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労働人口が減少し「働き方」改革が叫ばれるなか、ワークライフバランス(WLB)実現などを支援する社会保険労務士(社労士)の役割が注目されている。専業主婦だった多田智子さんは出産後に一念発起して社労士資格に合格、大学院で経営学修士(MBA)も取得し、現在は海外の日本企業も支援する社労士事務所を経営する。これまでの経験から「女性はライフステージによって自分を変化させる必要がある」と訴える。

出産後、一念発起 資格めざし猛勉強

大手製薬会社に就職し、結婚を機に3年で退職しました。翌年子どもを産み、幼稚園に上がったら再就職しようと思い立ち、ある日、日経に載った人材募集広告を見てがくぜんとしました。TOEIC900点、営業経験10年など、自分にはアピールする材料がありません。OL2、3年の自分のスキルは企業に求められていない。何も考えずに退職したことを初めて痛感しました。

悲しんでばかりはいられません。電車に乗って大きな書店に走り、できることはないか探していて社会保険労務士という国家資格を知りました。社会や経済が成熟していくなか、お金を払って労務管理の相談をする時代がくる。しかも企業の35%程度しかまだ社労士と契約を結んでいない。参入する余地は十分あると確信しました。

急いで帰宅し、その日の夜に教材を申し込みました。子どもがいて通学できないので自宅で大量の教材に囲まれながら猛勉強です。朝4時から子どもが目を覚ます6時まで、時間の大切さをかみしめながら勉強しました。

合格後、社労士は実務経験が必要です。社労士事務所の就職面接で「子どもがいるなら残業はできないね」と言われました。ここでもまた「自分は求められていない」と感じました。でも、以前のように諦めてはいけない、自分の発想を180度変えようと思いました。

他人に仕事を与えてもらっていると「残業ができる、できない」の議論になる、自分で仕事を取ってこようと。子どもが幼稚園に行っている間に営業をしてお客様を獲得してきました。一生懸命取り組む姿に周りにも応援してもらえ、充実した実務経験を積むことができました。

経営者との対話で反省 MBA取得し壁越える

開業後1年もしないうちに自分の力不足を再び痛感することになります。クライアントの社長は経営者です。労働法や労務管理の話題以外にも経営者論から時事問題まで毎日意見を求められます。もっと広く勉強しなければと気づき、開業3年目で大学院に入学しMBAを取得しました。

その勉強がどれだけハードだったか想像がつくと思います。月曜から土曜まで曜日によっては仕事と学校の両方に行き、夜、授業を終えて子どもを塾に迎えに行きます。電車で課題図書を読み、夜中にプレゼン資料を作成する日々。眠らずに勉強したかいがあり、経営の基礎を知ることでどんな質問にもうろたえずに自分の考えを理路整然と説明できるスキルが身に付きました。

ライフステージごとに キャリアアップ図る

現在事務所は14年目です。社員12人、クライアント180社。社労士事務所としては大きいほうです。当社の理念は企業の成長を労務管理面からサポートすること。特に日本企業の成長に欠かせない海外進出と今後重要な人事戦略になるWLBの2面に注力しています。

これまでの経験を振り返ると、反省点の一つは自分の時間があるうちに基礎的スキルを上げておかなかったこと。エクセルやパワーポイント、ワードを素早く使いこなせれば業務効率は断然上がります。自分の考えをまとめて正確に伝えられる能力も必要です。

女性はライフステージによって自分を変化させていくことが大切です。

自分の時間に余裕がある若い頃はたくさん仕事をし、多くの人に会い、いろいろな本を読み、映画を見、スポーツをして経験値を高めることです。基礎的な力を身に付けるのもこの時期です。

子どもが生まれると一気に自分の時間がなくなります。このキャリアロスの期間は仕事のことを考えるのは無理でしょう。でも、会社は退職せずに育児休暇などを上手に使って仕事を続けるべきです。復職後も子どもの病気で会社を休むことも出てきます。制度があるから利用するという態度ではなく、周りの方への感謝を忘れず、自分が置かれた状況をきちんと話すことで周囲の理解が深まります。

育児は人生の一時期 両立で高まる管理能力

子どもが小学校に上がると育児はかなり楽になります。落ち着いて考えると子どもに手が掛かるのは5年くらい。その後定年までの約25年を有意義に過ごすためにキャリアアップしていくことが大切です。女性は家庭があるから仕事ができないというのは完全な思い込み。フルに働けないのはたった5年から長くて10年です。この短い期間にこだわって仕事を任せない、管理職として能力を十分に発揮できないとしたら、会社も個人ももったいないことです。育児と仕事の両方をこなすことでマネジメント能力が高まるともいわれています。

こうした考えからワークライフバランス研究所を立ち上げ、企業にライフステージごとの制度設計を提案しています。WLB実現のポイントは必要なときに必要なサポートができる仕組みを整え、短い時間で成果を上げられるようにすることです。今後、介護が大きな課題になるなかで男性社員にも重要な取り組みです。

女性は人生を歩むうちにたくさんのドアに遭遇します。開くドアが違えば人生が大きく変わる。だからこそ女性は真剣に悩むのです。日本社会にWLBが着実に広がり、企業が女性の意見を積極的に経営に取り入れるなど、女性の活躍へ視界は確実に開けています。

人生は一回。いつも目標に向かって自分を高めていきたいですね。

[2016年3月28日付 日本経済新聞夕刊の丸の内キャリア塾を再構成]

多田 智子さん(ただ・ともこ)
多田国際社会保険労務士事務所 所長
特定社会保険労務士

1972年生まれ。中外製薬勤務後、2001年社会保険労務士試験合格、02年社会保険労務士事務所設立(http://www.tk-sr.jp/)。06年法政大学大学院イノベーションマネジメント専攻修了、MBA取得。15年ワークライフバランス研究所設立。
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