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本連載では、1回に一つの簡単なフレーズを紹介しながら、背景にある論理思考の考え方を解説し、同時に日常会話での上手な使い方を紹介していきます。
 通して読めばロジカルシンキングの基礎が身につきます。気に入ったものを一つでも口癖にできれば「最近、論理的になってきたね」と言われること請け合い。それが、ワンフレーズでできる「最強のロジカルシンキング」です。

感覚的に言葉を使っていませんか? 

「君、もっとロジカルに話をしてくれないか?」。皆さんは上司からそう言われたら、どのように話をしますか。

仕事に限らず、「論理的」「合理的」「ロジカル」という言葉をよく使います。「あの人の考えは論理的だ」「合理的に考えるとこうなる」「ロジカルに考えてそれはおかしい」といったように。ところが、「じゃあ、論理的ってどういうこと?」と問われると、多くの人は口ごもってしまいます。

案外、それが何を意味するかを知らずに感覚的に使っているケースが大半。お互いが意味しているものがズレているかもしれません。

一つ例を挙げましょう。以下は、太宰治の名作「走れメロス」の冒頭の部分です。平易な文章で書かれており、読めば理解できます。この文章をもっと論理的にするには、どのように加筆修正をしたらよいでしょうか。自分なりに少し考えてから次をご覧ください。

メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。メロスには政治がわからぬ。メロスは、村の牧人である。笛を吹き、羊と遊んで暮して来た。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。(太宰治『走れメロス』青空文庫)

手を加えると見違えるほどロジカルに

こんなことをするのは野暮なのは承知で私もやってみました(太宰さん、スミマセン!)。いかがでしょうか。何となく原文よりロジカルな気がしませんか?

一言で言えば、メロスは激怒した。そして、必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。にもかかわらず、メロスには政治がわからぬ。なぜならば、メロスは、村の牧人だからである。とりわけ、笛を吹き、羊と遊んで暮して来た。とはいえ、邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。

適度につなぎの言葉を挟み込むことで、個々の文章のつながりが分かりやすくなりました。その結果、メロスの感情や決意がどこから生まれてきたか、理解しやすくなりました。

ところが、これだけ加筆してもいくつか疑問が残ります。たとえば、「なぜ激しく怒ったのか?」についてはまったく説明がありません。

実は、その理由は後になって出てきます。人を信じられない王様が、親族や臣下を殺した後、一般人に人質を出すことを要求し、拒めば殺されてしまうからです。

中には、「どうして村人だと政治がわからないの?」と疑問を持つ人がいるかもしれません。当時の村人には教養がないという、暗黙の前提が書かれていないからです。というような解説を受けると、かなりスッキリしたのではないでしょうか。

10人中10人が納得する筋を通す

もちろん、こんな分析は愚の骨頂です。あえて謎を残したままにしておくことで、読者の想像力を喚起させるのが著者の意図だからです。

しかしながら、こうやってメロスの思考や行動の筋道を丹念に明らかにしていけば、ストーリーへの理解は格段に深まります。これこそが論理です。

論理(ロジック)の意味を辞書で調べると「思考の筋道」と書いてあります。それが明らかなさまが論理的(ロジカル)です。

いきなり「メロスは激怒した」とだけ言われても、筋道が分かりません。「勝手な思い込みで罪のない人を次々と殺している」と言えば筋が通ります。理由をすっ飛ばすと相手に伝わりません。

ただし、筋道といっても、どんな道でもよいわけではありません。10人中10人が「なるほど……」と思える筋道でないと理解してもらえません。

たとえば、<民が苦しむ> → <激怒する>というのは、多くの人が筋を認めるでしょう。しかしながら、<激怒する> → <殺す>というのは10人中10人とはいきません。「王を諌(いさ)める」「対抗措置を講じる」「見限って出ていく」といった他の筋道が考えられるからです。

ところが、ここに「メロスは、単純な男」という情報が加わればどうでしょうか。「他の選択肢を考えなかったな」と理解する人が増えるのではないかと思います。さらに、「きょうは、6人殺されました」となれば、「やむを得ない」「一刻を争う」とほとんどの人が思うのではないでしょうか。

あふれかえるロジカルシンキング"業界"用語

もちろん、いつも実際に10人に尋ねて何人が筋を理解できるか確かめる必要はありません。筋が成り立つためには、一定の条件やルールがあるからです。それらを満たしていれば、「筋が通っている」と判断されます。

それこそが論理思考(ロジカルシンキング)です。万人が認める筋の通し方を覚えて、みんなが認める筋道で物事を考えようというのです。だから、誰にでも伝わるわけです。

ところが、問題はここからです。大抵こういう話の次に出てくるのが、演繹(えんえき)法、帰納法、因果関係、三角ロジック、MECE(ミッシー)といったロジカルシンキング"業界"用語です。

小難しい話に脳みそがかゆくなって、挫折した方が多いのではないでしょうか。何とか頑張って理解しても、ディベートでもしない限り、実際の日常生活で使えるところはほとんどありません。第一、そんなものを振りまわすと「意識高い系だ!」と嫌がられるのがオチです。

多くの人が求めているのは、コンサルタントや弁護士が用いるような厳密なロジックではありません。「経験や直観ばかりに頼らず深く考えたい」「もっと分かりやすく自分の話を伝えたい」「一目で分かる文書をつくりたい」といった、思考やコミュニケーション上での悩みを解決したいのです。そのための "普段使い"のロジカルシンキングが求められているのではないでしょうか。

フレーズを覚えて口癖にしてしまおう!

そこで、お勧めしたいのが、筋を通すときによく使うフレーズを覚えて口癖にすることです。

具体的には、原文に書き加えた、「一言で言えば」「そして」「にもかかわらず」「なぜならば」「だから」「とりわけ」「とはいえ」といった言葉です。

これらは、<結論> → <理由>や<選択肢> → <優先順位>といった論理の接続を表したり、次に出てくる論理展開を前もって知らせる役目をしています。正しく使えば、論理が見違えるほど明確になってきます。フレーズを挟み込むことで、論理的に考えざるをえなくなります。演繹法だのミッシーだのは、それができた上での話です。

 「最強のロジカルシンキング」は木曜更新です。次回は4月14日の予定です。
堀 公俊(ほり・きみとし)
日本ファシリテーション協会フェロー、日経ビジネススクール講師
1960年神戸生まれ。組織コンサルタント。大阪大学大学院工学研究科修了。84年から大手精密機器メーカーにて、商品開発や経営企画に従事。95年から経営改革、企業合併、オフサイト研修、コミュニティー活動、市民運動など、多彩な分野でファシリテーション活動を展開。ロジカルでハートウオーミングなファシリテーションは定評がある。2003年に「日本ファシリテーション協会」を設立し、研究会や講演活動を通じてファシリテーションの普及・啓発に努めている。
 著書に『ファシリテーション・ベーシックス』(日本経済新聞出版社)、『問題解決フレームワーク大全』(日本経済新聞出版社)、『チーム・ファシリテーション』(朝日新聞出版)など多数。日経ビデオ『成功するファシリテーション』(全2巻)の監修も務めた。

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