モバイルノート最上位が対決、美しさではサーフェス
戸田覚のPC進化論
今回は、2016年2月の初めに登場した「Surface Book」とLet's noteシリーズの人気モデル「Let's note SZ」を比較してみたい。ターゲットにしているユーザー層は少し違うが、どちらもモバイルノートのハイエンド。上位モデルは30万円以上もする。話題の"新顔"Surface Bookと"定番"Let's note SZを比べることで、立ち位置の違いが明確に見えてくるのではないかと考えている。
果たしてSurface Book、Let's note SZは、それぞれどんなユーザーが買うべきモデルなのだろうか?
Surface Bookは液晶が美しい
まず、Surface Bookは液晶がすごい。13.5型という大型の液晶を搭載しつつ、3対2というシリーズに共通する縦横比を堅持している。液晶はワイド型ではないほうが絶対に使いやすい。13.5型のSurface Bookを使った印象では、16対9の14型を超える使いやすさだった。
さらに、3000×2000ドットという解像度もすごい。おそらく専用品なのだろう、緻密なだけではなく、視野角が広くて明るさも文句なし。一眼レフの写真を美しい画面で見たい人にも迷わずおすすめできる。Surface Bookには、GPUに「NVIDIA GeForce(1GB GDDR5)」を搭載するモデルまである。液晶に関してLet's note SZが勝っているのは、アンチグレア仕上げになっていることくらいだ。
カタログによると、Surface Bookの上位モデルのCPUは「第6世代Intel Core i7(Intel HD graphics)」、Let's note SZの上位モデルのCPUは「インテル Core i7-6600U vPro プロセッサー 2.60GHz」となっている。どちらもメモリーは最大16GB、SSDは最大512GBなので基本性能は引き分けとも言えるが、グラフィックスの差があまりにも大きく、Surface Bookの勝利は揺るがない。
ゲーマー向けのデスクトップパソコンならいざ知らず、ノートパソコンに、よくここまでの性能を盛り込んだものだと思う。なお、Surface Bookの最上位モデルをしばらく使ってみたが、さほど熱を持つことはなかった。
携帯性・拡張性はLet's noteが圧勝
Surface Bookの端子類は、少なくとも日本向きではない。外部ディスプレー出力がMini DisplayPortのみというのは、どうにもいただけない。Surface Proシリーズも同様なのだが、現状ではプロジェクターやテレビへの接続で苦労することになる。せめてHDMIコネクターは搭載してほしかった。
対してLet's noteは、いまや多くのユーザーが使わないであろう有線LAN端子を含め、コネクターが盛りだくさん。HDMIに加えてVGAも搭載し、USBポートも3基装備。さらに、光学ドライブまで内蔵している。Surface Bookはビデオ編集もできる高性能だが、編集したビデオをDVDやブルーレイに書き出すために外付けドライブを接続することになったら、ちょっと悲しい気持ちになるだろう。
もう1点、疑問でならないのが、Surface BookがSIMスロットを搭載していないことだ。これから買うタブレットや携帯ノートでは、絶対にモバイルデータ通信を利用したい。いろいろなモデルがある製品なので、一部でもいいからSIMスロットを搭載してほしかった。
携帯性でもLet's note SZが大差をつけている。モデルにもよるが、Let's note SZの重量は1kg前後。対してSurface Bookは、液晶が大きいというハンディキャップがあるとはいえ、キーボード込みで1.5kgを超えるのは重過ぎる。
さらに、Let's note SZのバッテリーパック(L)の駆動時間は、カタログ値で最長21時間となっている。対して、Surface Bookは動画再生時で最長12時間だ。
入力の選択肢多いSurface Book
Let's note SZのほうが本体サイズが小さいだけに、キーボードにもしわ寄せが及ぶかと思いきや、長年ノウハウを積み重ねてきたメーカーの製品だけあって、打ちやすくする工夫が施されている。キーストロークが2mmと深いのも好印象だ。Surface Bookは本体サイズが大きい分、キー配列、ピッチに余裕がある。また、ストロークは1.6mmだが十分に打ちやすい。両モデル共にたわみが少ない点も高く評価したい。
ということで、タイピングしやすさだけなら引き分けだが、実は、Surface Bookはペン入力に対応するという大きなプラスポイントがある。さらに、液晶を取り外して利用できるのもありがたい。普段はあまり使わないとしても、液晶を逆向きに取り付けてプレゼンテーションに利用したり、タッチ操作でウェブページや電子書籍を閲覧したりもできるのも便利だ。
キーボードだけならいい勝負だが、タブレットの良さを生かせるという意味で、入力性はSurface Bookに軍配を上げたい。
Surface Bookは誰が使うのか
細部の完成度はSurface Bookの圧勝だ。全体のデザインが非常に美しく、他のどのパソコンとも似ていない。液晶脱着モデルとしては考えられないほどスリムで、マグネシウムボディーの仕上げも素晴らしい。例えば、底面を見てもネジ1つ見当たらないのだ。
Let's note SZは、デザインや仕上げを割り切って堅牢(けんろう)性を高めており、それがアイデンティティーになっている。そこを高く評価するユーザーが多いのもご承知の通りだ。
ここでやや戸惑うのが、Surface Bookの使い道だ。マイクロソフトのウェブページでは、ビジネスユースに加え、ビデオ制作や3Dモデルの作成まで用途として紹介している。確かに、この性能なら動画編集も余裕でこなせるだろう。ただ、そんな用途にはMacBook Proが強力なライバルとして立ちはだかる。プロやハイアマチュアがビデオ編集に使うには、13.5型とはいえ画面が小さ過ぎないだろうか。MacBook Proの15型モデルなら、外部GPU搭載の最上位モデルでも28万円台で買える。ストレージは512GBでメモリーも16GBと性能も文句なしだ。
結局、クリエーターが使うとしても、Windowsを使う必要がある場合に限られるように思う。既にMacを使っているユーザーが乗り換えるとは考えづらい。誰がどう使うのがいいのか、方向性が見えにくいように思う。これは、長い間、モバイルノートとして、ビジネス向け用途を明確にしてきたLet's note SZと対照的だ。
僕がSurface Bookを使うなら、ビジネスクリエーティブに利用したい。プレゼンテーションのスライドに貼り付けるための動画を編集したり、高い処理性能が要求される手書きのノートをガンガン書き込むために使うのだ。
ただ、そう考えると、やっぱりもう少し携帯性に配慮してほしかったと思う。1.5kg台では、どうしても持ち歩く気になれない。あと300g軽く、さらにSIMスロットを搭載していれば購入したのだが……。
1963年生まれのビジネス書作家。著書は120冊以上に上る。パソコンなどのデジタル製品にも造詣が深く、多数の連載記事も持つ。ユーザー視点の辛口評価が好評。
[日経トレンディネット 2016年2月23日付の記事を再構成]
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