津田大介、ソニーの電子ペーパーリモコンは使えるか
これまでの学習リモコンと「HUIS REMOTE CONTROLLER」が大きく異なるのは、ボタンがないこと。すっきりしたスマートフォン(スマホ)のようなスタイルで、そのディスプレーには、電子ペーパーを採用しています。しかも、ソニーのクラウドファンディングサイト「First Flight」で支援されて実現した製品だとか。はたしてどんなプロジェクトだったのか、津田大介が迫ります。
毎日使うリモコンにかつてない便利さを
最近、事務所を引っ越ししたところ、やたらとリモコンが増えてしまった。テレビ、ハードディスクレコーダー、それからプロジェクターにプレイステーション4。エアコンや照明機器まで含めると相当な数だ。機器が増えると一元管理したくなるもので、複数の機器をまとめて操作できる学習リモコンが必要になった。何かいいものはないかと探したら、ソニーの学習リモコン「HUIS REMOTE CONTROLLER」が見つかった。
これまでにも学習リモコンは何台か使ったことがある。しかし、使いたいボタン(機能)が割り当てられなかったり、登録が面倒だったり。マニアックな悩みだが、録画を1.3倍速で再生するための長押し操作も登録したいが、普通の学習リモコンでは不可能だ。そのあたり「HUIS」はどうなのだろう。また、クラウドリモコンやスマホのアプリでリモコン操作できる時代に、単体のリモコン製品としてどんな魅力を込めたのか。
そこで、ソニー本社内にある「Creative Lounge」を訪れ、「HUIS REMOTE CONTROLLER」を開発した新規事業創出部HUIS事業室統括課長の八木隆典氏に話を伺った。
八木隆典氏(以下、八木) 「HUIS REMOTE CONTROLLER」は、「HUISプロジェクト」から生まれた新しいリモコンです。「HUIS」って"ハウス"と読むんですけど、オランダ語のハウス(家)という意味で、長崎のハウステンボス(huistenbosch)と同じつづりですね。
どうしてこういう名称かというと、このプロジェクトは、毎日使うものをより便利に、家のユーザーインターフェースを進化させたいというビジョンを掲げているからです。「Home User InterfaceS」を短くして「HUIS」なんです。
その第1弾としてリモコンに着目したのは、世の中いろいろ進化しているのに、ずっと昔から同じ形で変わっていないなぁと思ったから。10年後、20年後を想像すると、ちょっとちがう形なんじゃないか。そこで、なにか新しい提案ができないかと。
八木 現状の課題を聞くと、「複数のリモコンが散らばっているのをなんとかしたい」とか、「こんなにたくさんのボタンは使わない」といったご意見が多かったんですね。そこで、よく使うボタンをまとめて、自分に合ったリモコンがあったら、と考えてコンセプトをまとめていったのが「HUIS REMOTE CONTROLLER」です。
これひとつで、テレビ、エアコン、ライト、オーディオといった製品を操作できる学習リモコンなのですが、さらに使う人に合った画面をカスタマイズできるようにしました。たとえば、テレビ、エアコン、ライトの電源だけ欲しい。そうした使いたい機能を、ひとつの画面にまとめて表示できるので、「自分だけのオリジナルのリモコンが作れる」。それが、この商品の一番の魅力だと思います。
簡単カスタマイズでマイリモコンに
通常のリモコンは、赤外線で操作信号を本体に伝える。マルチリモコンは、最初から内部に主要メーカーの製品の赤外線信号が登録されている。学習リモコンは、登録されていない赤外線信号があっても、受信して覚えさせることができる。この「HUIS」はさらに、使いたいボタンだけ並べた画面を作る"カスタマイズ"までできるのがミソだ。
しかしそうは言っても、これまでの学習リモコンは登録が面倒で、マニアの人が使うものという印象だった。カスタマイズなど、簡単にできるのだろうか。
八木 ここでのカスタマイズは、よく使う機能をピックアップするイメージです。リモコンによって、よく使うボタンというのがあると思うのですが、そのボタンをひとまとめにする感じですね。
リモコンを登録するフェーズから「カスタマイズリモコンを作成」を選んで、登録してあるリモコン操作を選んでいくと、ひとつの画面に選んだ順番に並んでいきます。一番上にテレビ、次にライト、そしてエアコン、といった具合に、電源だけを並べるといったことができます。たとえば、テレビを見る時にはいつも照明を暗くして、空調を調節するという人なら、その操作をひとつの画面にまとめておけばいいわけです。使ってみてちがうと感じたら場所を入れ替えたり、いらないボタンをなくしたり。そういったことをできるだけ手軽に、パーツを並べるような感じでできるようにしました。
たしかに、いままでの学習リモコンでは、ここまで簡単に「マイリモコン」は作れなかった。これはマニア心をくすぐられる。しかも、こうした登録はスムーズで、すぐに自分仕様のリモコンができあがる。今後、パソコンを使って表示サイズを変更したり、好みの画像を背景にしたりするといったこともできるようにしていくという。
ファンディング事業だからこそ
八木 このプロジェクトは、当時入社2年目(現在、入社4年目)の同期6人が集まって、ソニーグループの新規事業創出プログラム(Seed Acceleration Program、通称SAP)という、既存の事業領域にない新規事業を実現するためのオーディションに応募したものです。メンバーは、私がプロジェクトリーダーで、メカやシステム、アプリ、UX(ユーザーエクスペリエンス)など、それぞれの担当がそろっています。事業室に集まって作業していますが、同期なのであだ名で呼び合ったりするので、まわりの人からは誰が誰だかわからないよ、とか言われてます(笑)。
流れとしては、第1回SAPオーディションに合格して、プロジェクトがスタートしたのが2014年11月。その翌年の7月に当プログラムから生まれたクラウドファンディングとEコマース(電子商取引)のサービスを兼ね備えたサイト「First Flight」というファンディング事業サイトで支援を募り、1000人弱の方にご支援いただいて、8月に目標支援金額達成となりました。すぐに「ワクワクしています」とか「昔から究極のリモコンがあればと思っていました」といった書き込みをくださる方もいて、開発中のものにコメントをいただけることってなかなかないので、すごい励みになりました。
八木 開発にあたっては、今話しているこの場所「Creative Lounge」や、外の会場を使って「タッチ&トライ」イベントを開催し、一般の方にもヒアリングして進めていきました。たとえば、電子ペーパーの視認性については、映り込みがないほうが良いということでノングレアのパネルを探したり。Creative Loungeには3Dプリンターや加工機材もそろっているので、ここで試作したりもしました。
八木 中でも、実際に支援してくださっている方と直接コミュニケーションできたことは大きいですね。通常は、ふんわりした感想やアドバイスが多いのですが、支援してくださっている方は製品のことがわかっているので、試作品を触ってもらうと、「画面遷移の時間が、あともう1秒早くならないか」とか、「ボリュームボタンの長押し対応が欲しい」など、本当に使う上で気になっている具体的なフィードバックをいただけました。開発の優先順位も、支援者の意見に応えることを一番に考えて。「First Flight」がクラウドファンディングだけでなく支援してくださった方の声も聞ける場だったことが、大きく役立っていると思います。
そして今年2月、ようやく製品を支援してくださった方々にお届けしたばかり。そのタイミングで、サイトで一般の方にも予約販売を開始しています。
サイトには届いた人から「すごくソニーらしい製品だと感じました」というコメントもあったという。こうした実験的な製品も、クラウドファンディングなら、反響を確認しながら開発できるのが心強い。
●今回のまとめ●
既存の事業領域を飛び越えた開発やチーム作りができるSAP、オープンな試作環境を提供する「Creative Lounge」、そして使い手と作り手を結ぶ自社サイトなど、自由闊達な雰囲気の開発環境ができている。そうした環境に支えられた若手6人の「HUISプロジェクト」から、「HUIS REMOTE CONTROLLER」ができあがっていく話を聞いていると、こちらまで楽しくなってくる。「HUIS REMOTE CONTROLLER」のカスタマイズもそうだが、自分がやりたいことを実現していく楽しさが感じられるのだ。
ちなみに、冒頭で書いた「録画を1.3倍速で再生するための長押し操作の登録」ができるか八木氏に聞いてみたところ、現状、上下キーのカーソルとボリュームの2つが長押し可能になっているので、技術的には可能だという。やるじゃないか「HUIS」。
概要がわかったところで、次回は、一番知りたい電子ペーパーを使うメリットについて掘り下げていこうと思う。
(編集協力 波多野絵理)
ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。「ポリタス」編集長。1973年東京都生まれ。早稲田大学社会科学部卒。大阪経済大学客員教授。京都造形芸術大学客員教授。テレ朝チャンネル2「津田大介 日本にプラス+」キャスター。フジテレビ「みんなのニュース」ネットナビゲーター。一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)代表理事。株式会社ナターシャCo-Founder。メディア、ジャーナリズム、IT・ネットサービス、コンテンツビジネス、著作権問題などを専門分野に執筆活動を行う。ソーシャルメディアを利用した新しいジャーナリズムをさまざまな形で実践。主な著書に『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)、『動員の革命』(中公新書ラクレ)、『情報の呼吸法』(朝日出版社)、『Twitter社会論』(洋泉社新書)、『未来型サバイバル音楽論』(中公新書ラクレ)ほか。2011年9月より週刊有料メールマガジン「メディアの現場」を配信中。
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