春夏の注目トレンド「アフリカン」の手なずけ方
宮田理江のファッションラボ
薄着になっていく春夏は、ともすると印象まで薄くなってしまいがちです。でも、少し「主張」のあるムードの服をまとえば、着姿が淡泊に見えず、手抜き感を遠ざけてくれます。例えば、2016年春夏シーズンに世界的なトレンドとして浮上してきた新テイスト「アフリカン」は、ポジティブで新鮮な着映えに誘います。イタリアを代表するラグジュアリーブランド「VALENTINO(ヴァレンティノ)」も、16年春夏パリコレクションでアフリカをテーマに据えました。エスニックに寄せすぎないエレガントな装いは、民俗調テイストを着こなすお手本と映ります。
アフリカがファッション界で関心を集める理由はいくつかあります。まず、強烈な色使いやワイルドな柄。グラマラスな方向におしゃれが振れつつある中、エナジーを感じさせる土俗的雰囲気が再評価されました。西洋の伝統的な「洋服」のたたずまいとは異なるため、グローバル感を漂わせやすいのもアフリカンの良さ。暑い地方ならではの、体を締めつけない風通しに優れたシルエットも、窮屈さを嫌う今の流れにマッチしています。
相反するテイストの組み合わせで「こなれ感」を表現
実際にアフリカンテイストを着こなすにあたっては、「VALENTINO」が披露したように、エスニック濃度を上げすぎないさじ加減が大切になります。静かな表情の白シャツと重ねたり、シックなジャケットをかぶせたりして、全体のバランスを都会的に整えると、モダンな仕上がりになります。もともとアフリカンにはアニマル柄やプリミティブ(原始的)モチーフといった野趣に富んだイメージがあります。そのたくましく素朴なトーンを、フェミニンや品格など相反する雰囲気で中和させるスタイリングがこなれ感を生みます。
ダイナミックなエレファント柄には、手仕事感の高いレザージャケットを引き合わせました。大地を連想させるアースカラーのロングアウターは、裾に配した長めのフリンジにもアフリカンな気分が宿ります。細いストラップが足首ゾーンで交差する靴は今春夏の注目の的。繊細な表情があって、アフリカン色を和らげる「引き算」にうってつけといえるでしょう。薄手のミニスカートとの丈違いが装いにリズムを添えています。
「VALENTINO」の16年春夏コレクションは、ビーズ刺しゅうやフェザー(羽根)使いなども取り入れつつ、アフリカの伝統的服飾文化をヨーロピアンなフォルムに溶け合わせ、巧みにモダナイズしています。アフリカ以外にアジアや中南米などのエスニックをまとう場合にも、そうした異文化ミックスのスタイリングは応用が利きます。「正反対のテイストをぶつけ合う」というのがミックスコーディネートの基本的な組み立て方ですから、ワイルドには洗練、大自然の気分には都会的ムードといった構図が導けるわけです。
スパイスとして取り入れ、躍動感あるスタイルに
レオパード(ヒョウ)柄や大ぶりなアクセサリーといった、主張が強めのアフリカンディテールはハードルが高いと敬遠する「きれいめ」志向の人もいることでしょう。でも、1点だけ差し込むようなスパイス的な取り入れ方であれば、着姿のムードを壊さないでパワーや躍動感を程よく添えてくれます。とりわけ、「VALENTINO」のバッグやシューズは大人の女性にふさわしいアレンジが施されているので、今回発表されたバッグやシューズなどでアフリカンムードを取り入れるのも手です。
ワントーンでまとまりすぎた着姿は、かえってつまらなく見えてしまいやすいもの。むしろ、「計算されたアンバランス」を仕込むと、自然な余裕や落ち着きを醸し出せます。
難易度が高いと思われがちなエスニックですが、サンドカラーの抽象柄やグリーン系の植物モチーフ、天然石のアクセサリーならそんなに癖が強くないので、割と試しやすいはず。西洋的なカッチリした着映えと違って、ナチュラルな風情や解放的な気分も呼び込んでくれるから、春夏らしい楽観的なイメージに整うのもアフリカンをはじめとするエスニックテイストの良いところです。
「世界的トレンド」を口実に、この春夏は「西洋服」の枠から踏み出してみるのもいいでしょう。
画像協力:
VALENTINO http://www.valentino.com/jp
ファッションジャーナリスト、ファッションディレクター。多彩なメディアでランウェイリポートやトレンド情報、リアルトレンドを落とし込んだ着こなし解説などを発信。バイヤー、プレスなど業界での豊富な経験を生かした、「買う側・着る側の気持ち」に目配りした消費者目線での解説が好評。自らのTV通版ブランドもプロデュース。セミナーやイベント出演も多い。著書に『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(学研パブリッシング)がある。
公式サイト:http://riemiyata.com/
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