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ああ、憧れのTBSラジオ

立川笑二

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NIKKEI STYLE

師匠、兄弟子とともにリレー形式で行っているこの「まくら投げ企画」。3周目。今回の師匠からのお題は「あこがれ」です。

立川談笑、伊集院光、園子温、父親、猫のいる暮らし、テニスサークルに入っている大学生、両性愛者……私のあこがれの対象はたくさんある。

両性愛者なんて相当あこがれる。なぜか私は、男性が好きな男性から比較的モテる傾向にある(まぁ、その比較対象である女性からモテなさすぎるというのもあるけど)。

ただ、私は男性から迫られてもその気になれない。そのたびに、ほんの少しだけ残念な気持ちになる。

あまり共感できない人もいるでしょうが、大丈夫。

この話を理解してくれたのは、いまのところ、私の意見を否定できない立場にいる後輩たちしかいませんので。

目指せ最大公約数! 3投目! えいっ!

中学生のころから深夜ラジオが好きでよく聴いていた。

最初のきっかけは松本人志さんと高須光聖さんがやられていた『放送室』をたまたま聴いたこと。

明かりを消した部屋の中、布団に入って1人で聴くラジオの「俺だけが秘密の話を聞いている」という感覚にはまっていき、いろんなラジオ番組を聴くようになった。

特に大好きで聴いていたのが、現在も月曜25時(火曜午前1時)から放送しているTBSラジオの『伊集院光 深夜の馬鹿力』。この番組を聴くために、ラジオを録音できるプレーヤーを買った。リアルタイムで放送を聴きながら録音をしては翌週の放送までの間、何度も何度も聴いていたし、今でもこの番組は欠かさずに聴いている。

そんな中、去年の9月ごろにとてもうれしいお仕事の依頼があった。

TBSラジオの昼の帯番組「大沢悠里のゆうゆうワイド」への出演依頼である。

番組で「らくご異人伝」という企画を行うこととなり、内容は偉人と呼ばれている人のエピソードを、落語仕立てにして紹介するというもの。その紹介役を、私と兄弟子の吉笑が任されたのだ。

有名番組に出られるといううれしさもさることながら、あの伊集院光さんがしゃべっているスタジオに入れる! あの場所で私もしゃべることが出来る! あぁ、いとしのTBSラジオ!

と私は小踊りしながら喜んだ。

「坊主憎けりゃ袈裟(けさ)まで憎い」の逆で、「伊集院大好きならTBSラジオまで大好き」となっていた私にとって、いつしかTBSラジオという放送局そのものが憧れの対象になっていた。

当然、出演依頼は快諾。その数日後、番組のディレクターさん、吉笑、私の3人で打ち合わせをすることになった。打ち合わせの場所は居酒屋。

ディレクターさんが「気軽に飲みながら話をさせてください」ということなのでそうなったのだが、私は居酒屋での打ち合わせに一つ懸念を抱いていた。

その理由は、吉笑の異常なまでの酒癖の悪さだ。

酔っ払った吉笑は先輩、後輩、関係なく、無差別にけんかをふっかける癖がある。

私が師匠の次に好きな落語家は吉笑だ。2年間ルームシェアをしたこともある。ただ、そんな私でも吉笑と楽しくお酒が飲めるのは2軒目まで。3軒目からはたいてい、大げんかになる。

「今日だけは暴走しないでくれよ」と思いながらの居酒屋での打ち合わせは、ディレクターさんのプレゼンに対して、吉笑が色んなアイデアを出したことで大盛り上がり。「絶対にこの企画を通します」という言葉も頂戴した。

そうして、話がまとまったところでディレクターさんが「じゃあ、仕事の話はここまでにして、店を替えて飲みなおしましょうか!」という悪魔のささやき。

まぁ、事情を知らないのだから仕方がないのだが……。吉笑との悪夢のハシゴ酒が始まってしまった。

案の定、事件は3軒目で起こった。

酔っ払ったディレクターさんの

「吉笑さんは落語でノリノリになった時に口調が畳み掛けるように早くなっていくのですが、年配の方が多く聴いている番組ですので、なるべくゆっくりしゃべってくださいね」

という言葉が始まりの合図だった。

ベロベロになっている吉笑がその指摘に対して

「別に、ラジオだからといって普段のスタイルを崩すつもりはありませんね」

と、チクリ。明らかにムッとしている。

「いや、それは困るんです」と受けながらも、ディレクターさんは

「それから吉笑さんの創る新作落語はシュールというか、発想がとがっているネタが多いですけど、これもやっぱり放送ではわかりやすいものを創ってくださいね」

という第2の爆弾まで投げてきた。

「そこまでしてラジオに出たいと思いませんね」

吉笑、大爆発。

憧れのTBSラジオでの仕事がなくなりかけている! これはいけない! そう思った私が「やめましょうよ」と止めに入るも、「お前は関係ないだろ!」「笑二さんは黙っててください!」というマンガみたいなダブルツッコミが入って沈黙。そこからは

「そんな感じなんでしたら、出ていただかなくても結構です」

「こっちから願い下げだ!」

という最悪の幕切れとなった。あぁぁいとしのTBSラジオ……。

その日、吉笑の家の近所で飲んでいたこともあり、吉笑は徒歩で帰宅。

私はディレクターさんと駅に向かって2人で歩き出した。

しかし、どうしても私はTBSラジオでの仕事に未練が残っている。

そんな私が、お店から駅までの間、ディレクターさんを相手に行った作業としては、だだ一つ。

立川吉笑を切り捨てる!

これしか方法が思いつかなかった。情けないが、仕方がない。やるしかない。兄さん、ごめん! m( )m

「私はすっごくゆっくりしゃべります!」

「万人が喜んでくれるような落語を創ります!」

「どんな指示にでも従いますよ!」

と私は猛烈に最低なアプローチをしかけた。すると、ディレクターさんが立ち止まり真顔になって

「笑二くん、君は勘違いしてるよ」と。

「最近、僕みたいなディレクターという立場の人間にかみ付いてくる若手芸人はいないんだよ。吉笑さんのあの熱い一面を見て、僕は改めて今回の企画が間違いなく良い物になると思ったんだ。だから笑二くんもね、そんなふうに、おさまってたらいけないよ」

えーーーーっ! 俺が悪いんすか!? 仲裁しようとしたのに!? 俺だけはまともでいようと、3時間以上もずっとウーロン茶を飲んでいたのに!?あんな酔っ払いが正義なんすか!?

人の心は分からないもので、実際にこの企画は実現した。憧れのTBSラジオに入ることもできたので文句はないのだけど、なんとなく釈然としない出来事だった。

ちなみに、これは放送後に知ったことだが、この企画に本来私が出る予定はなく、吉笑が1人で出ることになっていたそうだ。そこを吉笑が「弟弟子の笑二も一緒に」と言ってくださったらしい。

おそらく吉笑は

「笑二は伊集院さんのラジオが好きだといつも言ってたな。TBSラジオに出られると知ったら喜ぶだろうな。笑二はかわいくて実力もある面白い弟弟子だしな。俺のギャラが半分になったとしても、あいつの喜ぶ顔が見られるのなら惜しくはないな」

と思ったのであろう。

 素晴らしい! あなたは兄弟子の鏡だ! あこがれの先輩だ!

 そしてなにより、切り捨てようとしたこと、本当にごめんなさい!

あなたが何かのきっかけで同性愛に目覚めようものなら、私も両性愛者になれるよう、努力だけはしてみます!

(次回4月6日は立川吉笑さんの予定です)

立川笑二(たてかわしょうじ)。1990年11月26日生まれ。沖縄県読谷村出身。2011年6月に立川談笑に入門。前座時代から観客を爆笑させ評判に。14年6月、二つ目に昇進。出囃子は「てぃんさぐぬ花」。立川談笑一門会(4月28日、5月27日)のほかにも、立川吉笑、立川笑坊ら一門、立川流の若手といっしょに頻繁に落語会を開いて研さんを積んでいる。ホームページは、http://tatekawashouji.com/

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