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相続トラブル百科

贈与税の申告漏れに当局の目が光る 司法書士 川原田慶太

2016/3/25

 消費税率を予定通り8%から10%に上げるべきかどうかの議論が始まっています。2%の差が消費者の心理に大きく影響するのではないかと懸念されているのです。ところが個人が保有する資産への課税の場合には、そのような細やかな気遣いはほとんどみられないといってよいでしょう。

 代表選手ともいえるのが「贈与税」です。贈与税とは、一定の額(基礎控除110万円)を超える財産をもらった場合に、もらった側の人間が納めなければならない税金のことです。税率の最低ラインはいま問題となっている消費増税と同じ10%となり、最高税率でなんと55%に達します。

 課税の性質が異なるとはいえ、8%から10%に上がるだけで消費マインドにとって逆風になると騒がれるくらいですから、ましてや数十%もの重い税率は当事者にとってかなり深刻な問題です。個人間でまとまった額の資産を移動させようにも、たちまち贈与税の負担をどうするかという壁に突き当たってしまいます。

 いまは亡くなる人のうち80%以上が70代以上というのが日本の現実ですから、一般的な相続では、資産移転はシニア層からシニア層へしか起こりません。かといってシニア層から若年層へ生前の移転を進めるとなると、「高率の贈与税にどう対処するか」という問題が生じるのです。

 この問題に対して誤った行動を取ってしまう家庭も少なくありません。例えばよくあるのが「預貯金の操作」です。祖父母の預金口座などに入っているお金を、子や孫などの家族名義の口座にとりあえず移動させるというシンプルな手法です。

 本来であれば、まとまった額のお金が動いた時点で、受け取った側の子や孫に贈与税の支払い義務が生じるはずです。しかし税務当局としても、限られた調査コストの中で全家庭の細かな口座移動を逐一チェックはできません。相続などが発生して明らかになるまで、あくまで仮の状況ながら、おとがめなしの状態が続くことになります。「お金に名前は付いていない」とばかりに、すぐには事実が明らかにならない資金移動を行っている家庭は珍しくないのです。

 ただし、こうした資金移動は後日、トラブルの元凶になりかねません。もし故意に「預貯金隠し」をしたとすれば、悪質な課税逃れとみなされ厳罰を受けることもあります。とくに、相続税の調査対象となってしまった際などには要注意です。

 それだけではありません。国税庁は相続税調査に限らず、「あらゆる機会を通じて」贈与税の申告漏れを重点的に調べていくという趣旨のリポートを発表しました。

 2015年11月の最新報告によると、税務調査によって明らかになった贈与税の申告漏れの発見率は、実に91.6%の高確率です。しかも、そのうち7割弱は預貯金の申告漏れであり、他の有価証券、土地、家屋などに比べて突出しています。つまり「調査が来たらほとんどアウト、大半は預金の操作が問題となる」というのが実態です。

 15年にスタートした相続増税の流れを受け、増税後の調査活動がいよいよ本格化していきます。増税によって課税対象者が一気に増えるため、「庶民が相続税を払う日」というセンセーショナルな見出しがメディアに溢れたこともありました。さらには、「庶民が相続税調査を受ける日」や「庶民が贈与税調査を受ける日」がやってくるのも、そう遠い未来ではなさそうです。

 贈与税の問題については、まさに若年層が納税の当事者になるケースでもあり、無関係な問題ではありません。資金を口座間で単純に移動させることが適切でない以上、どのような処方箋が考えられるのか――。次回もこの問題についてとりあげてみたいと思います。

川原田慶太(かわらだ・けいた) 2001年3月に京都大学法学部卒。在学中に司法書士試験に合格し、02年10月「かわらだ司法書士事務所」を開設。05年5月から「司法書士法人おおさか法務事務所」代表社員。司法書士・宅地建物取引主任者として資産運用や資産相続などのセミナー講師を多数務める。

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