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がん検診のメリットは「絶対値」で考えよう

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2016/4/4

相対値ではなく、絶対値を用いることが、メリットとデメリットを正確に理解することにつながります。(c)marina gallud-123rf
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「5年生存率」「検査陽性」「基準値」「平均余命」「リスク」……。皆さんは、ニュースで見かける健康・医療関連の数字の意味を、正しく理解していますか? 病気にまつわる「数字」について、誤解しがちなポイントを分かりやすく解説するとともに、数字の読み方、解釈の仕方についても、わかりやすく説明します。

今回は、受ける人が増えているというがん検診について。受診率を高める取り組みが各地で盛んになっていますが、検診のメリットとデメリットに関する理解が進んでいるとは限りません。たとえば、リスクに関する研究の第一人者であるゲルト・ギーゲレンツァー氏は「有益性が強調されすぎていて、害は軽視されている」と最近の論説で指摘しています。(BMJ. 2016; 352: h6967.)。ギーゲレンツァー氏は、一般向けの本も書いています。2015年、日本語訳が出版された『賢く決めるリスク思考』に、彼自身が携わった興味深い調査結果が載っていました(J Natl Cancer Inst. 2009; 101: 1216-20.)。

まず、改めて乳がん検診(マンモグラフィー)のメリットを確認しておきましょう。複数のランダム化比較試験のデータ(対象は40~74歳の女性、計約25万人)をまとめたところ、検診を受けた人では、1000人当たり3.9人が乳がんで死亡、受けなかった人では、5.0人が乳がんで死亡していました。この数値からマンモグラフィーのメリット(乳がんによる死亡を減らす)の大きさを絶対値で表すと(絶対リスク減少)、「1000人当たり約1人(5.0-3.9=1.1)」ということになります(Ann Intern Med. 2002; 137: 347-60.)。その後の研究で、メリットはさらに小さいことが指摘されています(Cochrane Database Syst Rev. 2013;6:CD001877.)。「えっ、そんなにわずかなの?」と思った人もいるのではないでしょうか。

■ほとんどの市民がマンモグラフィーを過大評価

ギーゲレンツァー氏らの研究グループは、ヨーロッパの9カ国(ドイツ、フランス、オーストリア、オランダ、イタリア、イギリス、スペイン、ポーランド、ロシア)の市民、計1万人以上を対象にインタビューを行いました。ちなみに、これらの国々でマンモグラフィーを受けたことのある女性の割合は以下の通りです。

ヨーロッパ9カ国でマンモグラフィーを受けたことのある女性の割合
マンモ
グラフィー
経験者
(%)
ドイツフランスオーストリアオランダイタリアイギリススペインポーランドロシア
577876856675524719

インタビューでは、「マンモグラフィーにより、乳がんで亡くなる人が、1000人中何人減ると思いますか」と尋ね、複数の選択肢(減らない、1人、10人、50人、100人、200人、分からない)の中から選んでもらいました。その結果が以下です。

マンモグラフィーで乳がん死亡が「1000人中何人減るか」、回答した人の割合

「1000人中1人」と正しく推定できた人の割合は、ドイツ0.8%、ポーランド0.8%、フランス1.3%、イタリア1.3%、オランダ1.4%、などと総じて少なく、ほとんどの人がメリットを過大評価していました。

しかも、イギリスでは26.9%、フランスでは23.7%もの人が、「1000人中200人」がメリットを受けると誤解していました。ギーゲレンツァー氏はこの点について、1000人につき5人から約4人に減ったことを「死亡率の20%削減」と相対的に理解していた(相対リスク減少)からだろうと解釈しています。「20%」という数値が印象に残っているので、1000人×0.2(20%)=200人がメリットを受けると勘違いしたのではないかと述べているのですが、ありそうな解釈です。

■情報源の種類と正しい理解は「無関係」

この調査では同時に、市民が健康に関してよく利用する情報源についても尋ねていました。その結果が以下です(選択肢の一部を抜粋しています)。

健康に関する情報源(回答した人の割合、複数選択可)

興味深いことに、市民がよく利用する情報源と、マンモグラフィーのメリットについての正確な理解とはほとんど関連がなく、むしろ過大評価につながっていました。たとえばドイツやフランスでは、医療パンフレットの使用と過大評価との間に関連性が認められました。正確な理解との間に関連が見られたのは、消費者カウンセリング(オランダ、イタリア)、患者カウンセリング(イタリア)、自助グループ(イタリア)だけだったのです。インターネットの利用が比較的多い国(フランス、オランダ、イギリス)で、マンモグラフィーを過大評価していた人が多かったというのも興味深いです。私たちは知らず知らずのうちに、インターネットの情報に踊らされている可能性があるのではないでしょうか。

家庭医や薬剤師といった医療の専門家からの情報が、市民の正しい理解につながっていないというのは残念です。ギーゲレンツァー氏はその理由の一つに、相対リスク減少(乳がんによる死亡が20%減少)を多用することを挙げ、警鐘を鳴らしています。

相対リスク減少ではなく、絶対リスク減少(1000人中1人が乳がんによる死亡を免れる)を用いることは、メリットとデメリットを正確に理解することにつながります。さらには、そうした統計の基になっている一人ひとりの患者をより意識することにつながるのではないかと思います。

Profile
北澤 京子(きたざわ きょうこ)
著書に『患者のための医療情報収集ガイド』(ちくま新書)、訳書に『病気の「数字」のウソを見抜く:医者に聞くべき10の質問』(日経BP社)など。(撮影:直江竜也)

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