マネー研究所

男の家計改善

大切なお金と時間 知らねば他人に「搾取」される

日経マネー

2016/4/20

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日経マネー

 枝葉の節約もいいが、男なら太い幹の「構造」を知り、改善を考えるべし――。労働組合シンクタンクの生活経済研究所長野の事務局長を務める塚原哲氏が、アッパーミドル層の男性を対象に「骨太」の家計改善法を伝授する。最終回となる今回は、お金と時間を有効に使うための心構えについて解説する。

 今回は連載を締めくくるに当たり、筆者が常に意識していることについてお話ししたいと思う。

 日頃の講演を通じて大手企業の社員と接する中で感じたのは、世の中には次の2つのタイプの人間がいるという事実だ。

(1)他人のためにエネルギーを供給させられる人
(2)他人からエネルギーを供給される人

 大手企業の社員ですら、(1)が圧倒的多数で、(2)はごく少数だ。少々荒っぽい表現をするなら、(1)は常に、(2)の人生を支えるために“生かされている”ようなものだ。私が住宅ローンなどの負債にこだわってきたのは、そこには(1)と(2)の構造が端的に読み取れるからだ。

 住宅ローンを借りる人は、マイナス金利時代にあっても多くの利息を支払わなければならない。

 よって、2000万円を30年返済で借りる人は間違いなく(1)だ。仮に金利が1.70%[注1]だとすれば、利息約555万円を乗せてトータルで約2555万円を返済するわけだから、単純計算すると30年(約2555万円)のうち約6年半(約555万円)は他人のために自分の時間を費やしていることになる。厳しい言い方をするなら、他人のために働く「電池」にされてしまっているようなものだ。

 一方、2000万円を貸す人、すなわち約555万円の利息を受け取れる人は(2)だ。見方によっては、他人から6年半もの時間を受け取っているわけで、多くの「電池」を利用する立場だ。

[注1]執筆時における「フラット35」の東京都平均金利(手数料定額型)

■時間は平等ではない

 「時間は誰にでも平等に与えられている」といわれるが、実はこれは誤りだ。自分が自由に使える時間を考えると、(1)は少なく、(2)はたっぷりある。人生の貴重な時間を他人の人生のために供給しているのが世の中の大半で、わずかな人だけが他人の貴重な時間を自分のために消費させているという構造だ。

 そして(2)はその立ち位置を当然理解しているが、(1)はそれに気付くことができていないケースが多い。両者の間にお金が介在することで、「時間を供給させられている」という事実にすら気付きにくい状況に置かれているわけだ。

 当然、(2)は(1)を使う立場に居続けようとするため、(1)には本当においしい運用話など入ってくるはずもないのだが、一見おいしそうな話に乗ってしまうケースが後を絶たない。

 少々大げさに聞こえてしまうかもしれないが、筆者の人生の原動力は、「他人のために常々エネルギーを供給させられている多くの経済的弱者を解放する」ということにあり、本連載ではその具体策をつづってきたつもりだ。住宅ローンだけでなく、確定拠出年金(DC)、医療保険、投資信託なども、「知識のある人」が「知識のない人」を(1)の状態に誘導することができるという側面が強い。

 他人に対して無為にお金と時間を供給しないようにするためのポイントは「相互扶助」だ。

 例えば、本連載では図1のような「親族内ローン」を紹介したが、これは金融機関の住宅ローンを利用する代わりに子が親から直接お金を借りるだけで、外部へのキャッシュアウトが防げるという仕組みだ。(1)の親子でも、互いに協力することで双方が(1)の状態から解放されるのだ。

注)スーパー定期および住宅ローン金利は執筆時点のもの

 親族内ローンは親子間の相互扶助だが、その適用範囲を少し拡大して、集落で近所内ローンを作ったらどうなるだろうか。自分たちの集落からは1円もキャッシュアウトさせないというプランだ。

 実はこれは「頼母子講(たのもしこう)」と呼ばれ、遡ると鎌倉時代に端を発し、その後、「無尽(むじん)」や「結(ゆい)」という名前で各地で脈々と受け継がれてきた。これらはコミュニケーションが土台のため、大都市圏ではとうに廃れてしまったが、地方ではまだ現存し、例えば沖縄では「模合(もあい)」という呼称で日常的な習慣となっている。

 昨今は懇親会のきっかけ(場)として理解されているようだが、歴史を調べると特に離島ほどこの習慣が残っており、生き残りが難しかった時代の知恵として、「自分たちの島から極力キャッシュアウトさせない」という視点が自然に身に付いたものと思われる。

■払う人・受け取る人両方が得

 では、この考え方を応用して、同じ会社の社員が協力してキャッシュアウトさせない仕組みを作るとどうなるだろうか。社員間で相互に資金を融通していれば、社員の中には払う人と受け取る人が出てくるが、社外には1円たりともキャッシュアウトしない。

 相互扶助は「強い者が弱い者を助ける」的な情の問題として捉えられがちだが、金融のテクニックとしては相当にハイレベルで、払う人と受け取る人の双方が得をする。

 それを具現化したものとして、欧米でも「クレジットユニオン」と呼ばれる非営利のリテール金融機関が多数存在する。教会、学校、地域、職域など、共有の絆(コモンボンド)を持つ仲間が相互に資金を融通し合い、自分たちの外へは流出させない仕組みになっている。

 また、近年20代に広がるシェアハウスも住人全員が得をするという相互扶助の一つだ。形態は様々だが、例えば2016年3月に解禁された企業の就職活動のため、地方の学生が集まって東京都内にシェアハウスを借り、就職活動に掛かる交通・宿泊費を共同で削減する工夫などはその典型だろう。

 ここで、気付いた読者も増えたことだろう。親族内ローンのような相互扶助について、営利目的の金融機関が助言することはあり得ないという構造に。一般的な金融機関は(1)からキャッシュアウトするお金を利益の源泉としているからだ。

 本連載では住宅ローンの返済期間を短くすることの重要性を説いてきたが、受け取る利息が少なくなるようなアドバイスを営利目的の金融機関にできるはずがない。つまり、お金に関する話を金融機関に相談すること自体がそもそも構造的にナンセンスなのだ。

 読み返していただければお分かりになると思うが、本連載では営利目的の金融機関の職員が語れないお金(資金調達)の構造を自由に書くことができた。その点には感謝している。

 本連載が、一人でも多くの読者が(1)の側から解放されるきっかけとなれば幸いだ。

連載「男の家計改善」は今回をもって終了します。長い間、ご愛読ありがとうございました。

塚原哲(つかはら・さとし)
 労働組合シンクタンク「生活経済研究所長野」事務局長、CFP。全国の労働組合を対象に日本中を飛び回り、年200回もの講演を行うほか、「家計の見直しセミナー」もウェブ配信する。趣味はライブ観賞、ピアノ演奏など。

[日経マネー2016年5月号の記事を再構成]

日経マネー 2016年6月号

著者 :日経マネー編集部
出版 : 日経BP社
価格 : 730円 (税込み)

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