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定年楽園への扉

金融被害に遭いやすい残念な人 経済コラムニスト 大江英樹

2016/4/21

金融商品をめぐる詐欺事件が後を絶ちません。普通に考えれば「そんなことはありえないだろう」というようなウソのもうけ話に、コロッとだまされてしまう人は多いのです。これはいわゆる「オレオレ詐欺」や「振り込め詐欺」とはやや違います。

何が違うかというと、振り込め詐欺の類は言ってみれば、事故やトラブルといった異常事態を演出して頭の中をパニック状態に陥れ、そこから勘違いを誘発させるものです。

一方、金融商品をめぐる詐欺というのは、緊急性や不安を演出するのではなく、いわば“もうけたい”という人間の欲に取り入って、お金をだまし取るという性格のものです。

金融詐欺というのは明らかに犯罪ですが、犯罪とまでは行かなくても極めて複雑でわかりづらい金融商品を説明が不十分なまま販売し、思いがけない損失が発生してトラブルになるというケースもよくあります。

特に退職した人がこういう被害に遭うととても悲惨なことになります。行政が金融被害を出さないように対策を講じることも大切ですが、一方では我々も気を付けるべきことがあります。

実は被害に遭いやすい残念な人たちには共通した特徴があるのです。

まず高齢者です。いうまでもなく高齢者層は金融資産を多く持っていますからターゲットになりやすいですし、人によっては判断力が低下しているというケースもありますから余計、被害に遭いやすいということがいえます。

次に大学の先生や上場企業の役員など、社会的地位の高い人たちです。実際に金融機関の営業マンの人たちに聞いても、同じことを言います。

これはとても不思議です。一般的に金融詐欺に遭いやすい人たちというのはあまり金融知識がないからと考えがちです。少なくとも大学の先生や上場企業の役員などであれば知的レベルも高く、そうした金融商品についても判断しうる十分な知識を持っていると考えられます。にもかかわらず、なぜ現実にそういう人たちが金融被害に遭うのでしょう。

この原因は恐らく“プライドの高さ”にあるのではないかと思います。いくら大学の先生や上場企業の役員であったとしても、自分の専門分野外であれば金融知識が豊富にあるわけではありません。まして最近の金融商品は仕組みが非常に複雑になってきています。したがって、わからないことはわからないと言って聞けばいいのですが、そういう社会的地位の高い人の中にはとてもプライドの高い人たちがいます。

そういう人たちは、恐らく簡単なことでも、いや簡単なことだからこそ、プライドが邪魔して聞けないのです。営業マンが金融商品の説明をした後に「先生だったら(専務だったら)これは当然お分かりですよねえ」と言われて「うん、うん」とうなずいてしまう人は意外と多いと思います。

よくいわれることですが、大阪は「振り込め詐欺」の被害件数が非常に少ないそうです。私も大阪生まれ・大阪育ちなので理解できますが、実利を重んじ、見栄を張る人が少ない土地柄だから金融被害に遭う人が少ないのだと考えられます。

2012年に起こったAIJ投資顧問の年金詐欺事件でも大阪の年金基金は被害に遭ったところがほとんどありませんでした。実際に私も当時、大阪のある基金に行ってお話を聞く機会がありましたが、いずれも「AIJの説明には納得できなかったし、何度説明を聞いてもよくわからなかった。だから採用しなかった」とおっしゃっていました。

実はこれがとても大事なポイントです。金融商品の内容については格好をつけず、わからなければわかるまで聞く。そしてどうしてもわからなかったら買わないという姿勢がとても大切です。

別に難しい金融商品の知識がなくても、“世の中にうまい話はない”という常識があれば多くの被害は防げると言っていいのではないでしょうか。

「定年楽園への扉」は隔週木曜更新です。次回は5月5日付の予定です。
大江英樹(おおえ・ひでき) 野村証券で個人の資産運用や確定拠出年金加入者40万人以上の投資教育に携わる。退職後の2012年にオフィス・リベルタスを設立。行動経済学会の会員で、行動ファイナンスからみた個人消費や投資行動に詳しい。著書に「定年楽園」(きんざい)など。近著は「投資賢者の心理学」(日本経済新聞出版社)。CFP、日本証券アナリスト協会検定会員。
オフィス・リベルタス ホームページhttp://www.officelibertas.co.jp/
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