプションにて

 オープンな空間づくりによって、組織の風通しが良くなる。風通しが良くなれば、良い空気が流れてクリエイティビティー(創造性)が刺激され、いずれパフォーマンスが上がる。これまでの普通の職場のイメージであるオフィスで机に向かっているだけでは、どんどん世界観が狭まってしまう。平和不動産にはこのようなマインドセットが兜町の再開発を成功させるという趣旨を理解してもらったと思っている。

 「株の街」のイメージが濃い兜町。しかし、取引所から至近の距離にある現在のみずほ銀行兜町支店と同じ場所に、143年前の明治6年(1873)、日本初の銀行である第一国立銀行が設立されたことはあまり知られていないだろう。創立者は「日本の資本主義の父」といわれた渋沢栄一だ。

 東京株式取引所も株式売買を通じて成長資金を世の中に循環させるという社会的な存在意義を果たすために、渋沢栄一など有志者の働きかけによって設立された。兜町とは銀行業と証券業の生まれ故郷であり、いわば日本の資本主義の発祥の地だ。

 資本主義が日本に導入された原点とは、もちろん格差社会をつくるためではない。一滴一滴の滴(しずく)のようなお金や人々が寄り集まり、「今日よりも、よい明日」へ向かって大河をつくることが資本主義の原点だ。つまり、兜町とは新しいことが始まる街だった。

 そういう意味で、現代の兜町に一杯のコーヒーを味わえる空間に未来志向を持つ人々が集まることは、この街の原点回帰だといえる。大勢とともに21世紀にふさわしい資本主義をこの街から再び発祥できれば素晴らしいことではないか。

 オープニング・レセプションには、金融と情報技術を融合してさまざまなサービスを提供するフィンテックの起業家、インターネットで不特定多数の参加者から資金を集めるクラウドファンディングの社会起業家、地域創生のプロなど未来を感じさせる多様な人々がお祝いに集まった。新しい空間をつくることによって、今までの兜町とは異なるタイプの人々が街に寄ってきたのだ。

セゾン投信の中野晴啓社長(中央)とレオス・キャピタルワークスの藤野英人社長。CAFEのプレ・オープンのイベントとして草食投資隊の「草快塾」を開催した

 微力ながら私も新拠点を盛り上げたい。セゾン投信の中野晴啓社長とレオス・キャピタルワークスの藤野英人社長、そして私が6年前に結成した「草食投資隊」の東京でのイベントはここを拠点にする。また私が主宰する経営塾「論語と算盤」も5月から始まる第8期生の会場はここを使わせていただく。

 新しい、そして面白いことが始まった予感がしている。

渋沢健(しぶさわ・けん) コモンズ投信会長。1961年生まれ。83年米テキサス大工学部卒。87年カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)MBA経営大学院卒。JPモルガン、ゴールドマン・サックス証券、大手米系ヘッジファンドを経て、2001年に独立し、07年コモンズ株式会社(現コモンズ投信)を創業、08年会長就任。主な著書に『渋沢栄一 愛と勇気と資本主義』 (日経ビジネス人文庫、2014年)『運用のプロが教える草食系投資』(日本経済新聞出版社、2010年)『渋沢栄一 100の訓言』(日経ビジネス人文庫、2010年)『日本再起動』(東洋経済新報社、2011年)『渋沢栄一 100の金言』(日経ビジネス人文庫、2016年)など。

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