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「学生諸君、もっと頑張れ」 押井守映画監督が発破 第3回「星新一賞」 「人工知能作品」が一次選考通過

2016/3/26

第3回日経「星新一賞」を受賞した方

「学生諸君にはもっと頑張れと言いたい」。3月11日に東京・六本木の国立新美術館で開いた第3回日経「星新一賞」の授賞式で、審査員の映画監督、押井守さんが発破をかけた。

第3回「星新一賞」の応募総数は2561作品。今回から学生部門が新設された。若い人たちの理系的なアイデアや考え方に関心を持ってほしいと、一般部門から学生部門を独立させた。

「学生は受賞の機会が大きく広がったはずだ」と押井監督。内訳をみると、一般部門が1499作品、学生部門が349作品、ジュニア部門が763作品だ。確かに学生パワーが数の上ではいまひとつ振るわなかった印象がある。ただ、質の面では応募作品は十分に高かったし、審査員として手応えを感じた。

学生部門グランプリに輝いた「2045年怪談」の著者、松尾泰志氏

学生部門グランプリに選ばれた「2045年怪談」は、九州大学工学部に在学する松尾泰志さんの作品だ。

眼球上に装着するスマートコンタクトレンズによって、人は自らの感情を数値化して把握、それを周囲の人々に発信して生活するようになった。

無用の感情的な行き違いを回避、人間関係を円滑化する便利な装置だが、すべての人がこの装置に依存して生活するようになると、装着していない人はそこにいても認知されない「幽霊」のような存在になる。

ひとつの技術が社会基盤やコミュニティーを構成する不可欠な要素となった社会で、技術から距離を置く人や、技術進歩から取り残された人々はどう扱われるのか。非常に今日的なテーマをスマートコンタクトレンズというSF的な道具立てをうまく使って描きだした作品で、審査員全員から高い評価を得た。

着眼点の良さばかりではなく、短いストーリーの中で登場人物を生き生きと描き、ショートショートとしての醍醐味も十分な作品だといえる。

学生部門グランプリ「2045年怪談」(著者:松尾泰志氏)のあらすじ
他人のプロフィールと感情シグナルを読み取ることができる、スマートコンタクトレンズを誰もが装着している2045年。高校生のカズトは同級生のリナから、通学路で遭遇した幽霊について相談を受けた。「わたしは幽霊よ」と言ったその髪の長い女に、リナは恐怖を覚えたという。ふたりは幽霊がいるという廃屋に向かい、幽霊を名乗る女と出会った。女は、人間を識別するコンタクトの機能を逆手に取り、コンタクトをつけないことで「幽霊」として生きる人間だったのだ。
ジュニア部門グランプリに輝いた「無色の美しさ」の著者、新井清心氏

ジュニア部門も優れた作品ばかりだったが、グランプリに選ばれた新井清心さんの「無色の美しさ」には、審査員一同驚かされた。

審査員の宇宙飛行士、向井千秋さん(東京理科大学副学長)は「著者の無垢な気持ちが伝わるような作品」と評していた。授賞式で登壇した著者の新井さんが軽井沢で見た自然の美しさに触発されて書いたと話すのを聞いて、「なるほど、やはりそうだよね」と、納得がいった。

ジュニア部門グランプリ「無色の美しさ」(著者:新井清心氏)のあらすじ
とある会社が色の変わる水「マジカルインキ」を売り出した。それは水と植物でできたペンキのような代物で、またたく間に大人気に。ありとあらゆるものが、このインキの色で染められた。しかし、次第に問題が起こってくる。異常気象で、原料に必要な水の確保が難しくなってきたのだ。そこで社長は、ある決断をする。

最終審査には6人の審査員があたるが、著者に関する情報は一切知らされていない。性別も年齢も知らずに、作品の読後感から審査員はそれぞれ著者に対するイメージを膨らませる。授賞式で本人たちと初めて会って、想像通りということもあれば、予想外ということもある。その点も星新一賞の審査に携わる楽しみのひとつだ。

一般部門グランプリに輝いた「ローンチ・フリー」の著者、佐藤実氏

一般部門グランプリは佐藤実さんの「ローンチ・フリー」。地上と宇宙を結ぶ宇宙エレベーターを舞台にした話だ。著者の佐藤さんは東海大学理学部講師で宇宙エレベーターの研究歴がある。

審査員のSF作家、東野司さんは「電卓を片手に計算しながら読みました。きっちり計算はあっていました」と、授賞式の選評で述べた。論理的な一貫性がドラマの背骨になっており細部まで科学的な整合性が配慮されている作品だ。

審査員の牧野隆さん(IHI執行役員、航空宇宙事業本部副本部長)は長年、ロケット開発に携わり、「宇宙モノには点が辛い」と自称していたが、「リアリティーが感じられる」と、この作品に関しては高く評価した。まさに「1万字の中に見事なドラマ」(東野さん)がある作品だ。

一般部門グランプリ「ローンチ・フリー」(著者:佐藤実氏)のあらすじ
宇宙船の乗員になるために研さんを積んでいたものの、宇宙エレベーターが実現したために人生の目標を失った元宇宙飛行士が、人力クライマーで高度100キロメートルの宇宙を目指す。高度100キロメートルの直前まで到達するが、酸素不足のため撤退の判断を迫られる。葛藤の末、撤退を決断したそのとき、ケーブルが切断したという警報音が鳴って……。

東野さんは審査全体を通じての総評で「ショートショートやSFの枠組みを超えて、文学性を備えた作品もあり、作品の多様性がとても豊かだ」と述べた。この点はすべての審査員が感じたことだと思う。

審査員の真鍋真さん(国立科学博物館地学研究部グループ長)は「科学や技術が社会に与えるものは何かという視点が常にある」と話す。科学や技術の夢を語ることより、科学や技術の力を持て余す人間の滑稽さや、生み出される皮肉なてん末を描くところに星新一の真骨頂があった。その点で、この賞は星新一の「ココロ」のようなものをしっかり継承しつつあるとも言えるだろう。

今回の募集・選考で話題だったのは、人工知能(AI)だ。星新一賞は創設当時から人工知能の応募を前提としてきた。人工知能が小説を書き賞に応募するという未来像は星新一賞にふさわしいと考えられたからだ。1、2回目は応募がなかったが、公立はこだて未来大学の松原仁教授が第3回に応募すると公言したことから、主催者側の事務局も応募に備えてきた。

最終選考に残った人工知能作品は一つもなかったが、事務局によると11作品が人工知能を使って、あるいは人工知能が関与して書かれたとみられ、そのうち複数作品が1次選考を通過したという。

最終選考に残った作品以外は応募作を公表しない決まりなので人工知能作品は姿を見せない幻の作品になるかと思われたが、3月21日に松原教授ら2つの研究チームが報告会を開き、応募した4作品を公開した。

報告会に招かれたSF作家の長谷敏司さんは「きちんと小説になっている。60点の出来」と意外なほど良い出来に驚きを隠さなかった。

ただこれには事情がある。松原教授らが進める「気まぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ」からの応募作は、物語の設定や構成要素を人間が用意し文章の生成だけを人工知能が担当したのだ。究極的にはストーリー作りからすべてを人工知能に委ねるのが目標だが、現状ではそこまでいっていない。

人工知能にたくさんの小説を書かせて、小説として読めるもの、面白いものを数値評価し選ぶプロセスを繰り返せば、将棋や囲碁と同じように「機械学習」を通じてより優れた作品を生み出す人工知能が誕生するはずだ。ただ現状では「評価ができない」(開発を担当した佐藤理史・名古屋大学教授)のが最大の課題。「入選までは道は遠い」と松原教授も認める。

とは言え、まず一歩を踏み出した。囲碁の場合もプロに勝つには10年はかかると言われてきたが、あっけなく常識を覆した。人材や資金が投入されていけば、小説を書くだけではなく読んで評価する人工知能が生まれるに違いない。

もうひとつ。繰り返し応募していただく「常連」とも呼んでもよさそうな著者が登場してきたことも、審査に携わる一員としては今後の楽しみだ。今回、一般部門の優秀賞「第37回日経星新一賞最終審査-あるいは、究極の小説の作り方-」を受賞した相川啓太さんは星新一賞の第1回で準グランプリ、第2回でグランプリの受賞者だ。ジュニア部門の優秀賞「虫食い」の著者、黒沼花さんは第2回でも優秀賞を受賞している。

(論説委員 滝順一)

日経「星新一賞」とは
星新一氏が残した創造性にあふれる作品は、現実の世界で科学に取り組む人たち、未来を創ろうとしている人たちを刺激してきました。日経「星新一賞」は形式やジャンルにとらわれない理系的な発想力・想像力を問う新たな文学賞として2013年に新設。第3回の最終審査員は東野司(SF作家)、押井守(映画監督)、向井千秋(東京理科大学副学長、宇宙航空研究開発機構技術参与、宇宙飛行士、医師・医学博士)、真鍋真(国立科学博物館、地学研究部 グループ長)、牧野隆(IHI執行役員、航空宇宙事業本部 副本部長 (兼)宇宙開発事業推進部長)、滝順一(日本経済新聞社論説委員兼編集委員)の6氏で、一般部門グランプリの賞金は100万円。「星新一賞」の公式サイトはこちら

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