美肌になり、骨も強く 味噌のアンチエイジング効果
1300年もの長い間、日本人の食生活を支えてきた味噌。「味噌は医者いらず」といわれてきた。その健康効果のもとになるのが、発酵過程でできる豊富な栄養成分だ。
もともと大豆には良質な植物性たんぱく質、コレステロールを下げる働きを持つリノール酸、女性ホルモンと似た働きを持つとされるイソフラボンなどが含まれるが、「味噌は大豆の成分がこうじの発酵・酵素作用によって分解され、体内で消化吸収しやすい形で含まれるのが魅力。大豆にはない、または少量しかない遊離必須アミノ酸やビタミン類が多量に生成され、うまみや甘みをもたらす」と、東京農業大学応用生物科学部醸造科学科の柏木豊教授は話す。
最近は生活習慣病やがん、骨粗しょう症予防など味噌の健康効果が解明されているが、なかでも注目したいのが美肌効果。東京工科大学応用生物学科の前田憲寿教授は「大豆の脂質から発酵の過程でできる遊離リノール酸に、メラニン産生を抑える働きがあるといわれてきた。最近の研究で、1日2杯の味噌汁を飲んで頬のシミが減ることもわかった」と話す。また、発酵熟成の過程でアミノ酸と糖が反応してできる褐色成分・メラノイジンには抗酸化作用があり、老化予防効果も期待される。
【米味噌なら美肌・美白に】
「シミを薄くするなど美肌に有効な成分は米こうじに多く含まれるため、白味噌など米こうじの割合が高い味噌を選ぶといい。また、味噌には角層の水分保持に関わるセラミドの産生を促す作用もあることがわかってきた」(前田教授)
米味噌の味噌汁でシミが減った
20~40代の女性22人を、淡色系米味噌を使った味噌汁と味噌なし汁を摂取する2群に分け、それぞれ1日2杯、4週間継続して飲んでもらった。結果、味噌汁摂取群は頬のシミスコアが改善したほか、頬のメラニン量も減少した。
(データ:東京工科大学の前田憲寿教授、発酵未来研究所らの共同研究 2014)
【豆味噌は骨を強くする】
豆味噌は大豆イソフラボンが多く、最近では骨粗しょう症の原因となる骨吸収を抑える作用も報告されている。
他の味噌と比べて発酵熟成期間が長いため、褐色成分で抗酸化作用を持つメラノイジンが多い。
豆味噌で骨吸収が抑えられた
卵巣を摘出した骨粗しょう症モデルマウスを対象に、ヒト換算で味噌汁1杯(味噌14g)の豆味噌を摂取する群と対照群に分け、それぞれ毎日摂取させて骨吸収マーカーを調べた。5カ月後、味噌摂取群で骨吸収マーカーの有意な低下が見られた。
(データ:中央味噌研究所研究報告 33,2012)
【麦味噌】
大豆と麦こうじが主原料の麦味噌は、他の味噌よりも比較的こうじの使用量が多いため炭水化物量が多く、香りと甘みが強いのが特徴。塩分は控えめだ。
味噌には多様な栄養成分が含まれる
味噌には人間の体に欠かせない必須アミノ酸8種類、ビタミンB群・Eなどのビタミン類、カリウム・カルシウムなどのミネラル類のほか、脂肪酸、食物繊維、ポリフェノールの大豆イソフラボンなどが含まれる。
[どの味噌でもOK]
乳がん予防
毎日味噌汁を多く飲む人ほど乳がんになりにくいという調査報告がある。40~59歳の女性2万1852人を対象にした調査では、乳がん発生率は1日1杯以下の人に比べて1日2杯の人で26%、1日3杯以上の人で40%低かった。
メタボ予防
大豆にはリノール酸、大豆レシチン、サポニンなど、悪玉コレステロールを下げる成分が含まれる。また、動物での研究で、ヒト換算で毎日味噌汁1杯分の味噌を6カ月摂取して中性脂肪の蓄積が抑えられたという報告もある。
塩分が気になるならカリウムの多い野菜と
味噌汁1杯分の塩分は1.2~1.5g程度と多くはない。それでも気になる人は塩分を排出する作用があるカリウムが多い食品(ホウレン草、春菊、サツマイモ、サトイモ、納豆など)を合わせるといい。
1日1杯を目安に毎日続けてとる
お通じ改善やシミの改善、がん予防など味噌にまつわる多くの研究報告では、味噌は継続してとることが効果的とされる。効果を期待するなら、1日1杯を習慣にしよう。
いろいろな効果を期待するなら合わせ味噌を
味噌は種類や熟成期間によって成分や効果が異なる。様々な健康効果を期待するなら合わせ味噌を。2種類以上の味噌を組み合わせると味に深みが出ておいしさアップ。
【代表的な5つの味噌】
こうじの原料により米味噌・麦味噌・豆味噌と合わせ味噌の4種類に分けられる。国内で生産される味噌の約8割が米味噌。原料の種類のほか、塩分と麹歩合などで変わる甘口や辛口などの味、色調などによってさらに分類されている。
信州味噌
(淡色系辛口味噌)
長野の米味噌。全国の味噌の生産量の約40%を占める淡色辛口味噌の代表で、今では全国的に生産される。酸味のある芳香が特徴。
仙台味噌
(赤色辛口味噌)
宮城の米味噌。辛口の長期熟成タイプ。伊達政宗が軍糧用に味噌を造らせた「御塩噌蔵」の伝統を受け継ぐ。肉の味噌漬けや野菜炒めに。
西京味噌
(白色甘口味噌)
関西で食べられる米味噌。米麹の割合が高く甘みが強い。着色を抑えるため精米度を高くし、脱皮した大豆を用いる。西京漬けなどに。
東海豆味噌
(黒褐色辛口味噌)
名古屋味噌、三河味噌、八丁味噌などの名称で呼ばれる中京地方の豆味噌。濃厚なうまみとほのかな苦みがあり、懐石料理に欠かせない。
麦味噌
(淡褐色甘口味噌)
主に九州・瀬戸内地方で作られる。淡色~淡赤色で、麦独特の芳香がある。温暖な気候のため熟成期間が短く、甘口のものが多い。
(参考:みそ健康づくり委員会「みそ知り博士のQ&A50」)
東京農業大学 応用生物科学部 醸造科学科
調味食品科学研究室にて、醸造微生物の機能解明と利用法を研究する。「味噌の中には乳酸菌や酵母も働き、独自の酸味や香りを生み出す。味噌の香りにはリラックス効果もあるといわれる」
東京工科大学 応用生物学科 美科学研究室
専門は美容皮膚科学。資生堂勤務を経て2007年より現職。「白味噌には血圧低下作用やリラックス作用のあるアミノ酸のGABAが多く含まれる。夜は白味噌をとって休むといいでしょう」
[日経ヘルス 2016年3月号の記事を再構成]
健康や暮らしに役立つノウハウなどをまとめています。
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