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転ばぬ先の不動産学

住宅業界の「2019年問題」 生涯、賃貸という選択 不動産コンサルタント 田中歩

2016/3/30

 不動産業界でささやかれる「2019年問題」という言葉の意味をご存じでしょうか? 19年をピークに日本の世帯数がピークアウトし、その後、減少の一途をたどることにより住宅価格に大きな影響を与えることになるといわれる問題です。

■住宅市場は大きな地殻変動の中に

 国立社会保障・人口問題研究所は19年の5300万世帯をピークに、35年には4955万世帯まで世帯数が減少すると推計しています(グラフA)。これまで通り住宅が供給されれば、当然ながら空き家は増えていくでしょうし、住宅の供給超過が続けば、必然的に住宅価格が下がっていくと考えられます。もちろん、すべての地域に当てはまるわけではなく、需要の高い地域とそうではない地域の差が大きくなっていくことが予想されています。

 このように、今、住宅市場はかつて経験したことのないような大きな地殻変動の中にあるのです。

 そんな中、「家賃を払うくらいなら買ったほうがよい」「家賃相当で返済できます!」といった言葉がよく聞かれます。確かに、毎月の元利返済額と家賃が変わらないのであれば、不動産という資産が残る「購入」のほうがお得と感じるのは当然ですよね。

 では、それが本当なのかどうかちょっとシミュレーションしてみましょう。

 次のように、首都圏の郊外にあるマンションを想定し、購入した場合と賃借した場合、50年間でどの程度の総支出になるのか調べてみました。50年間としたのは、35歳でマンションを購入し、ローン完済後、おおむね天寿をまっとうするまでの期間の総支出を予想しようという目的からです。

<購入>
購入価格:3000万円(諸経費考慮せず)
借入金:3000万円(30年返済、固定金利1%、年間元利返済額約116万円)
管理費・修繕積立金:年30万円(月額2万5000円)
固定資産税など:年12万円
<賃借>
家賃:月10万円(ただし2年に1度、更新料10万円を支払う)

 購入の場合の総支出は約5600万円、賃貸の場合は6250万円となります(表B)。これだけ見ても購入のほうが絶対にお得ですよね。購入の場合、マンションという資産が手元に残りますのでなおさらです。

 しかも、購入したマンション価格が下がらなければ、3000万円の資産を保有していることになりますので、実質的な総支出は2600万円だと考えることもできます。マンション価格がゼロ円になったとしても、購入のほうがお得なので、購入したほうが絶対に良さそうです。

 ところで、シンガポール国立大学の清水千弘教授は、著書「日本の地価が3分の1になる! 2020年東京オリンピック後の危機」(光文社新書)の中で、東京都の住宅価格は40年に10年比で約4割程度になると推計しています。

 この推計では、世界中の都市の不動産価格は「GDP成長率」「1人当たりGDP成長率」「現役世代負担率の変化率(働き手の割合の変化率)」によって形成されると分析しています。つまり、効率よく働ける稼ぎ手がいる都市は不動産の買い手や借り手が増えて、不動産価格が上がるという考え方です。

 仮に、これが事実だとした場合、さきほどのシミュレーションは次のように変化します。

 購入の場合の総支出額は約5300万円、賃借の場合は約3500万円となりました(表C)。マンション価格は4割になりますから、50年目には1200万円の資産として残っていることになります。従って、購入の場合の実質支出は4100万円となり、逆に賃借のほうが600万円ほど総支出は少ないという結果になりました。

 ちなみに家賃だけは30年間で5割までしか下がらないとした場合は、賃借の総支出は50年で約4000万円となりますから、賃借のほうが100万円ほどお得という結果です。

 東京都のすべて地域の住宅価格が今より4割価格が下がるというわけではないと思いますが、今後、不動産価格や賃料が下がる場所とそうでない場所がはっきり分かれてくる可能性はあります。

 従って、購入するのであれば立地を十分に吟味する必要があるということになりそうです。もし将来、値下がりしそうな立地を選ぶのであれば、賃貸住宅に住むというのも一つの選択肢だと思います。

■表面利回りに注目

 値下がりするかしないかの予想は非常に難しいのですが、あえていえば、表面利回りが10%を超える地域は値下がりする可能性が高いのではないかと感じています。表面利回りとは、対象となる物件の「家賃相場×12カ月分」を対象となる物件の「売買価格」で割り算することで求められます。

 一般に、投資において利回りが高いということは、将来のリターンに対する不確実性が高いということを意味します。今のうちは高いリターンが得られるかもしれないけれども、将来は賃料収入が大きく低下するか、あるいは空室が続く可能性が高く、思った以上に価格が大きく値下がりするかもしれないのです。だから、利回りが高くないと売れない物件と評価されているわけです。

 東京23区内の中古マンションにおける表面利回りは、リーマン・ショック直後が約7%程度、現在が5%前後となっています。一方、現在、10%を超える表面利回りになっている地域は、今後の発展があまり期待できないと思われる郊外や駅から遠い不便な立地が多いのです。とはいえ、現時点に限っていえば、一定の人口や世帯が存在するため、売買取引や賃貸借の取り引きが成立し、不動産価格や賃料が保たれている側面があるということなのです。

 地殻変動の中にある住宅市場の中においては、単に購入することがお得だという考え方ではなく、先ほど例として挙げたような基準を持って、購入すべき立地なのか賃借して住まうべき立地なのか考えてみることも必要なことではないでしょうか。

 もちろん、表面利回り10%超の立地の物件を買ってはいけないという話ではありません。ホームインスペクション(住宅診断)を通じて建物のコンディションを把握し、維持管理に努めることで今後の価格下落にある程度対抗することも可能だと思います。また、「購入する目的や意義をきちんと考えてから買う」ということも忘れてはなりません。金銭的価値とは別の「あなただけの暮らしの価値」がもたらされるはずですから。

田中歩(たなか・あゆみ) 1991年三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)入行。企業不動産・相続不動産コンサルティングなどを切り口に不動産売買・活用・ファイナンスなどの業務に17年間従事。その後独立し、ライフシミュレーション付き住宅購入サポート、ホームインスペクション付き住宅売買コンサルティング仲介など、ユーザー目線のサービスを提供。2014年11月から「さくら事務所(http://sakurajimusyo.com/)」執行役員として、総合不動産コンサルティング事業の企画運営を担う。

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