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「弁当の日」、子供が手作り 生きる力を発見

2016/4/4

お花見の弁当をつくる阿川さんの長女(左)と次女。ベーコン入りの炒り卵は長女の得意料理

子供が自分で作った弁当を学校に持って行く「弁当の日」。香川県の小学校長が15年前に始めた取り組みは小中学校を中心に広がり続け、全国で1800校を超えた。自分で弁当を作る経験は子供にどんな変化をもたらすのか。教育現場を取材した。

「とり肉を自分で切ったのは初めてだったのでドキドキしました」(小3・女子)、「卵焼きが上手に作れて楽しかった」(小4・男子)。東京・荒川区立第六瑞光小学校の家庭科室の前には児童が作った個性豊かな弁当の写真と感想が並ぶ。

同校は2014年度から「お弁当の日」を始め、15年度は2回あった。献立作りから買い物、調理、箱詰め、後片づけまでを子供がする。親はなるべく手を出さないのがルールだ。弁当は皆で見せ合い、記念撮影をしてから食べる。

「自分で献立を考え買い物をすれば食材の産地や輸送方法、価格などに意識が向く。料理の難しさと楽しさを経験すれば親への感謝の気持ちが生まれる」と金子和明校長(60)は話す。

■朝食づくり担当

同校のPTA会長を務める会社経営、阿川道仁さん(50)は共働きの妻めぐみさん(45)と長女(9)、次女(7)の4人家族。朝食作りは娘たちの役割だ。パンと温野菜とスープが定番メニューだ。後片づけも子供たちがする。

長女に料理を教え始めたのは4歳の頃だった。「最初は手間も時間もかかったが、小学校に入る頃には隣に付いていなくてよくなった」(めぐみさん)。今では仕事で帰宅が遅くなると、子供たちが夕飯を作っていることもある。

「前から料理は好きだったけど、学校でお弁当の日が始まってからは、上手になりたくて普段から頑張るようになった」と長女は話す。2月の弁当の日は「海中弁当」をテーマに決めた。水色の弁当箱に焼きサケやタコ形のウインナーなどを作って詰めた。「工夫していてすごいね、と友達にほめられた」と笑顔を見せる。

「弁当の日」は01年に香川・綾南町(現綾川町)立滝宮小学校の校長だった竹下和男さん(66)が始めた。「給食をおいしそうに食べない子が多い状況を見て、育ち方や環境に根本的な問題があると感じた」のがきっかけだ。

■「危ない」を説得

危ないからと子供に料理をさせなかったり、親自身が料理をあまりしなかったりで「料理を学ぶ機会が失われている」。料理を体験させるため弁当作りを提案した。

父母からは「包丁や火を使わせるのは危ない」「家庭の負担になる」など反対の声があった。そこで家庭科で調理を習う5、6年生のみを対象とすることや、親は原則手伝わないとすることで実現にこぎつけた。

子供たちは弁当作りを通じて「食事や親のありがたさを知るだけでなく、生活や環境は自分で変えられると分かる」と竹下さんは言う。弁当を作る中学生の息子を見て、台所に立つことがほとんどなかった母親が料理をするようになった家庭もあったという。

「食育や健康というだけでなく、『生きる』という大きなテーマを持って弁当の日に取り組んでいる」。東京・足立区立第一中学校で3月まで校長を務めた本田邦雄さん(66)は話す。同校は09年度から、弁当の日を年3回設けている。

毎年最初の弁当の日には、持ってこない生徒が何人かいる。その生徒たちも弁当の時間に参加できるよう、本田さんは学校で調理して弁当を作り、担任からそっと生徒に渡していた。その経験をした生徒は「次の弁当の日には頑張って自分で作ってくる」(本田さん)。

ごはんと簡単なおかずを詰めて、とにかく持ってくる。友達と見せ合い刺激し合う中で、もっと上手に作りたいと思う。頑張るうちにだんだん上手になる。この経験が「生きる力につながる」と本田さんは言う。

「家庭科などで学んだ食の知識を実生活で生かす料理の経験は、子供の考える力や課題解決力を鍛える」と食育に詳しい和洋女子大学の松島悦子准教授は指摘する。「弁当を作るという課題に向き合い、達成することで自己肯定感を得られる。多くの意味で子供の成長につながる取り組みだ」と話している。

■最初は味見から 少しずつ難易度

東京ガスの親子向け料理教室「キッズインザキッチン」。14組の親子が巻き寿司づくりに挑戦した(横浜市西区)

食事時間の不規則化や孤食、外食・中食の普及。子供の食を取り巻く環境が変化する中、子供自身が栄養バランスを意識し、食事を作れるようになる「食の自立」が重要になっている。

東京ガスが首都圏19カ所で開く親子向け料理教室は、毎回ほぼ満席だ。15年度は約1万人が参加したという。動機で多いのは「子供と料理を楽しみたい」「調理の技術を身に付けさせたい」というもの。一方で「料理に自信がないので子供と一緒に学びたいと参加する母親が増えた」と同社「食」情報センターの杉山智美主幹は話す。

「食に興味を持たせるには、料理をさせるのが一番効果的」と和洋女子大学の松島准教授は言う。最初は味見する、かきまぜる、野菜をちぎるなど簡単な手伝いをさせるといい。できたら褒め、少しずつ難易度を上げていくことで、料理が楽しくなる。

「父親が積極的に台所に立つのもいい」(松島准教授)。食事作りは母親だけの役目でなく、家族みんなでやることだと示すのが大切だ。

(女性面編集長 佐藤珠希)

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