東京都世田谷区に住む主婦Aさん(40)は心配事がある。近所で両親が暮らす実家だ。昨年の大雨の際、保険に入っているかを聞いたところ「火災共済に加入しているが、水災補償は特に付けていない」という返事だった。実家近くに大きな河川はないものの1階は半地下の構造。Aさんは「集中豪雨で被害が出ないか気がかりだ」と話す。
強い雨の回数増加
気象庁によると、強い雨の目安となる「1時間に50ミリ以上の雨」が降った年間回数は増加傾向にある(グラフA)。雨による土砂崩れや河川の氾濫だけでなく、舗装された地域でも行き場を失った下水が突然あふれるといった都市型水災が目立つようになった。
水災に保険で備えるには、まず自宅建物や家財にかける火災保険がどこまで補償するかをチェックしよう。補償する水災は一般に集中豪雨や洪水による被害はもちろん、雨が原因の土砂崩れも含む。ただ補償する最低限の目安は床上浸水で、床下浸水は補償しない例が多い。地震による津波や天災が原因ではない給排水管故障での水ぬれもカバーしない(図B)。
火災保険の水災補償は契約時期によって、受け取る保険金に大きな差がつく場合がある。特に注意が必要なのは1998年の損害保険料率自由化前に主流だった「住宅総合保険」や「住宅火災保険」に入っている人だ。前者の水災補償は最大で火災保険金の70%までとなり、後者は水災補償がないのが普通だ。これらは10年超の長期契約が可能だったため「まだ契約している人は多い」(東京海上日動火災保険)。
一方、大手損保が現在扱う火災保険の水災補償は、免責額(自己負担額)を除く損害全額をカバーするのが主流になっている。まず火災保険加入時に水災、火災、風災など全リスク共通の免責額を定める。洪水や集中豪雨などで床上浸水以上の被害が出て、免責額を上回った損害を全額補償する仕組みだ。水災でも最大で火災保険金と同額の保険金が受け取れる。
最近注目を集めているのが、東京海上日動や損害保険ジャパン日本興亜が昨年10月から始めた水災の「縮小特約」だ。保険金は損害程度に応じて3段階に分けて出し、上限は損害額などの70%とする。その代わりに保険料も一定程度抑えたのが特徴だ。昨年10月の改定で火災保険料が上がった地域が多く、負担を緩和するため導入した。
いまから新たに火災保険を契約する人は、水災補償について(1)免責額を除く損害全額補償(2)損害額などの70%が上限の段階補償(3)補償を全くつけない――の3つから選ぶことになる。
グラフCは損保ジャパン日本興亜の火災保険に期間1年で加入した場合、3パターンごとの年間保険料と水災時に受け取る保険金の上限を示している。(1)の年間保険料は(2)と(3)に比べそれぞれ1140円、2880円高いが、保険金上限は600万~2000万円上回る。
どれを選ぶかは目先の保険料だけでなく、保険金の差も含めて慎重に検討しよう。都市部の高層マンション上層階に住む人なら水災補償を外すのも選択肢だが、ファイナンシャルプランナーの清水香氏は「それ以外の人が水災補償を小さくするのは基本的に勧められない」と話す。
節約の余地少なく
水災被害の地域は拡大傾向にあるうえ、補償を小さくすることで節約できる保険料はさほど多くないためだ。大規模な水災では、条件をみたせば被災者生活再建支援制度という公的支援が使える場合があるが、金額は最大で300万円にとどまる。
一般的に持ち家で戸建てやマンション低層階に住み、住宅ローンが多く残る人は水災補償を手厚くすることを考えてもいいだろう。賃貸住宅の人でも家具や家電などを同時に失うケースもあるので、水災補償が不要とは限らない。
火災保険の契約途中で水災補償を拡充したい場合はいったん解約して再契約となるケースが多い。ここ数年は火災保険料とこれとセットの地震保険料が上がった地域が多いので、解約・再契約で保険料負担全体が増す可能性がある。
「解約せず、同じ商品の契約プラン見直しで対応できる例もある」と東京海上日動個人商品業務部火災グループの中森広詞課長は話す。水災以外の補償内容を変えたくない人は、保険会社や代理店に相談してみるのも一案だ。(堀大介)
共済も水災への備えになるが、手厚い補償を受けるには火災共済だけでなく自然災害共済への加入が選択肢だ。全労済「住まいる共済」の新火災共済の水災補償は最大300万円と臨時費用のみ。新自然災害共済にも入ると補償額は最大4200万円が加わる。補償合計は火災共済金最大額(6000万円)に対して75%程度になる。
一方、全労済以外では「自然災害共済がなく、水災補償は少額の見舞金のみという共済もある」(FPの平野敦之氏)。共済の掛け金は火災保険料に比べて手軽な例は多いが、その分、補償内容も限りがあることも念頭に置いて商品比較をする必要があるだろう。
[日本経済新聞朝刊2016年3月30日付]