竹にCO2削減効果ないとの研究成果
竹は、環境に優しい素材とされている。急速に成長しながら大気中の二酸化炭素(CO2)を取り込み、温室効果ガスを封じ込めてくれると考えられてきたのだ。エコ素材としての竹ビジネスも有望で、現在中国だけで270億ドル規模、2020年までには480億ドル規模にまで拡大する見通しだ。
ところが、ある研究が「環境に優しい」という常識に疑問を投げかけている。竹はむしろ炭素を排出しているかもしれないというのだ。
竹のCO2削減効果を調査するため、インドの科学者たちが2本の竹をプラスチックで密封する実験を行った。1本は年齢6カ月、もう1本は1年の竹だ。研究チームは、竹の組織が行うガス交換を24時間にわたり測定した。
これまでの通説では、竹は光合成を行うことでCO2を取り込み、酸素を排出するとされてきた。ところが、結果は驚くべきものだった、と研究チームを率いるE・J・ザカリア氏は振り返る。ザカリア氏はインド、ティルバナンタプラムにある国立地球科学研究センターの研究者だ。
研究チームは2016年2月に植物の学術誌『Plant Biology』で発表した論文で、竹が大量のCO2を排出しているようだと報告している。周囲の温度が高く、竹の年齢が若いほど、CO2の排出量は多かった。ザカリア氏はさらなる研究が必要だと述べた上で、竹は成長が速いため光合成をしきれていない、あるいは何らかのプロセスによってCO2が生成されている、もしくは土壌のCO2を吸い上げている、といった原因を指摘した。そして、8年という竹の寿命を考えた場合、竹は現在考えられているようにCO2を貯蔵するのではなく、むしろ排出しているのではないかと推測している。
「実験の結果を見る限り、竹はCO2に関して樹木よりは米と同じような反応を示します」。ザカリア氏によると、米はCO2の排出量が多く、樹木はCO2の貯蔵量が多い傾向にあるという。ただしこれは、1500種ある竹の1種(学名:Bambusa vulgaris)を限られた環境条件で短時間調べた結果にすぎないと、同氏は強調している。
「竹の一生を追跡したわけではないため、竹はCO2を排出すると言い切るのは時期尚早です。それでも、興味深い結果がでたことに変わりはなく、さらに研究が行われることを期待しています」
不都合な研究結果
別の研究機関に所属する3人の植物学者に意見を求めると、研究自体は興味深いが、最終結論には疑問があるという答えが返ってきた。彼らの機関は国際竹藤組織(INBAR)とつながりがある。
中国、浙江農林大学のグオモ・ジョウ氏とシンザン・ソン氏、カナダ、ケベック大学のチャンフイ・ペン氏は、ザカリア氏らの研究は手法に問題があると言う。まず、2本の竹ではサンプルとしてあまりに不十分で、妥当な結論を導き出すことはできない。また、24時間という短い実験で8年間ある竹の一生を推測するのは確実性に欠ける。彼らはメールで「CO2排出量は生育期や年齢によって大きく変化するはずです」と答えている。
竹林が大気中のCO2濃度に与える影響を本当に評価するならば、土壌中の微生物による排出量など、さまざまな変数を考慮しなければならない。このような限定的な研究で、竹がCO2を排出すると結論付けるのは、「誤解を招く恐れがあり、到底受け入れられません」
さらに不都合な事実
物質科学者のアンドリュー・デント氏も、竹とCO2についての新たな通説とするには、さらに研究が必要だと述べる。ただし、別の研究でもCO2排出が指摘されれば、「竹を持続可能な素材として売り込むのは問題になるかもしれません」。
デント氏によると、竹が環境に優しい素材であるという主張は、他の理由でも疑問視されているという。デント氏は世界各地で環境に優しい素材を広く提供し、素材の研究もする機関「Material ConneXion」の副会長を務めている。
アジアでは、農民たちが利益になる竹を栽培するため、自然林を伐採して竹林にしている。また、竹でできた布は、多くの場合強力な化学薬品で処理されるため、環境汚染への懸念が指摘されている。さらに、遠い国から竹を運んでくること自体が環境に悪影響を及ぼす。地元で手に入る再生可能な素材を使うほうが環境には優しい。
素材を選ぶときに考慮すべき点はいくつもあり、全ての面で最適な素材など存在しない、とデント氏は指摘する。「持続可能性の特効薬となる素材を見付けるのは容易なことではありません。竹は多くの人に素晴らしい素材だと考えられてきましたが、私たちはあらゆる情報を慎重に評価したうえで、素材を選ばなければなりません」
(文 Brian Clark Howard、訳 米井香織、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2016年3月30日付]
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