マネー研究所

保険の新常識

お金を払ってお金を用意 保険の本質を考える

2016/3/30

PIXTA
この連載では一般のお客様との対話を通して「実は間違っている保険の常識」を考えます。今回は医療・がん・老後資金準備など「目的別」に保険に加入することの善しあしを考えてみます。相談に来られた会社員の男性Dさん(45)との会話です。

Dさん(以下D):「妻も私も医療保険には入っています。ただ、最近、がんや老後のお金のことが気になり始めて保険ショップに相談にいったところ、がん保険と老後資金準備のための個人年金保険を勧められました。やはり、それぞれに加入しておいたほうがよいのでしょうか」

後田(以下U):「私も営業の仕事をしていた頃、がん治療や老後資金準備など目的別に保険を利用することをお客様に勧めていました。でも、最近になって間違っていたと感じているんです」

D:「えっ? がんに備えるならがん保険だし、老後資金を用意するには個人年金保険がいいのではないですか?」

U:「そう思いますよね。ところがある時、保険会社で商品設計に関わっている人から『ほとんどの保険はストーリーの力で販売されていると思います』と言われて、目が覚めたんです」

D:「ストーリーの力……。どういうことですか?」

U:「たとえば、『あなたがもしがんになったら』という状況を設定し、がんになった人がいかに苦労するかという話をすると、がん保険が頼みの綱に見えてくるわけです。でも、そもそも保険で用意できるのはお金ですよね」

D:「ええ」

U:「例えば100万円を用意するために『向こう10年間、賞金100万円が当たる宝くじを毎月買ってもらいます。くじに使うお金の総額は約34万円で、10年以内に当たりが出る確率は2%くらいです』という話があったら乗りたいですか?」

D:「98%ハズレなら乗らないです」

U:「即答ですね(笑)」

D:「第一、宝くじでお金を用意するという発想がないです」

U:「ないほうがいいでしょうね(笑)。でも、40歳の男性が一生涯にわたって診断時に100万円を保障するがん保険に入るということは、それとほぼ同じことなんです。Dさんは今45歳ですけど、もし40歳だったら向こう10年間でがんになる確率は2%程度なので、大きな違いはないと思います」

D:「そんなふうに考えてみたことはなかったなぁ」

U:「何が言いたいのかというと、ある確率で受け取ることが見込まれるお金に対して、いくらお金を払うのかという問題を、宝くじの話にして伝えると『バカバカしい』と相手にされないのに、がんに備える物語にすると『ちゃんと備えなければ』と感じる人が増える、ということです」

D:「なるほど。人の感覚って不思議ですね」

U:「宝くじの話を論外だと感じるのは、『楽をして一獲千金を狙う』というイメージがあるからだと思うんです」

D:「そうですね」

U:「それががんに備える話だと、すごく切実な損失を回避する、あるいは軽減することが目的になるので、つい力が入る。それが目的別にお金のことを考えさせるストーリーの力だと思うんです」

D:「う~ん。そうかもしれません」

U:「でも、ストーリーから離れてみると、賞金と給付金の違いはあっても、ある確率で受け取ることが見込まれるお金に対してお金を払うという点では同じ理屈です。要するに保険は『お金を払ってお金を用意する手段』だということです」

D:「はい」

U:「改めてお聞きしますけど、お金を用意する際、一番いい手段は何だと思いますか?」

D:「何でしょうか。こっちが聞きたいです(笑)」

U:「自分の口座からお金を出すことだと思うんです」

D:「自分のお金が減るのは嫌だなぁ」

U:「そう思うでしょう。それはまだDさんがストーリーに縛られているからではないでしょうか」

D:「どんなストーリーですか?」

U:「例えば、『がんになったとき、自分の口座から100万円を払うと不安になる』という、人の感情に焦点を当てたストーリーです。老後資金を語る際も『お金が足りなくなる不安』が強調されますよね。次回、さらに掘り下げようと思います」

(うしろだ・とおる) 大手生命保険会社や乗り合い代理店を経て2012年に独立。現在はバトン「保険相談室」代表理事として執筆やセミナー講師、個人向け有料相談を手掛ける。著書に「生命保険の『罠』」(講談社+α新書)や「がん保険を疑え!」(ダイヤモンド社)、「保険会社が知られたくない生保の話」「保険外交員も実は知らない生保の話」(日本経済新聞出版社)など。公式サイトはhttp://www.seihosoudan.com/とhttp://www.yokohama-baton.com/

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